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デジタル技術による文化財情報の記録と利活用 > 6 号 > 文化財とOECM ~トカゲ学芸員がつなぐ文化財と自然史~

文化財とOECM ~トカゲ学芸員がつなぐ文化財と自然史~

青木 孝賢 ( 長野市立更北中学校 )

Cultural properties and OECM -Story of Cultural Mr. Lizard and his dream of connecting cultural properties and natural history-

Aoki yoshitaka  ( Kohoku Junior High School ) )
青木 孝賢 2024 「文化財とOECM ~トカゲ学芸員がつなぐ文化財と自然史~」 『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用』 遺跡地図・3D・GIS・モバイルスキャン・デジタルアーカイブ・文化財防災 https://sitereports.nabunken.go.jp/online-library/report/35

概要

 著者は「土地利用と生き物の関係からOECMを考える」と題してストーリーマップを制作した。これらのストーリーマップは、2つの提案性をもつ。私たちの住む周辺地域の文化や自然の学びを記録する小さなデジタルアーカイブとしての提案、2)実際に訪れたフィールドの歴史をデジタル空間に展示する提案である。特に今回は、リアル空間とデジタル空間をつなぐ物語の紹介に焦点を絞る。林(2024)が制作したデジタル博物館を活用し、著者自身が関わってきたリアルなフィールド(長野県飯山市蓮)と、地域のデジタル空間をつなぐアイデアの一例として紹介する。なお、本論考のベースとなるストーリーマップは全国規模の大会で第3位に選ばれ、身にあまる評価をいただいた。

OECMとは

 今回は中心の論点ではないが、タイトルにあるOECM(Other effective area-based conservation measures)の説明を記述しておく。保護地区(国立公園など)ではない地域のうち、生物多様性を長期的に保全する地域のことをいう。自然共生サイトともよばれている。候補地の例としては、管理放棄されていない林などから改変前の森林などが残るキャンプ場・城跡・古墳などの遺跡、身近なところでは企業や大学の構内緑地、学校林なども候補地に該当する。ただし、「OECMになったことで立ち入りが制限される」ということはない。

 今回のストーリーマップは、長野県飯山市の蓮を舞台としている。蓮に関することはストーリーマップに次のように示した。

 飯山市の蓮という場所一帯は、信濃川水系流域治水協議会(国土交通省)が推進している「信濃川水系流域治水プロジェクト」で、遊水地にすることが計画されているのを散策後、調べていて知りました。遊水地になるとStory Mapでご覧頂いた蓮の景色は変わってしまうと考えられます。防災のためなのでしょうがないことなのですが、遊水地にすることで蓮の生き物の種類や数は多少変わることが予想されます。2023年4月現在、遊水地にはなっていませんが、いつかは失われていく風景なのかもしれません。となると、我々は変わる前の景色を見て写真などで記録したということになります。その写真などでStory Mapなどを作り、デジタル上に残すことで過去の景色を記憶だけではなく誰でも見られる作品として確実に残すことができるのではないでしょうか?

 このように遊水地という治水を目的とした場所には、多くの生き物の姿が見られる。しかし、著者は、蓮が遊水地になることで、人がその場所で水田として利用していた様子や、生物相の変化があるだろうと捉え、その変化する前の蓮の景観を記録したいと考えた。これを小さなアーカイブとしてストーリマップを制作した。

デジタル博物館&飯山市蓮

 飯山蓮の昔の暮らしを表現する展示会をするとしたらどのような方法がありますか?

 今回訪れた蓮のように基礎自治体よりも小さい地理的スケールで、「昔の暮らし」展示会を実施するときに、どのような方法があるだろうか? そこで、林(2024)の論考にあるオープン化されたデジタル博物館を活用した。この中のデジタル空間に展示されているのは、松下(2024)が示すように飛騨市との関わりで活用した3Dの遺物や、長野市立博物館で制作した石斧等の3Dが展示されている。ゆえに、今回の中の展示は、蓮の暮らしを表現したものではないということをご承知おきいただいて、以下をご覧いただきたい。

 以下は、展示企画を館長に任されたトカゲ学芸員の物語である。次のようなあらすじをもとに動画が制作されている。(漫画デジたる博物館の動画のデータはコチラ

 あらすじ

 あるトカゲ学芸員は新しい企画を任されたが企画が思いつかず困ったので、別件での飯山の取材に向かっていた。しかし飯山に到着しても、考え続けていたトカゲ学芸員は、気づくと薄暗い場所にいた。そこには一台のロボットがおり、そこがデジタル博物館(デジタル空間)であることを知る。その事にはあまり危機感を感じなかったトカゲ学芸員は、デジタル博物館を見学する。しかし、好奇心から範囲外に出てしまい、無空間を落下。気づくと、病院のベッドにおり、自分が電車を降りる際に転んで頭を打ち、気絶していた事を知った。しかし、気絶中にみたデジタル博物館という企画は大成功をおさめたのであった。


 今回は、探究過程の中で、関わったフィールドの過去がどのようであったのだろうかという問いのもと、著者が関心のある生物(トカゲ学芸員)が主人公となり、リアルな空間と、デジタル空間(今回はデジタル博物館)をつないでいる。今回は、林(2024)のデジタル博物館を活用して、そのことを表現したため、実際蓮周辺に存在する地域文化資源を活用したデジタル博物館ではない。今後、基礎自治体レベル、地区レベルの地理的スケールで過去の暮らしをデジタル空間に表現するためには、博物館や民俗資料館など基礎自治体レベルで設置されている博物館の3D化およびその3Dが活用可能な状態になっていることが重要になる。著者のように生物好きの人が文化財に関心をもったり、文化財好きの人が生物に関心をもったりする仕掛けとして、OECM相当のエリアを活用できると良いのではないでしょうか?

謝辞

 今回の論文を執筆するにあたり、ともに取り組んできた更北中学校ものづくり部理科班の仲間、同顧問の佐々木宏展先生、須坂市技術情報センターの科学クラブスタッフの皆様、特に、GISの指導をいただいた水野博史には感謝を申し上げる。また、執筆の機会をいただいた奈良文化財研究所の皆様、多くの活動の支援をいただいた皆様にこの場を借りてお礼を申し上げる。

引用文献および参考文献

1)環境省 30by30 自然共生サイト

https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/

2)青木 孝賢、土屋 祐輔、小山 竣大、清水 一基、林 啓太、松下 佑、井上 凜太郎(2023)土地利用と生き物の関係からOECMを考える ~私達の小さなデジタルアーカイブ~.

https://www.esrij.com/news/details/166629/

引用

3)林啓太(2024)Unityと3Dスキャンを利用して作成したデジタル博物館.奈良文化財研究所研究報告「デジタル技術による文化財情報の記録と利活用6」

4)松下佑(2024)学校教育でのデジタルアーカイブ. 奈良文化財研究所研究報告「デジタル技術による文化財情報の記録と利活用6」


NAID :
都道府県 : 長野県
時代 :
文化財種別 :
史跡・遺跡種別 :
遺物(材質分類) :
学問種別 :
キーワード : OECM ストーリーマップ 小さなデジタルアーカイブ 地域文化資源
データ権利者 : 青木孝賢
総覧登録日 : 2024-03-26
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