金属製遺物に付随する乾燥木材の樹種同定 ―刀剣類の柄と鞘の用材選択―
西尾 太加二
古墳などから出土する金属製遺物に付随する乾燥木材の樹種同定を行った。乾燥木材は錆着し、硬質化した状態であるため研磨法によりプレパラート標本を作製した。刀剣類に伴う柄や鞘の樹種はいずれも木材の特性を生かした適材適所というもので、用材選択が行われていたことを明瞭に示している。大刀や短刀の柄は堅硬で強靱、加工性もよい広葉樹材が用いられ、鞘は木理通直、割裂性、加工性に優れる針葉樹材のヒノキが優先的に使われている。鉾の柄は儀礼用にはやや軽軟なスギを用い、実用には堅硬、強靱な広葉樹材が選択されている。朝鮮半島製と推定されている大刀と馬具に伴う木材は両地域に自生するマツ属とカエデ属であり、製作地の推定には至らないが、木材の樹種から遺物の機能性をある程度推定することが可能である。なぜなら、古来人々は、目的とする用途に適した木材を選択し利用してきたからである。