ICCROM講演シリーズ「文化遺産のための情報とデータ管理」からの学び:柔軟な文化遺産データベースを運用・発展させるための戦略
Insights from the ICCROM Lecture Series "Information and Data Management for Cultural Heritage": Strategies for Operating and Developing a Robust Cultural Heritage Database
1. はじめに
本稿は、ICCROM[1]が2023年2月23日にオンラインで開催した「情報データ管理と文化遺産」と題するウェビナーについて報告するものです。このウェビナーでは、データベースを活用した文化遺産の管理に携わる6名の専門家が登壇し、それぞれの経験から得られた洞察、ベストプラクティス、直面した課題とその解決策について短いプレゼンテーションを行いました。文化遺産の保存におけるデータ管理の重要性について議論が交わされ、録画されたウェビナーは以下のリンクから視聴可能です。(https://www.iccrom.org/events/information-data-management-and-cultural-heritage)。
英語で行われたため日本からの参加は限定的でしたが、世界中から多様な参加者が集まったことから、文化遺産の専門家の間でこのテーマに対する関心の高さが明らかになりました。本報告では、ウェビナーの概要を提供し、このテーマへの関心をさらに喚起することを目的としています。
2. ウェビナーの構成と登壇者
(1)ウェビナーの構成
文化遺産の管理にデータベースを活用するには、情報管理に関する専門知識が必要です。しかし、普段はデータベースの実務に携わらない文化遺産の専門家にとって、このウェビナーの発表内容や議論を理解することは簡単ではありません。そこで、参加者の理解を深めるために、モデレーターとプレゼンターが事前に入念に打ち合わせを行い、ウェビナーの構成を綿密に計画しました。
ウェビナーは、まず文化遺産に関するデータ管理に取り組む際に直面する可能性のある「失敗」のリスクについて、仮想プロジェクトの失敗例を用いて説明することから始まりました。この課題を中心に、6名のプレゼンターがそれぞれの事例や経験から得られた知見を共有しました。このような構成により、プレゼンテーション同士に関連性を持たせ、一貫したテーマを維持しながらも、各専門家が多様な視点やアプローチを紹介することができました。こうした幅広い意見交換は、参加者にとって非常に有益で刺激的な内容となり、文化遺産のデータ管理における新たなアイデアや解決策を提供してくれました。また、このウェビナーは専門家同士の交流の場にもなり、将来の共同研究やプロジェクトの可能性を探る貴重な機会となりました。
プレゼンテーション後の質疑応答セッションでは、参加者から専門家に対して様々な質問が寄せられ、さらに掘り下げた議論が行われました。これにより、知識の共有と理解の深化が図られ、このトピックに対する関心がより一層高まる結果となりました。
(2)ウェビナーのプレゼンター
司会進行は、ICCROMのスタッフであるアリソン・ヘリテージ(Alison Heritage)が担当しました。彼女はウェビナーの目的を明確に伝え、各プレゼンテーションの間を適切に橋渡しし、全体の流れをスムーズに進行しました。また、質疑応答セッションでは、登壇者と参加者の間で活発で有意義な対話が行われるよう、巧みに調整しました。
登壇者は以下の方々です:
・井川博文(ICCROM、イタリア)
・ジョセフ・パドフィールド(ナショナル・ギャラリー、保存科学者、英国)
・アナベル・リー・エンリケス(Arches / ゲティ保存研究所、米国)
・アスカニオ・ダンドレア(ヘルクラネウム保存プロジェクト、イタリア)
・マリア・エレナ・コラド(中央修復研究所、イタリア)
・高田祐一(奈良文化財研究所、日本)
・ペーテル・ヤナセ(奈良文化財研究所(当時)、日本)
各登壇者は、文化遺産の管理におけるデータベースの活用について、それぞれの専門分野や経験に基づいた貴重な知見を共有しました。
3. プレゼンテーションの概要
