奈良文化財研究所 ホーム
Search
List
Others
おすすめ
report count (with pdf)
40228 reports
( Participation 747 Orgs )
report count
132022 reports
( compared to the privious fiscal year + 1231 reports )
( Participation 1915 Orgs )
site summary count
146992 reports
( compared to the privious fiscal year + 1770 reports )
Article Collected
120280 reports
( compared to the privious fiscal year + 1238 reports )
video count
1266 reports
( compared to the privious fiscal year + 77 reports )
( Participation 114 Orgs )
Event Collected
1165 reports
( compared to the privious fiscal year + 114 reports )
※過去開催分含む
デジタル技術による文化財情報の記録と利活用 > 6 号 > シン・誰でもできる著作権契約マニュアル

シン・誰でもできる著作権契約マニュアル

矢内 一正 ( 株式会社TBSテレビ )

Shin - Copyright Contracts Manual: Everybody's guide

Yanai Kazumasa ( Tokyo Broadcasting System Television, Inc. )
矢内 一正 2024 「シン・誰でもできる著作権契約マニュアル」 『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用』 遺跡地図・3D・GIS・モバイルスキャン・デジタルアーカイブ・文化財防災 https://sitereports.nabunken.go.jp/online-library/report/18
 本稿は、映像資料や文化財動画の利活用・制作の仕事に関係する読者に向けて、文化庁の「著作権契約書作成支援システム」と「誰でもできる著作権契約マニュアル」を用いた各種契約書類の作成の仕方を解説するものである。本稿において具体的に作成の仕方が示されるのは、①映像資料の利用許諾契約書、②文化財動画の制作委託契約書、③作品公募の募集要項、④コンクール等の募集要項の4つである。本稿の目的は、国が提供するこうした便利なツールを利用することで、現に契約書作成のハードルが下がっていることを明らかにしつつ、「権利処理の壁」を前に苦悩する読者の一助となることである。

1.想定する読者

 本稿の対象とする読者は、我が国の文化財関連事業に従事する職業人のうち、過去の映像資料の利活用(上映・配信等)や新たな文化財動画の制作に関与する者である。筆者は、本研究報告第2巻第24冊(2020)において、映像資料を利活用する際に必要となる権利処理に関して、その実務的な対応の仕方を明らかにした[1]。その後、本研究報告第3巻第27冊(2021)において、文化財動画を制作しYouTubeで公開する際の実務的な注意点を述べたほか[2]、本研究報告第5巻第37冊(2023)では、映像中に現れる厄介な「個人情報」のさばき方を論じた[3]。これらの文中では、例えば、「監督等の遺族の同意を得て音楽を差し替えればよい」とか「公式ルールとプライバシーポリシーさえ制定すれば、YouTube上でコンテストが開催できる」とか「出演承諾書を交付し、撮影前にサインを得ておくのが無難」というようなことを述べたが[4]、立場上そうした契約書類の実物を示すことまでは差し控えた。

 そうしたところ、筆者は、文化庁「誰でもできる著作権契約マニュアル」の改訂に関する調査研究(令和4年度委託事業)の検討委員会(座長:明治大学今村哲也教授)に委員として参加する機会を得た[5]。これは、文化庁が公表する「著作権契約書作成支援システム」(以下「本システム」)が2022年に大幅にアップデートされたことを受けて[6]、そのマニュアル(以下「本マニュアル」)を改訂するために設けられたものであったが、それまで筆者は本システムを使用したことがなかったので、試しに操作してみたところ、その完成度の高さに驚いた。現に会社の同僚や後輩に「こんなのがあるよ」と紹介したところ、「こんなことをされちゃうと、私たちの仕事がなくなるじゃないですか」という声が上がったほどである[7]。それほど有用な(しかも無料で使える)ツールを使わない手はないので、本稿では、実際に本システムを用いて各種契約書類を作成しつつ、本マニュアルを参照しながら、それに若干のコメントを添えたいと思う。

2.映像資料の利用許諾契約書

 「権利処理」とは、一般に、コンテンツを制作・利用するために必要な権利者の許諾を得たり、権利者から権利の譲渡を受けたりするこという。そうすると、ある映像資料が「著作権法により保護される著作物」である場合、これを上映・配信等の利用に供するためには、その著作権者から許諾(ライセンス)を得るか、または著作権の譲渡を受ける必要がある[8]。本システムは、他人の既存の著作物に対する権利処理のうち、後者(著作権譲渡)に関する契約書には対応していないので、以下では前者(利用許諾)に関する契約書を実際に作ってみよう。

