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デジタル技術による文化財情報の記録と利活用 > 6 号 > タブレットを用いた埋蔵文化財調査の業務改善

タブレットを用いた埋蔵文化財調査の業務改善

川崎 志乃 ( 四日市市役所(当時) )

Improving buried cultural property research operations using tablets

Kawasaki Shino ( Yokkaichi City Government )
川崎 志乃 2024 「タブレットを用いた埋蔵文化財調査の業務改善」 『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用』 遺跡地図・3D・GIS・モバイルスキャン・デジタルアーカイブ・文化財防災 https://sitereports.nabunken.go.jp/online-library/report/13
・タブレットを利用した埋蔵文化財調査記録のアーカイブ
・現地でテキスト情報と写真を送信することによって、既存の統合型GISへデータ掲載
・クラウド管理によるデータ保管容量の確保とリスクマネージメント
・重複作業の削減による事務作業の効率化
・即時性が高く、課題のある文化財に対して、距離の制約を受けない迅速な対応が可能

1.はじめに

(1)四日市市について

 四日市市は三重県の北部に位置し、西は鈴鹿山系、東は伊勢湾に面した温暖な地域である。名古屋圏の西部に位置する人口31万人の都市であり、市内には石油化学コンビナートや半導体製造企業をはじめとする全国屈指の産業が集積している。

(2)GISによる遺跡情報システムの導入と公開 

 四日市市では、埋蔵文化財包蔵地について平成14年度から独自型GISによる四日市市遺跡情報システム(Yokkaichi sites Information system(略称イシス))を導入し、情報を管理している。その後、平成25年度・平成31年度に全庁的なパソコンのリプレイスに伴うシステム改修を行い、現在に至っている。令和3年度までの経過については、『デジタル報告』4・5において既に報告しているため詳細は参照されたい。(註1)令和4年度には、Shapeデータ情報を奈良文化財研究所と三重県に提供し、情報共有を行った。

図1 遺跡GISの模式図


 図2のとおり、窓口応対数に対する協議の必要な件数はコロナ禍を経て大きく変化しており、ホームページから情報を得られることの利便性が受け入れられ、詳しく協議する必要のある事案に時間を割くように変化している。


図2 窓口業務に対する遺跡該当割合の経年変化



図3 開発に伴う埋蔵文化財保護の作業フロー


2.モバイルGISを利用した現場作業の効率化

(1)経緯

 本市での開発に伴う事前の埋蔵文化財調査は、圧倒的に現地での工事立会や試掘調査(いわゆる開発事前範囲確認調査)が多い。これらの小規模調査に伴う記録にも位置情報および写真等の記録を保存する必要があり、従来は紙面による記録とデジタルカメラ(コンパクトカメラ)を用いた現地調査を実施し、帰庁後に写真データをパソコンへ保存するとともに、報告書を作成していた。

 特に、インフラ分野の狭小工事に伴う工事立会は、断続的に長期間にわたって実施することがあり、工程単位で調査情報を効率よく記録することが課題になっていた。なかでも、数ヶ月にわたって複数名の職員が断続的に調査を実施する場合には、記録保存だけでなく引継ぎの情報共有に時間を費やしていた点でも、可視化と効率化が懸案となっていた。

(2)タブレットを利用した効率化

 令和4年度に庁内で照会のあった、タブレットを利用し既存の統合型GIS上へデータを載せるシステム(モバイルGIS)の実証実験に参加した。そこで、市職員によって、市内各地で行われる文化財調査について現地で短時間に入力し、データセンターへ送信することによって、既存の統合型GIS上に紐づけて記録する試みを行った。

 具体的には、現地での作業時間を短縮し重複作業を削減するという事務効率化だけでなく、今後のデータの増加に対する保管容量の確保の課題に対する解決方法としても効果が見込まれたことから、令和5年度から本格的に導入されることとなった。


図4 モバイルGIS導入前後の作業内容


 導入にあたっては、現地調査を伴うアーカイブの観点から、以下の埋蔵文化財試掘・立会調査、文化財パトロール、指定文化財管理の3事業についてのレイヤを設定した。

 位置情報はタブレットのGPS機能により、通信状況によって変動するものの概ね現在位置に近い場所が表示され、更に画面の地図上をタップすることによって、希望する位置に点情報を保存することができる。

【埋蔵文化財の試掘・立会調査】

 埋蔵文化財調査の記録については位置情報が重要である。したがって、測量データの提供が可能な場合には、開発部局等にデータの共有を依頼している。しかし、多数の立会調査時に本格的な測量を実施するのは時間的にも困難である。したがって、本市では電柱(直径約30㎝)の工事立会時に、手動でタップすることによる電柱1本分程度の誤差は発生する点を把握した上で、電柱の重複による混乱が発生しなければ支障がないとみなし、導入した。ちなみに、GNSS受信機による位置情報の計測も検討したが、時間的な効率化を優先した。

 本市では、独自型GISである四日市市遺跡情報システム内に遺跡情報(包蔵地情報)だけでなく、個別の調査情報の履歴のデータベースを作成していることから、試掘調査や立会調査の現地調査時にも1件ずつ個票を作成している。そのため、各調査に調査番号を付与しており、統合型GIS(モバイルGIS)に送信する調査情報も将来的に四日市市遺跡情報システムの調査情報(個票)と紐づけていくことを前提に、共通の調査番号を付与している。

