Unityと3Dスキャンを利用して作成したデジタル博物館
Digital museum made by unity and 3d scanning
1.はじめに
この数年間、新型コロナウイルスが世界中で流行している。外出自粛が求められたりした時期もあり、様々な業界が打撃を受けた。そんな中、ニュースで美術館や博物館の入館者が激減し、閉館に追い込まれそうな博物館があると知った。そこで、当時(2022年7月頃)テレビなどで話題になっていたメタバースのようなサービス、デジタル博物館を作ろうと考えた。
2.デジタル博物館について
「誰でも簡単に見れる博物館」をコンセプトに、web上で土器などの3Dモデルを閲覧することができるサービス(1)を作った。実際に博物館に展示してある土器をiphoneで3Dスキャンし、3Dモデルにしたものを展示している。現在、オープンデータとして石棒クラブという団体が公開している土器などを8点(2)、松原遺跡(長野県長野市)の出土品を2点展示している。
3.使用したソフトなど
デジタル博物館の作成に用いたソフト
・Windows10 PCのOS
・Unity 2021.3.14f Unityというゲームエンジンを用いてデジタル博物館を作成した。
・Canva デジタル博物館のUIを作成した。
3Dスキャンの際に使ったソフト
・Scaniverse 土器の3Dスキャンに使用した。
・CloudCompare 2.12.4 3Dスキャンした土器の3Dモデル化に使用した。
webでの公開に使ったソフト
・Ubuntu22.04 Desktop サーバーのOS
・Apache webサーバー
・github pages 現在公開に使用しているサービス
4.デジタル博物館の変化
デジタル博物館を作っていく中で、様々な機能を実装してきたが、中には上手く実装できなかった機能もあった。
第一案:メタバースを意識した博物館
1で述べたように、当初はメタバースを意識して作成した。
メタバース (英: metaverse) は、コンピュータの中に構築された3次元の仮想空間やそのサービスを指す。日本にあっては主にバーチャル空間の一種で、企業および2021年以降に参入した商業空間をそう呼んでいる。(3)
将来的には様々な博物館が仮想空間上にできることを目指し、以下のような機能を実装しようと考えた。
・実装できた機能
1.閲覧機能
実際にある土器などの3Dモデルを360°から見ることができる。3DモデルはSketchfab(4)にCCBYとしてアップロードし、Sketchfab上でも見ることができる。
2.マルチプレイ機能
web上で他の人とチャットなどで交流することができる。ただし、この時点ではチャットを受信しないことがあるなど、不具合が多数あった。
第一案時点でのデジタル博物館の様子
・実装できなかった機能
1.ボイスチャット機能
ユーザー同士のボイスチャットだけでなく、学芸員がリアルタイムで展示品の解説をする機能も実装したかった。しかし、web上では既存のボイスチャットサービスが使えず、独自のボイスチャット機能も作ることが出来なかったため、実装を断念した。
2.動画再生機能
解説動画などを流すことを考えていたが、上手く動画を読み込めなかったり、再生時に動作が重くなってしまうという問題があり、実装を諦めた。
3.アバター機能
VRChatなどの有名なプラットフォームでは、ユーザーがアバターをカスタマイズすることができる。デジタル博物館にもアバターのカスタマイズ機能を搭載しようと計画したが、実装にかなりの時間が必要であること、優先度が低いことを理由に実装しなかった。
上記の機能が実装できた辺りで、外部の人に公開する機会があった。その際にメタバースとしての機能よりも、web上で土器を見れるという点で好評だった。そこで、様々な博物館の展示物を増やし、博物館を充実させるような機能を実装しようと考えた。
第二案:博物館らしいデジタル博物館
様々な博物館の所蔵物を展示しようと、以下のような機能を実装した。
・実装できた機能
1.3Dモデルのアップロード機能
3Dモデルをwindowsからアップロードできるようにwindowsアプリを作成した。これにより、どんな人でもデジタル博物館に3Dモデルを展示できるようになった。
2.展示物のデータベースの作成
アップロード機能を実装したので、誰が、いつ、どんなモデルをアップロードしたかがわかるようにデータベースを作成した。
・実装できなかった機能
1.アップロードしたモデルのロード