各プレゼンテーションの要点を紹介します。もし、これらの要点を読んで、プレゼンテーションの内容により興味を持たれた場合は、ぜひ録画をご覧ください。きっと有益な情報が得られるはずです。(https://www.iccrom.org/events/information-data-management-and-cultural-heritage)。
(1)経験からの学び―井川博文(ICCROM)
各専門家からの発表に先立ち、文化遺産に関するデータ管理に取り組む上で直面する可能性のある「失敗」のリスクについて、仮想のプロジェクトを例に説明を行いました。この仮想プロジェクトは、文化遺産のアセスメントのためのデータベース構築を目的としています。プロジェクトの初期段階では、データベース管理に対する高い期待が関係者から寄せられますが、実際の実施においては以下のような現実的な課題に直面することがあります。
• ユーザーからの多様な意見: ユーザーのフィードバックを取り入れることは重要ですが、意見が多岐にわたると要件が複雑化し、最終的に要件の統合が難しくなってしまうことがあります。
• 開発者からの質問: 開発者はデータベースの目的や設計に関する具体的な質問を数多く投げかけます。しかし、時には明確な答えが出せない質問も含まれていることがあります。
• コミュニケーションのギャップ: 複雑化した要件と開発者の疑問を適切に調整することは容易ではありません。開発チーム内での合意形成が困難になり、プロジェクトの進行が停滞してしまう可能性があります。
最後に、効果的なコミュニケーション、共有されたビジョン、そしてシンプルさの重要性が強調されました。過度な複雑さはプロジェクトの進行を妨げる一方で、協力的なアプローチこそが成功への鍵となります。
このような「失敗」のリスクを認識した上で、各専門家がそれぞれの事例や経験から得られた知見を共有することで、参加者は文化遺産のデータ管理における課題とその解決策について理解を深めることができたようです。
(2) インフォーメーションデータマネジメントと文化遺産:データとデータベース - どこから始めるか?―ジョセフ・パットフィールド博士(Dr. Joseph Padfield)
英国ナショナル・ギャラリーの著名な保存科学者であるジョセフ・パッドフィールド博士は、「データベース:どこから始めるか?」というタイトルで洞察に富んだ議論を展開しました。博士は、Wikipediaなどの有名な情報源を引用しながら、データを一意の意味を持つ値の集合体として詳細に定義しました。そして、メタデータの役割について詳しく説明し、主要なデータに文脈を提供するその重要性を強調しました。
博士は、文化遺産機関の領域において利用可能なデジタルリソースの幅広さを強調しました。これには、歴史的文書や手書きのメモ、分析機器から得られるデータ、そして多くのデジタルコンテンツが含まれます。これらのデジタル資産は、様々なファイル形式で存在しており、情報管理には取り組むべき課題と活用できる機会があることを示唆しています。
博士は、データベースの範囲を明確にすることの重要性について説き、明確な目的なしに大規模なデータベースを作成することのリスクについて警告しました。デジタルの世界は、理論的には無限の知識を持つデータベースを設計する可能性をもたらしますが、データベースの設計は現実的なニーズと目的に合わせる必要があります。
さらに、セマンティックモデリングやリンクされたオープンデータの概念にも触れられました。これらの先進的な手法は、データの相互接続性や将来性を提供していますが、博士は明確な要件なしにこれらの複雑さに飛び込むことを避けるよう助言しました。
データベースの対象者や目的は、その設計や機能において重要な役割を果たします。博士は、データのプライバシーに関する課題、特にGDPR(General Data Protection Regulation、一般データ保護規則)の文脈での個人データについての課題を強調しました。
GDPR は、欧州連合(EU)が2018年5月に施行した個人データの保護に関する法規制であり、EUの市民および居住者の個人データの収集、処理、保存、移転に関する厳しい要件を定めています。文化遺産機関においても、個人情報を含むデータを取り扱う際には、GDPRを遵守する必要があります。例えば、美術館が来館者の氏名、連絡先、クレジットカード情報などを収集する場合、それらの情報の取り扱いについてGDPRに基づいた適切な措置を講じなければなりません。