(1)本システムの使い方

 例として、奈良文化財研究所(奈文研)が地下の倉庫に眠っていた映像資料(仮に「糀台の発掘調査」とする)をYouTube上で配信するために、その著作権者(仮に「西神考古学会」とする)から配信の許諾を得ることを目的とする契約書案を作ってみたい。

 本システムのトップページにアクセスし、「契約書作成をはじめる」を押すと、自動的に「契約書作成の開始」にスクロールする。次に「契約書ひな形選択をはじめる」をクリックすると、「あなたはどちらに当てはまりますか」と尋ねられる。「クリエーター(権利者)」または「クリエーターと契約したい人(利用者)」の二択になっているので、後者を選択すると、以下の図1のとおり、「どの著作物を利用したいでしょうか」と問われる。



図1 著作物の選択


 今回の例では、「劇場用映画、テレビドラマ、ネット配信動画(YouTubeなど)」が含まれるカテゴリーが適当だから、これをクリックすると、次いで「どのような場面で利用するのか」と尋ねられるので、「利用許諾」の場面を選択する。そうすると、「あなたに必要な契約書はこちらです」というコメントに続いて、前提条件(注意事項)が示され、(1)利用物の特定、(2)利用の目的、(3)氏名表示、(4)対価、(5)当事者といった所要の項目が入力できる画面になる。入力を済ませて「入力確認」を押すと、契約書案のプレビュー画面が表示されるので、過不足があれば「戻る」で適宜修正し、いったんプレビュー画面上で完成させる。最後に、「完成・ダウンロード」を押すと、いきなり以下の図2のような契約書案をワード文書(.docx形式)で落掌することができる(なお、「Download (English)」を押すと、いきなり英文契約書案が出来あがる)。


図2 映像資料の配信利用許諾契約書案


(2)本マニュアルの使い方

 図2の内容でも十分といえば十分だが(ご覧のとおりニュートラルでシンプルな内容になっている)、他に取り決めておくべき項目はないか、修正を要する事項はないか、本マニュアルを参照しながらチェックを入れてみよう。

 ① 足りない条項

 まず、本マニュアル4頁から6頁までを斜め読みする。ここでは、図2の契約書案に出てきた条項以外に、一般的によく盛り込まれる条項について紹介がある。具体的には、(1)費用に関する条項、(2)契約期間に関する条項、(3)中途解約に関する条項・不可抗力条項、(4)契約変更に関する条項、(5)契約解除に関する条項、(6)秘密保持に関する条項、(7)契約上の地位や権利義務の移転・譲渡を禁止する条項、そして(8)合意管轄に関する条項の8つである。今回の例でいえば、対価の金額については、あまり公になってほしくない事項なので、本マニュアル6頁の秘密保持条項をそのまま図2の第4条と第5条の間あたりに転記すればよいだろう。

 ② 著作物の特定

 続いて、本マニュアル冒頭のチャートを手がかりに、「利用許諾」の契約に関する解説が始まる87頁に飛ぶ。頁をパラパラめくると、89頁から各条項の解説と「別のパターン」が示されている。これを1つ1つ点検してみると、なかなか気づかされることが多い。例えば、89頁には「どの著作物か(対象の著作物)をしっかり特定することが重要」ということが書かれている。たしかに、図2の「糀台の発掘調査」には、ちょうど「日本沈没」に1973年・2006年の映画版や1974年・2021年のドラマ版が存在するように、複数のバージョンが存在するかもしれない。西神考古学会の想定している映像資料と奈文研の想定している映像資料とが異なる場合が大いにあり得る。トラブルの元である。この点、本マニュアル89頁は、写真やイラストであれば「縮小コピーを別紙で添付する等の方法が考えられる」が、「添付が困難な場合には、タイトル、サイズ、数量等で特定することが考えられる」としている。そうすると、例えば、第1条の「糀台の発掘調査」の後に括弧書きで(1970年、撮影:唐来淳二、尺:25分)というような情報を書き足しておくと良いだろう。

 ③ 利用範囲の特定など

 図2の第1条では、単にYouTube公式「なぶんけんチャンネル」で配信することとしたが、これだけでは全世界に向けて配信できるのか、あるいは日本国内に限定されるのかが必ずしも明確でない。地域的な範囲が曖昧である。この点については、本マニュアル90頁の特定の仕方が参考になる。また、今回の利用許諾が「独占的」な性質のもの(exclusive)なのか、あるいは「非独占的」な性質のもの(non-exclusive)なのかも重要である。つまり、「なぶんけんチャンネル」以外で「糀台の発掘調査」が配信されることに差支えがある場合は、西神考古学会自身や第三者による配信を許容しない独占的(exclusive)な利用許諾にする必要がある。そうするパターンは本マニュアル90頁に記されているので、そうしたい場合は図2の第1条と第2条の間にこれを挿入する。

