経典埋納の呪術的作法 ―堂ヶ谷経塚の構造と副納品―
井鍋 誉之
静岡県牧之原市堂ヶ谷遺跡では3基の経塚が検出され、1号経塚から太刀、短刀、鏡などの副納品が出土した。本稿では堂ヶ谷経塚を中心に副納品の配置や出土状態から埋納作法や主要な副納品の意義について考察する。副納品の配置には規則的な配置を示すもの、不規則な配置を示すものが認められる。前者は経典護持そのものを視覚的に示し、後者は経典埋納前の状態であることから呪術的な儀礼を通じて埋納されたものと考えた。曲げられた太刀は外見上、黒漆太刀であるが、構造内部に細工を施したなまくら刀の可能性が高い。これは太刀を曲げる行為に意味をもたせ、呪術的な儀礼により辟邪の力を備えた刀として経塚に納められたと考えられる。鏡、合子は意図的に破砕されていることに着目した。16面の鏡のうち、1面は破砕されており、鏡本来の機能を失うとともに辟邪の鏡にも何らかの役割を担っていると考えた。さらに、合子の破砕例やいわき市上ノ原経塚の短刀の破砕例から経典埋納前、あるいは埋納後の清浄儀礼が行われたとする。そして、経塚造営の整地段階で50点以上の鉄釘が出土したことから経典埋納前に儀礼を執り行うための幄舎の存在を指摘した。