博士がGDPRに言及したのは、文化遺産機関がデータベースを設計・運用する際に、個人データの保護という観点を忘れてはならないことを強調するためだと考えられます。
また、技術的な側面では、データベース設計のための実用的なツールの選択の重要性について触れました。特に、文化遺産分野でのコミュニティのサポートの重要性や、ソフトウェアの変更に対応するためのデータエクスポートの重要性についても言及しました。
ジョセフ・パッドフィールド博士は、データベース設計と管理の領域における深い洞察を持つ専門家として、その多面的な側面に関する包括的な概観を提示しました。博士は、理想的な完璧なシステムの追求は終わりなき挑戦であるとの認識を示しつつ、実用的なアプローチの採用を強く推奨しました。今回の発表における博士の主要なメッセージは、理論的な完璧さを追求するのではなく、具体的な目的やニーズに応じた効果的なシステムを構築することが専門家としての責務である、ということでした。
(3) Arches-文化遺産データマネージメントのプラットフォーム―アナベル・リー・エンリケス(Annabel Lee Enriquez)
1.Archesとは
ゲッティ保存研究所のプロジェクトスペシャリストであるアナベル・リー・エンリケス氏は、「Arches-文化遺産データ管理プラットフォーム」を紹介しました。Archesは、ゲッティ保存研究所と世界遺産基金が協力して開発したオープンソースのデータ管理プラットフォームで、建造物の遺産目録を適切に管理することを目的としています。
Archesは、文化遺産分野で広く存在する課題に対処するために考案されました。その課題とは、包括的な情報システムを開発するために必要な資源と専門知識が、文化遺産の分野では不足しているというものです。Archesは公開されて以来、文化遺産データ管理の多様なニーズに対応する多目的なツールへと進化しています。
2.Archesの特長
Archesはオープンソースで、ライセンス費がかからないため、世界中の専門家の間で利用が広がっています。また、オープンソースであるArchesは、文化遺産の専門家とソフトウェア開発の専門家の両者で構成される活発なコミュニティによって支えられています。
Archesの主な特長は以下の通りです:
・データの検索と可視化
GIS、セマンティック、タイムライン、データ同士の関係性などについて、多様な検索結果の表示や可視化が可能です。
・管理機能の充実
入力規則の制御、アクセスレベルのコントロール、動的なユーザーインターフェースの生成など、管理機能が充実しています。
・FAIR原則への準拠
Archesは、FAIR原則(Findable, Accessible, Interoperable, Reusable)に従ってオープンデータを適切に公開しています。これは、データを容易に見つけることができ、アクセスしやすく、他のデータやアプリケーションと統合でき、そして再利用可能であることを意味します。
・多様な活用事例
Archesが文化遺産の専門家に広く受け入れられていることは、30以上の言語をサポートし、世界中で100以上の組織が利用していることからも伺えます。活用事例は非常に多様で、ミゲルの洞窟における環境変化のモニタリング、文化遺産の3Dデータに関するリポジトリの作成、保存科学に関するデータ分析や可視化ツールとしての活用など、幅広いアプリケーションが存在します。
最後に、アナベル氏は文化遺産保護におけるデータ管理の分野では、堅固なコミュニティに支えられた持続可能で実用的なツールが重要であると強調しました。また、データベースを文化遺産の保護のために活用する上では、既存のツールや方法論を利用することが望ましく、選択した方法が信頼性が高く、ニーズに合わせてカスタマイズされていることを確認すべきだと述べました。
(4) データの認識と効果性:文化遺産のデータ管理のためのツールと方法―アスカニオ・ダンドレア(Ascanio D’Andrea)
アスカニオ・ダンドレア氏は、考古学者としての背景を持ち、GIS(地理情報システム)の専門家としても知られています。彼はトラヤヌスの市場やヘルクラネウムなど、世界各地の考古学プロジェクトに関与してきました。彼の経験は、発掘調査の管理におけるGISやその他のデジタルツールの使用に関するもので、このプレゼンテーションでは、文化遺産のデータの継続的な維持の重要性に焦点を当てています。