 ④ 改変の有無・保証違反

 ところで、乙(奈文研)は、「糀台の発掘調査」という映像資料をそのままYouTubeで配信するのだろうか。画角(縦横比)や色味を変更したり、一部を切除(トリミング)したりする可能性が高いのであれば、むろん同一性保持権(著作権法第20条参照)の問題が生じ得るので、本マニュアル92頁を参考に、図2の第2条を修正しておくべきだろう。

 なお、図2の第3条では、甲(西神考古学会)が他人の権利を侵害していない旨を保証しているが、保証する権利の外延がやや不明瞭である(例えば、肖像権やプライバシーの侵害が含まれるのか否かが争いになり得る)。また、仮に甲がこの保証に違反した場合にどうなるのかも不明確で、この点については、本マニュアル92頁の修正の仕方がかなり参考になる。

3.文化財動画の制作委託契約書

 このように、本マニュアルを脇に置きながら仕上げにかかれば、たちまちプロも顔負けの契約書案が出来あがるのだが、この勢いで、新たな文化財動画の制作を映像制作会社に委託する際の契約書案も作ってみよう。

(1)映像制作の委託

 本システムのトップページから「契約書作成をはじめる」→「契約書ひな形選択をはじめる」→「クリエーターと契約したい人(利用者)」→「映像系のカテゴリー」→「ビデオ(…)の作成」と進んでいくと、先ほどと同じように「あなたに必要な契約書はこちらです」というコメントが表示され、注意事項等に続いて、所要の項目が入力できる画面に遷移する。今度は例として、本マニュアル50頁から始まる解説を見ながら、奈文研がTBSに奈良時代のボードゲーム「かりうち」のプロモーション映像の制作を委託することを目的とする契約書案を作ってみたい[9]。

 ① 著作権の帰属

 (1)依頼内容の欄に、タイトル「やばい!かりうち」、テーマ「かりうちのプロモーション」、映像種別「実写(ドキュメンタリー)」などと入力し、納入物の納入形式や納入期限などを特定する。最も重要なのは(2)著作権の帰属だが、奈文研として、この文化財動画を様々な場面で長期にわたり利活用していきたい意向があるのだとすれば、二次的著作物を作る権利等も含めて、依頼者(奈文研)に移転させることを選択すべきだろう。ただし、そうすると、受託者(TBS)にしてみれば、本マニュアル53頁にあるとおり、自己利用の道が絶たれてしまうなど、デメリットも大きい。もちろん(5)対価(お金)を積んで決着させる方法もあるだろうが、契約書の中でその利害をうまく調整する規定例が本マニュアル54頁に掲載されているので、かなり参考になる。

 ② 遵守事項等

 足りない条項の点検の仕方は、先ほど述べたとおりである(本マニュアル4頁から6頁までを斜め読み)。その他、見落としている事柄がないか、本マニュアル52頁以降をチェックしてみると、「遵守事項」や「対価の内訳」などについても検討が必要であることがわかる。これらをひと通り反映させると、以下の図3のような契約書案がたちどころに完成する。


図3 文化財動画の制作委託契約書案


(2)最終チェック・仕上げ

 初歩的な(しかし、筆者もよく犯す)ミスとしてしばしば見られるのが、甲と乙が逆になっているケースである。また、後から新たな条項を挿入したことで、条項番号(第○条第○項の数字)がズレているケースも多い。そのようなミスがないかを含めて最終チェックを入れてみよう。

 ① 権利の移転時期

 これは、細かい論点かもしれないが、図3の契約書案第2条第3項や第5条で定める「権利の移転時期」は、下線部の「対価の完済」の時(第8条によれば2024年9月30日)で問題がないだろうか。納入期限が2024年6月30日だとすると(第2条第1項参照)、乙(奈文研)にしてみれば、以降の3か月間が無権利状態での利用となってしまう。これについては、「契約の趣旨からして、利用できないわけがない」と考える人もいるだろうが、有事の際にはトラブルの元になりかねないので、別途電子メールなどで了承を得ておくなり、移転時期を「納入の時」に前倒しするといったことも検討したい。