 以上の位置情報に対する譲歩と、調査番号による複数のデータベースの統合を前提とした効率化となる。

 テキスト情報は、調査番号・遺跡名・担当者名・調査日・写真説明・備考(200字)とし、位置情報の点情報は、試掘・立会・その他の3分類としている。写真は、撮影と同時に入力する場合と後刻にファイルから入力する場合もある。これらの情報をタブレットから送信することによって、データセンターを経由し、統合型GIS上に載せることになる。実際に1分以内に送信作業は終了していることから、帰庁後にはその情報をフォームで打ち出し、報告書に添付している。

【文化財パトロール】

 文化財パトロールを委嘱している市内の小学校教諭に学校配備の通信機能のあるタブレットを利用してもらい、実証実験を行った。その結果、従来は現地パトロール時にデジタルカメラやスマートフォンで撮影した写真をパソコンへ取り込み、ワードの書式へテキスト情報を打ち込み、GISの画面のプリントスクリーン等による位置情報を貼付し、紙面での郵送あるいは電子メールでデータを送信していたのに対し、現場での入力・撮影・送信作業のみ(10分以内)で完結するために圧倒的に効率化できることから、今後も使用したいとの希望をもらっている。GPSによって位置情報を概ね把握でき、遺跡範囲や遺跡番号を検索する必要がない点で、作業工数削減につながる事例といえる。

 特に、文化財パトロールについては、緊急課題の通報の場合があることから、位置情報のポイントを色別表示することによって対応中・対応済・未対応の表示をできるように設定し、瞬時に対応状況を把握できるようにしている。従来と比較し、緊急対応へのタイムラグを解消できる点が重要と考えられる。

【指定文化財管理】

 指定文化財の現状確認時の記録として、位置情報のポイントを色別表示することによって課題について対応中・対応済・未対応の表示をできるように設定し、対応状況を把握できるようにしている。

 指定文化財には説明板が設置されている場合もあり、令和4年度から説明板に市ホームページの二次元コードを貼付することによって、他の文化財にもアクセスできるように努めており、文化財管理時にSNSでも広報している。

3.3次元計測を導入した工事立会の事例

 道路拡幅工事に伴う群集墳の隣接地での現地調査時には、モバイルGIS以外にもタブレットを用いて業務を効率化している。

 まず、急傾斜面の法面工事の竹の伐採に伴う現地確認を庁内のロゴチャットで対応した。法面工事の現場にいる道路建設担当の職員からタブレットによる通信機能を利用して、市役所で執務中のパソコンへロゴチャットで写真とコメントを送付してもらい、電話で回答した。

 つぎに、法面上面のモルタル吹付工事に伴い、表土除去が実施される前の現地確認時に想定外の群集墳の可能性がある高まりを発見したため、念のために現況測量をモバイルスキャン(タブレットを用いた3次元計測)で対応した。この際には、測量点3か所をスキャン内に取り込むことによって、データ上での位置情報が必要になった際に、GIS上で復元することを前提とした作業を実施した。慣れない作業のために撮影し直したこともあるが現地での作業時間は30分以内であり、作業後に表土除去したところ、自然地形と判明した。仮に従来通りの手法で、測量機材を法面上面まで運んで複数の職員が対応していた場合には半日程度かかっていたと思われるが、新たなデジタル技術を用いることによって気兼ねなく対応することが可能である。

4.タブレットを利用した成果と今後の課題

(1)タブレットを利用した成果

 持続可能な埋蔵文化財保護の体制を維持するための一助として、現地調査を伴うアーカイブの観点からタブレットを用いて統合型GISの利用を試みた結果、現地での作業時間を短縮し重複作業を削減するという事務効率化だけでなく、今後のデータの増加に対する保管容量の確保の課題に対する解決方法としても効果が見込まれ、業務改善に繋げることができた。特に実証実験において、埋蔵文化財担当の再雇用職員やパトロールの小学校教諭も操作の簡易な使い勝手を知ってから積極的に利用する姿勢がみられたことから、デジタルツールに対する年齢的な世代間ギャップはなく、むしろ、効率化やアーカイブのコンセプトへの理解によって受け入れられたように思われる。高品質なシステムであり、なおかつ、簡易な操作性であることによって使用頻度が高まり、安定した運用が推進されていくのではないかと考えられる。

 併せて、3次元計測の可能な機種を試験的に導入していたことにより、想定外の事態であっても短時間に測量を実施することができた。

(2)今後の課題

 本市では独自型GISである四日市市遺跡情報システムにより遺跡情報(包蔵地情報)だけでなく、調査情報の履歴のデータベースを作成していることから、令和5年度からタブレットを利用して統合型GISへデータ送信を行うモバイルGISを導入したが、調査番号による複数のデータベースの統合を前提とした効率化となる。現状ではこれまでに作り上げた独自型GISの独自性と高機能の点から統合型GISへ統合することは不可能であり、将来にむけて整備をしていく必要がある。

 また、現場作業の効率化と保管容量の確保を目的にモバイルGISを導入したが、テキストデータと写真データしか対応できていないため、3次元情報のアーカイブは課題となっている。特に、地下空間の3次元化による地下埋設物等との3次元情報の共有や掘削深度や遺構密度の可視化は、開発事前協議の効率化にも有効であり、3次元情報を扱えるシステム構築が課題ともいえる。

【註】

(1)川崎志乃2022「児童生徒を対象とした遺跡情報システム(GIS)の活用」『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用4』奈良文化財研究所研究報告第33冊 pp.164-166

(1)川崎志乃2023「遺跡情報システム(GIS)を用いた埋蔵文化財の保護と活用」『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用5』奈良文化財研究所研究報告37冊 pp.216-219

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都道府県 : Mie Prefecture
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文化財種別 :
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キーワード : 地理情報システム タブレット アーカイブ 記録
データ権利者 : 川崎志乃
総覧登録日 : 2024-03-22
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