1. データの認識と効果性について
ユーザーと彼らが利用するツールとの間には、深い関係性があります。文化遺産の価値を高めるためには、効果的なデータ管理が鍵となります。そのためには、データの認識とその有効性をうまく組み合わせることが必要です。効果的なデータ管理の本質は、データとそれがもたらす利益との関係性を理解することに基づいています。データの持続的な有用性を確保するための主要な目標は、データとその関係性を理解し、後世にその価値を伝えることです。
2. 文化遺産プロジェクトにおける学際的な協力関係の構築
文化遺産のプロジェクトには、考古学者、コンサベーター(保存修復家)、建築家、科学者など、多様な専門家が関わることが多いです。これらの様々な専門家の知識を統合することで、データの包括的な収集と管理が可能となります。データの収集はデータベース構築の基本となる作業ですが、それだけでは不十分です。収集した文化遺産データに対する人々の理解や認識を高めることが重要なのです。
3. データの収集からデータの持続的な管理への移行
データの収集はデータベース構築の基本となる作業ですが、より重要なのは、収集した文化遺産データに対する人々の理解や認識を高めることです。そのためには、データベースはユーザーにとってより使いやすいツールで補完される必要があります。データベースに対する人々の理解や認識が高まることで、データが持続的に管理され、将来的にも継続的に使われ続けられる環境が整うことになります。
4. データ管理のツールと技術
デジタルツールの性能を最大限に引き出すためには、計画的なアプローチが必要です。このアプローチには、データのカテゴリーや種類(クラス)と、それらの具体的な例(インスタンス)を明確に区分することが含まれます。このようにして、データ管理のための明確なフレームワークや構造(スキーマ)が形成されます。このフレームワークを使用することで、地理的な情報を含む詳細なデータベースがユーザーに提供されることになります。
最後に、アスカニオ氏は、今後の世代が文化遺産のデータをどのように活用していくのかを考慮することが重要だと強調しました。
(5) 文化財・観光省のデータベース間の相互運用性について ― 国土情報システム「Vincoli in Rete」について ― マリア・エレナ・コラド(MariaElena Corrado)
マリア・エレナ・コラド氏は、記念物の保存と集落の修復を専門とする建築家であり、文化省内におけるデータベースの相互運用性についてプレゼンテーションを行いました。彼女の焦点は、2012年に開始された「Cultural Heritage Online」(イタリア語で「Vincoli in rete」、略してVIR)というシステムでした。このシステムは、文化遺産の領域におけるデジタルイノベーションを促進するために、公共行政革新省が実施した幅広い取り組みの一環でした。
VIRは、いくつかの中核的な目的を念頭に置いて設計されました。その主要な目標の1つは、さまざまな国家データベースを一元化し、統合することでした。この一元化は、異なるデータセットにアクセスし、相互参照できる統一されたプラットフォームを提供することを目的としていました。このプラットフォームをユーザーフレンドリーにするために、WGS 84座標系が採用され、Google マップがデフォルトの基本的な地図ツールとして使用されました。この選択は戦略的なものであり、ユーザーの技術的専門知識に関係なく、システムを容易に操作できるようにすることを保証するものでした。
CH Onlineには、いくつかのデータベースが統合されています。これには、The Catalog、BENITUTELATI、Risk Map、SITAP、SECURARTが含まれます。これらの各データベースは、それぞれ独自の目的を果たします。
• The Catalog:これは記念物にとって中心的なデータベースであり、オブジェクトの普遍的な識別に不可欠な一意のカタログ番号を提供します。
• BENITUTELATI:このデータベースは、公的財産の文化的関心の検証プロセスと、私的記念物の保護のために作成された私的法令に関する情報を提供します。