 ② 著作者人格権

 著作権は本契約書案第5条のとおり移転させることができるが、著作者人格権(公表権、氏名表示権及び同一性保持権)は移転させることができないので(著作権法第59条参照)、一定の手当てが必要である。もっとも、著作者人格権のうち公表権については、著作権を譲渡した場合に同意の推定が働くので(著作権法第18条第2項第1号参照)、本契約書案では特に手当てをしていない。しかし、著作権を譲渡しない場合には、本マニュアル47頁の規定例のように公表日を定めたり、本マニュアル51頁のようにさりげなく利用の開始日を定めるのが良い。

 残りの氏名表示権と同一性保持権については、本契約書案第6条で手当てしている。なお、「改変・編集の条件」の下線部は、筆者が参考までにそれらしくドラフティングしたものである。このように定めておけば、画や音を差し替えることが容易になるので、50年後とか100年後に「やばい!かりうち」を発掘した奈文研の後輩たちも非常に助かるだろう[10]。

 ③ 比較・検証の方法

 なお、映画業界では、2022年6月に一般社団法人日本映画制作適正化機構(通称「映適」)が設立された[11]。映適は、2023年3月に「映画制作の持続的な発展に向けた取引ガイドライン」を公表したが[12]、その巻末には「標準契約書」というものが掲載されている。これは、劇場用実写映画の製作委員会の幹事会社と制作プロダクションが取り交わす制作委託契約書のモデルとして示されているもので、比較・検証の対象として有用である。例えば、「遵守事項」や「権利処理」がかなりきめ細やかに定められていたり(同標準契約書第4条及び第6条参照)、「製作中止の場合の措置」などもあらかじめ決められていたりする(同標準契約書第18条参照)。その他の一般条項もビジネスの世界で使われているものの実物が見てとれるので、フリーランスのスタッフと契約を結ぶ際の契約書(発注書)のモデル(電子契約用・紙面用)と併せて、非常に参考になる。

 また、このような参考例に関する情報や役に立つサイトは、本マニュアル13頁・14頁にもそのリンクと共に示されている。これらを駆使して契約書案を仕上げにかかれば、極めて完成度の高いものが出来あがるだろう。

4.募集要項の作り方

 冒頭で「公式ルールとプライバシーポリシーさえ制定すれば、YouTube上でコンテストが開催できる」と述べたが、この公式ルールに当たる「募集要項」についても、本システムと本マニュアルを用いて、またたく間にドラフトを作成することができる。最後にその作り方を駆け足で見ていきたいと思う。

(1)主催者が利用する作品の公募

 本システムのトップページから「契約書作成をはじめる」→「募集要項の作成」→「主催者が利用するイラストなどの公募」と進んでいくと、これまでと同様に注意事項等に続いて、所要の項目が入力できる画面が現れる。本マニュアルの解説は97頁以降である。再び「かりうち」にご登場いただいて、奈文研がそのキャラクターデザインを公募するという設定で募集要項を作ってみよう。

 以下の図4は、この設定に沿って筆者が適当に情報を入力し、本システムからダウンロードしたものだが、わずか数分で作ったものとはとても思えない。さっそく本マニュアルを片手に仕上げにかかると、賞金等にかかる税金について注意を促しておくべきこと(本マニュアル99頁参照)、商標・意匠の出願・登録をする可能性がある場合には、そのことを明記すべきこと(本マニュアル102頁参照)などが示されているが、いずれもデフォルトで末尾の「注意事項」の欄に記載されている。

 筆者から見て不足している項目は、「応募資格」「未成年者の応募」「募集の中止」「問い合わせ先」「個人情報の取扱い」である。それぞれ「日本国内に居住する一般の方に限ります」「未成年者は保護者の同意を得たうえで応募してください」「主催者の都合により予告なく中止する場合があります」「お問い合わせ先は(…)です。受付は主催者の通常営業時間内に限ります」「個人情報の取扱いについては、主催者が制定し公表するプライバシーポリシーをご確認ください」といった具合に加筆すれば良いだろう。

(2)コンクールなどの作品の募集

 コンクールなどの募集要項についても、作り方はほとんど同じである。本システムのトップページから「契約書作成をはじめる」→「募集要項の作成」→「展示会、発表会、コンクールなどの作品募集」と進み、所要の事項を入力する(本マニュアルの解説は104頁から)。こちらは、デフォルトで「応募資格」「ペンネームの使用の可否」「優秀作品の発表」「問合せ先」まで入力できるようになっていて、さらに完成度の高い募集要項をたちどころに落手することができる。

 比較・検証の対象としては、かつて筆者がドラフティングした「ちびゴジラダンス ゴジゴジちびゴジラ踊ってみたキャンペーン」の際の募集要項・応募規約をお勧めしたい[13]。特に応募規約は「使える箇所」が多いと思う。また、本システムで作成したものを下敷きにして、「人」を募集する際の募集要項・応募規約も作ることができるだろう。そちらの比較・検証には、例えば、TBSの「ボランティア・エキストラ募集」のものをご参照されたい[14]。