アップロード機能は作成できたが、アップロードしたモデルをデジタル博物館に読み込むことが出来なかった。また、大量のモデルをロードすることで、読み込み時間が長時間になってしまうという問題も発生し、実装を諦めた。
ロード機能を実装できなかったことにより、この案は上手く行かなかった。できなかった原因は、web上でやるという難しさと、自分の技術不足であったと考えられる。
第三案:見やすさを追求した博物館
前の案が上手く行かないとわかった頃、たまたま中学校2年次の総合の地域探究の授業で、地域の遺跡について調べる機会があった。その際に、博物館に行って土器を3Dスキャンし、3Dモデルを作成することが出来た。そこで、いまあるモデルだけでも博物館らしく展示しようと考えた。
・実装した機能
1.3Dモデルのダウンロード機能
3DモデルをアップロードしているSketchfabというサイトからモデルをダウンロードできるようにした。CCBYで公開することで、誰でも博物館に公開している3Dモデルを使えるようになった。
2.グラフィックの強化
テクスチャと呼ばれる3Dモデルの表面の画像の解像度を上げたり、デジタル博物館の照明を増やしたりすることで、展示物を見やすくした。
・実装できなかった機能
特になし
現在のデジタル博物館の様子
5.3Dモデルのスキャン
先程述べたように、自分の中学校の総合の授業で地域の遺跡について調べた。そこで松原遺跡という長野県長野市にある遺跡について調べるために、長野市立博物館に行った。博物館の学芸員の方にご協力いただき、松原遺跡の出土品2点を3Dスキャンし、3Dモデルにすることが出来た。
出土品の3Dモデルはデジタル博物館及びSketchfab(5)で閲覧することができる。
3Dスキャンはiphone12ProでScaniverseというソフトを使い行った。スキャンする対象物を片側づつスキャンし、3Dモデルにしたものを、PC上でCloudCompareというソフトを用いて合成した。
6.webでの公開
当初はunityroom(6)にて公開していたが、外部のファイルを読み込めないなど様々な制限があった。なので、別のサーバーで公開することにしたが、無料でサーバーを提供しているところはなかった。そこで、自分の所属している須坂市技術情報センターの科学クラブの方にサーバーとドメインを提供してもらい、自分でサーバーを構築して公開した。公開にはApacheというwebサーバを使った。そこでのサーバーは2023年3月までという約束だったので、現在はgithub pagesというサービスを利用して公開している。
また、ただ単に公開するだけでなく、Googleアナリティクスというサービスを利用し、アクセス数などを計測した。計測した結果、半年間で約500人のアクセスがあった。
さらに、デジタル博物館のソースコードをgithubにて公開した(7)。
MITライセンスで公開されているので、誰でも使うことができ、改変や配布も自由だ。
7.各所での発表を通して
デジタル博物館を作っただけでなく、様々なところで発表した。
第一回 考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロン
まず、8月6日にオンラインのイベントで発表した。この段階ではまだ第一案の状態だったが、様々な意見をもらうことができた。その中でも、メタバースのようなサービスという点や、web上で土器などが見れるという点で特に好評だった。しかし、展示物の物足りなさや、博物館としての形がまだ未完成であるとの指摘を受けた。そこで、デジタル博物館の可能性を感じることができ、更にサービスを成長させようと思った。
第二回 科学クラブでの中間発表会
次に、自分の所属する科学クラブの中間発表会にて発表した。
科学クラブとは:長野県須坂市技術情報センターで活動している、ICTを通して科学に関するあらゆることについて楽しく学習するクラブ(8)(9)。自分はPCソフト班に所属している。
中間発表会では第一案のまま発表したが、前回とは反応が異なった。チャット機能などのメタバースらしい機能よりも、閲覧できるという点で面白いという反応が多かったので驚いた。チャット機能などが不安定だったというのもあるが、webで見れるという印象が大きかったのではないだろうか。そう思い、閲覧機能を充実させることにした。また、須坂新聞の方に取材していただき、掲載していただいた。
中間発表会での様子 須坂新聞での記事
第三回 飛騨市での発表
飛騨市の飛騨みやがわ考古民俗館で行われた石棒クラブ(10)という団体のイベントにオンラインで参加し、デジタル博物館について発表した。この時点では第一案の状態だったが、3Dスキャンに詳しい方々に意見をもらうことができた。第二回と第三回の発表を元に、第二案、第三案へとサービスを帰ることができた。