• Risk Map:この機能は、文化遺産に関連するリスクを評価するように設計されています。脆弱性と外部要因の組み合わせに基づいてリスクを計算することで、地域の脆弱性を評価します。
• SITAPとSECURART:これらのデータベースは、それぞれ景観保護と緊急事態に焦点を当てています。
コラド氏は、VIR内の相互運用性の重要性を強調しました。このシステムは、省内のデータベースと、大学、市民保護機関、消防士、その他の関連機関などの外部組織との円滑なコミュニケーションを可能にするように設計されています。このような相互運用性により、データの交換と協力がシームレスかつ効果的に行われることが保証されます。
VIRの際立った特徴の1つは、システムに入力されたすべての手続きに対して、自動的に人物情報フォームを生成することです。これらのフォームの主要な要素は一般に公開されていますが、スキャンされた法令などの特定の機密情報は、公務員に限定されています。
VIRのもう1つの重要な側面は、The Catalogとの相互運用性です。この統合により、各エントリーに一意のカタログコードを割り当てることで、データの重複が回避されます。さらに、The Catalogは、標準化された語彙と辞書を提供し、データ入力と解釈の一貫性を確保します。最近、このシステムは、美術品の識別と位置特定を支援するために、可動資産とコンテナを含むように拡張されました。
VIRのRisk Map機能は、特別な言及に値します。それは、地域の脆弱性を評価する上で重要な役割を果たしています。しかし、コラド氏は、VIRの使用に関して注意を促しました。それは非常に貴重なツールですが、公式の認証には適していません。システムから抽出されたすべてのデータは、公式の使用の前に適切な当局によって検証されるべきです。
結論として、コラド氏はVIRの多面的な有用性を強調しました。それは単なるデータベースではなく、保存、監視、管理のための強力なツールです。公務員、地域管理者、専門家、緊急対応者など、VIRは文化遺産に関する重要な情報への迅速なアクセスを提供し、文化遺産保存の分野で不可欠なリソースとなっています。
(6)(6) データベースの長期的な有用性を維持するためのヒント ― 使われなくなる(役立たなくなる)ことを防ぐために ― 高田祐一、ペーテル・ヤナセ(Peter Yanase)
奈良文化財研究所の高田祐一氏とペーテル・ヤナセ氏は、データベースの持続性を確保するための戦略についてプレゼンテーションを行いました。発表の中心となったのは、日本の埋蔵文化財に関する包括的なデータベース「総覧」についてです。このデータベースは、日本の考古学的データと情報の主要なリポジトリとして位置づけられています。現在、約140,000件の発掘調査と110,000件の報告書データが含まれており、そのうち30,000件はPDF形式で閲覧可能となっています。
彼らは、国立研究開発法人産業技術総合研究所と協力して、3D遺産データをマッピングする新しいプラットフォームを立ち上げました。このプラットフォームを使用すると、ユーザーは富士山などの象徴的な場所を中心に文化遺産サイトを探索することができます。さらに、この3Dデータを使用して、埋蔵文化財の所在地を示す詳細な現地調査レポートにアクセスすることができます。
高田氏とヤナセ氏は、データベースを利用可能なリソースに合わせて適応させることの重要性について述べました。2015年以降の総覧の利用者数の増加について指摘するとともに、徐々に機能やデータが追加されてきていることを説明しました。また、データベース内のすべてのデータを統合し、他のデータベースとのメタデータ共有を促進することも重要視されています。
オープンアクセスを優先することで、ユーザーエンゲージメントが広がります。さらに、言語の障壁を克服し、国際的な協力関係を構築することで、よりアクセス性を高めることができます。高田氏は、データベースが継続的に発展するためには、アクティブなデータプロバイダーが不可欠であり、これらのプロバイダーを奨励し、データのダウンロードプロセスを簡素化することの重要性を強調しました。