図4 キャラクターデザインの募集要項案


4.おわりに

 ここまで長々と本システムと本マニュアルを用いた各種契約書類の作成の仕方を解説してきたが、国が提供するこうした便利なツールにより、契約書作成のハードルがずいぶん下がっていることがお分かりいただけたかと思う。本稿でお示ししたような手順や「情報の在り所」さえ知っていれば、精度の高いものが自分たちで簡単に作れてしまうのである。

 筆者の興味関心は、過去の本研究報告の内容からもお察しのとおり、コンテンツの権利処理・利活用・アーカイブにあるが、これらが難しいとされる原因の多くは「契約書がないこと」による。契約書がないせいで、些末で些細な引っかかりが「権利処理の壁」となって立ちはだかり、過去作品の利活用や保存に支障をきたしている。そのことは、読者も経験的にお感じになっていると思う。

 いま私たちが実践すべきことは、「塩漬け」になっている過去作品の二の舞を踏まないように、地道に契約書を作っていくことであり、時代の変化に合わせてそれを日々アップデートしていくことだろう。並行して、裁定制度の在るべき姿や、拡大集中許諾制度の良否についても考えていきたいが、それはまた別の機会に主題的に取り扱いたいと思う。

【脚注】

[1]矢内一正「映像資料の権利処理とその実務」奈良文化財研究所(奈文研)研究報告第2巻第24冊 105頁(2020)参照。

[2]矢内一正「文化財動画をYouTubeで公開する際の注意点」奈文研研究報告第3巻第27冊 8頁(2021)参照。

[3]矢内一正「映像資料や文化財動画に現れる個人情報について」奈文研研究報告第5巻第37冊 220頁(2023)参照。

[4]矢内・前掲注1)109頁、矢内・前掲注2)11頁、矢内・前掲注3)224頁参照。

[5]文化庁著作権課「誰でもできる著作権契約マニュアル」(令和5年3月)

[6]文化庁「著作権契約書作成支援システム」(2022年4月1日)

[7]中山茂ほか「地殻変動に揺れるエンタメ業界第6回:日本の映像業界における最新動向と重要トピック――地殻変動のその後を追いかける①――」IPジャーナル27号48頁、50頁(2023)参照。

[8]矢内・前掲注1)107頁参照。

[9]「かりうち」とは、奈良時代に全国の下級役人らを熱狂させたボードゲームで、奈文研が現代によみがえらせた。詳細は、米田千佐子「古代ボードゲーム 令和によみがえる 禁じられた遊び ヒントは韓国の「ユンノリ」」朝日新聞夕刊東京本社版2022年5月18日、1面参照。

[10]映像資料中の権利者が不明な映画美術や映画音楽を正々堂々とデフォーカスしたり差し替えたりすることができる。すなわち、「権利者不明の問題」から「同一性保持権の問題」に切り替えることができる。矢内・前掲注1)109頁参照。

[11]「映適」設立の背景や「映適マーク」の詳細については、中山ほか・前掲注7)55-58頁参照。

[12]一般社団法人日本映画製作者連盟(映連)ほか「映画制作の持続的な発展に向け取引ガイドライン」(2023年3月)

[13]東宝株式会社「ちびゴジラダンス ゴジゴジちびゴジラ踊ってみたキャンペーン」(2019年11月3日)

[14]TBSテレビ「ボランティア・エキストラ募集」(2023年9月5日)参照。

引用-システム内 :
引用-システム外 :
使用データリポジトリ画像 :
NAID :
都道府県 : Tokyo Metropolis
時代 :
文化財種別 :
遺跡種別 :
遺物(材質分類) :
学問種別 :
テーマ : 知的財産権
キーワード : 権利処理 著作権契約書作成支援システム 誰でもできる著作権契約マニュアル 利用許諾契約書 制作委託契約書 募集要項
データ権利者 : 矢内一正
総覧登録日 : 2024-03-22
wikipedia 出典テンプレート : {{Citation ... 開く
wikipedia 出典テンプレート : {{Citation|first=一正|last=矢内|contribution=シン・誰でもできる著作権契約マニュアル|title=デジタル技術による文化財情報の記録と利活用|date=20240328|url=https://sitereports.nabunken.go.jp/online-library/report/18|publisher=独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所|series=デジタル技術による文化財情報の記録と利活用|issue=6}} 閉じる