第四回 長野市立博物館での3Dスキャン
約3ヶ月後、3Dスキャンをするために長野市立博物館を訪れた際に、学芸員の方と長野市民新聞の方に見ていただいた。そこでもいいサービスだと言ってもらえた。デジタル博物館は博物館のためになればいいなと作ったものなので、博物館の学芸員の方にそう言ってもらえたのは自分にとって大きな意味があった。また、長野市民新聞にも掲載していただき、アクセス数も少しではあるが増加した。
博物館での様子
第五回 科学クラブでの最終発表会
最後に科学クラブの最終発表会で発表した。デジタル博物館は、科学クラブでのプロジェクトとして作っていたので、この最終発表会を最後にクローズする予定だった。
最終発表会では、ゲームコントローラーで操作できるように改良し、プロジェクターで投写しプレイしてもらった。実際に小さい子供でも遊ぶことができ、初めての人でも操作できていたので良かった。
色々な人からサービスを続けてみては、という声を頂いたので、ホスト先をgithubに移行し、サービスを継続することにした。また、科学クラブではオープンデータやオープンソースについて学ぶ機会があったので、ソースコードをgithubに公開した。
8.デジタル博物館を通して感じたこと
半年間かけてデジタル博物館を作ってきたが、その中でサービスを作る楽しさと難しさを感じた。何度かデジタル博物館を発表する機会があったが、相手からの反応から感じたこととして、デジタル博物館が「サービス」ではなく、中学生が作った「作品」の域を出ていないと思った。有名な博物館も仮想空間上に同じようなサービスを作っているが、やはり個人規模ではかなわないと感じた。
しかし、デジタル博物館というサービスの可能性を感じることが出来た。新型コロナウイルスが収束してきた今、実際に博物館へ行くということは容易になった。ただ、普段博物館に行かない人が、博物館に足を運ぶということはまだ増えていないだろう。発表した中で、webでできるというだけで興味を示した人が多かった。なので、コロナ禍ではなくなったこれからも、デジタル博物館のようなサービスは必要ではないか。iphoneなどの身近な機器で3Dスキャンができるこの時代に、身近なものを集めて博物館にしてみたら面白いのではないか。
誰でもインターネットを使える時代に、博物館の魅力を知ってもらうためにも、デジタル博物館というサービスは必要なのではないか。実際の博物館にはかなわないが、デジタル博物館を見て、博物館に興味を持ってもらえるようなものができるといい。
謝辞
今回の論文を執筆するにあたり、ともに取り組んできた更北中学校ものづくり部理科班の仲間、同顧問の佐々木宏展先生、須坂市技術情報センターの科学クラブのスタッフの皆様、長野市立博物館の皆様、執筆の機会をいただいた奈良文化財研究所の皆様、多くの活動の支援をいただいた皆様にこの場を借りてお礼を申し上げる。
参考文献
1) デジタル博物館 https://harryp0tterk.github.io/DegitalMuseum/
2) 石棒クラブ https://sketchfab.com/sekibo.club
3) メタバース -Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%BF%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B9
4) Skechfab https://sketchfab.com/
5) デジタル博物館-Skechfab https://sketchfab.com/DegitalMuseum
6) unityroom https://unityroom.com/
7) https://github.com/harryp0tterK/DegitalMuseum_Source
8) 科学クラブ -須坂市技術情報センター https://www.s-johocenter.jp/%e6%83%85%e5%a0%b1%e3%82%bb%e3%83%b3%e3%82%bf%e3%83%bc%e7%a7%91%e5%ad%a6%e3%82%af%e3%83%a9%e3%83%96%e3%83%a1%e3%83%b3%e3%83%90%e3%83%bc%e5%8b%9f%e9%9b%86
9) 科学クラブ https://s-johocenter.studio.site/
10) 石棒クラブ https://www.sekiboclub.com/