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災害考古学と防災・減災への貢献
Framework of Disaster Archaeology for the Contribution to Disaster Prevention and Mitigation

斎野 裕彦 ( SAINO Hirohiko )
おわりに
 人類が経験してきた災害のなかで、古くから高い関心をもたれていたのは地震・火山災害である。古代ギリシャでは、紀元前426年の夏、トゥキュディデスがエーゲ海沿岸西部で起こった地震と津波による災害の記録を残し、すでに両者の連動性を指摘しており、紀元前4世紀には、アリストテレスが地震の生因と、噴火、津波との相互の関連性を思考している。その後、ローマ帝国時代には、紀元後79年の夏、イタリア中部の西海岸にあるポンペイの町がヴェスビオ火山の噴火に伴う火砕流で埋没する災害が発生し、その様子をプリニウスの残した手紙が伝えている。ポンペイは、遺跡として16世紀に発見され、1748年から発掘調査が継続して行われ、当時の町がそのままの状態で見つかり、世界文化遺産に登録されている。この研究活動の大きな成果は、文献史料(プリニウスの手紙)の内容を被災遺構の調査で検証していることと、遺跡を現地で一般に公開して防災・減災に役立てていることであり、災害考古学の原点といえる。
 近年、世界的に自然災害が増加する傾向にあるなか、欧米では、サントリーニ島の火山噴火やポンペイ遺跡のように地震・火山災害は東地中海では古くから研究対象となっているが、気候変動や環境変化が人類活動へ与えた気象災害への関心が高いのに対して、日本列島では、気象災害だけでなく、地震・火山災害への関心は高く、共に防災・減災の対象になっており、災害考古学が果たす社会的な役割は大きくなってきている。
 地球科学の一分野としての災害考古学の針路は、気象災害と地震・火山災害の痕跡を総合的に研究できる日本列島周辺において調査研究方法の確立に向けて議論を進展させて、その成果を他地域の研究者とも連携しながら共有することである。なかでも、複合的な地震災害、噴火災害、津波災害を対象とした地震・火山災害痕跡の研究(テクトニック・アーケオロジー)は、地域を越えて地球規模で進め、総合化した議論を行っていく必要がある。そして、この研究で重視されるのは、人類の寿命からすると、低頻度で発生する大きな地震・火山災害を経験によって予測することはできないが、災害考古学は、それぞれの地域で、数百年前あるいは数千年前の災害に対応した人類の行動を地形環境とともに復元し、時間を越えて、擬似的にイメージできることである。
 災害考古学にとって、日本列島は地球上で最も自然災害が多い地域の一つであることからフィールドとして重要であり、加えて日本の考古学は旧石器時代から近代まで世界に類のない豊富な発掘調査データを蓄積している地域であることから、その研究の今後には、個々の災害を前後の時期を含めて通時的に理解する方法に基づいて、日本を始め、世界各地の災害痕跡の調査や防災・減災の議論への多大な貢献が期待される。
NAID :
都道府県 : その他
時代 弥生 平安
文化財種別 その他
史跡・遺跡種別 その他
遺物(材質分類) その他
学問種別 考古学 地質学
テーマ その他
他の電子リソース :
総覧登録日 : 2022-09-26
wikipedia 出典テンプレート : {{Citation ... 開く
wikipedia 出典テンプレート : {{Citation|first=裕彦|last=斎野|contribution=災害考古学と防災・減災への貢献|title=第1回 日本災害・防災考古学会 研究会資料・予稿集|date=2022-09-22|url=https://sitereports.nabunken.go.jp/129910|doi=10.24484/sitereports.129910}} 閉じる
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