また、データベースのユーザーベースを拡大するためのマーケティングと協力の重要性についても言及しました。データベースを知っている人が多ければ多いほど、それがより多くのサポートを受ける可能性が高まるというわけです。ヤナセ氏は、データの品質を継続的に向上させることの重要性を強調し、高品質で自由にアクセスできるデータは、たとえデータベースプラットフォームが中止されたとしても存続し、ユーザーに利益をもたらすと述べました。
ディスカッションセッションについて
各パネリストの発表を受けて、聴衆の質問を取り入れながら、文化遺産保護の情報マネジメントに焦点を当てた議論が展開されました。
ジョセフ・パッドフィールド博士は、データベースの効率性のメリットについて触れました。組織がすでに取り組んでいる作業においても、データベースは作業の流れを効率化し、時間とコストの削減が期待できると彼は明言しました。しかし、データベースが進化し、使い勝手が向上すると、その反面、追加の時間やリソースが求められ、初めの効率性が低下するリスクもあると彼は指摘しました。
議論の中心となったのは、特にモバイルデバイスへのデータベースの適用に関する点でした。ジョセフ・パッドフィールド博士は、モバイル向けのデータベースの需要が増している現状を認識しつつ、接続の問題点を強調しました。多くの地域、特に遠隔地での安定した接続が確保されていないことは、リアルタイムでのデータアクセスや同期の障壁となっています。
続いて、議論は新しい技術、特に人工知能(AI)やブロックチェーンにシフトしました。これらの技術は期待されているものの、それぞれ固有の問題点を抱えています。ジョセフ・パッドフィールド博士は、AIの信頼性に関する課題を率直に取り上げました。正確な情報を入力しても、AIが一貫性のない、あるいは誤った結果を返すケースに触れました。一方、ブロックチェーンは、複数のプラットフォームでのアイデンティティ管理の可能性として取り上げられましたが、文化遺産のデータ管理における具体的な利用方法は、まだ大部分が探求されていない状態です。
Archesの開発チームのメンバーであるアナベル氏は、同プラットフォームの適応性についての見解を共有しました。彼女は、新しい技術を組み込むことができるArchesのモジュラー設計を強調しました。この革新的な取り組みにより、プラットフォームは常に最新の状態を保ち、技術の進化をデータ管理に取り入れることができます。
ペーテル氏と高田氏は、文化遺産データの画像検索におけるディープラーニングの活用に関して、彼らの実践的な経験を話しました。彼らが試みたこのAI技術の利用は、特に検索性能の向上において、期待以上の成果を上げています。
議論の中でも特に印象的だったのは、データ管理に関する倫理的な視点でした。リスクマップシステムの実践を背景に、マリア・エレナ氏は継続的な改良の必要性を訴えました。彼女は、技術が進歩する中で、データのプライバシーや知的財産権などの倫理的側面も変わっていくと指摘しました。主な挑戦は、データの公開と機密情報の保護の間のバランスをどう取るかです。
全てのパネリストが、データ管理システムの持続可能性と寿命を保つための基準の尊重に同意しました。国際的な基準を守ることで、データベースは他のシステムとの連携を保ち、データの移行や統合を円滑に行うことができます。この基準の遵守により、技術が変わってもデータは有効であり続けます。
まとめ
本ウェビナーは、文化遺産データ管理の現代的な課題とその解決策に焦点を当てて開催されました。参加者には、データベース技術の最新の進化や、モバイルデバイスへの最適化、さらには新しい技術の導入といったトピックに関する深い洞察が提供されました。
データ管理の持続可能性をどのように確保するか、データの公開範囲をどこまで広げるか、そして国際的な基準をどのように適用するかといったテーマも議論されました。これらの問題は、文化遺産データを管理や保存する際の核心的な課題となっており、関連する専門家や研究者にとっては避けて通れないテーマです。
また、技術の進化がもたらすデータのプライバシーや知的財産権に関する新たな問題点にも触れられました。これは、現代のデータ管理において、特に重要な視点となっています。データの公開と保護のバランスをどのように取るかは、今後のデータ管理の方向性を左右する大きな課題です。
総じて、このウェビナーは、文化遺産データ管理の今と未来に関する包括的な情報と知見を提供するものでした。参加者は、この分野での新たな挑戦とその対応策についての深い理解を得ることができたのではないでしょうか。