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デジタル技術による文化財情報の記録と利活用 > 6 号 > 学校教育でのデジタルアーカイブ ~文化財のデジタルアーカイブをして感じたこと~

学校教育でのデジタルアーカイブ ~文化財のデジタルアーカイブをして感じたこと~

松下 佑 ( 長野市立更北中学校 )

Digital archives in school education -What I felt while digitally archiving cultural properties-

Matushita Yu ( Kohoku Junior High School )
松下 佑 2024 「学校教育でのデジタルアーカイブ ~文化財のデジタルアーカイブをして感じたこと~」 『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用』 遺跡地図・3D・GIS・モバイルスキャン・デジタルアーカイブ・文化財防災 https://sitereports.nabunken.go.jp/online-library/report/30

1.小学生の映像制作

もともと小6の時から映像制作を行っていた私は中学生になり大きく環境が変化した。ここでいう環境とは、学ぶ環境、特に動画制作に関する環境のことである。学校と家庭の境界がうすれたこと、またクラウド化により学校と家庭の間で同じデータを扱えるようになったことである。小学校時代の映像制作は完全に単なる趣味であり、勿論学校で制作すること、そして発表する事は不可能に等しかった。家にあるパソコン、家にあるカメラ、完全に家庭内で環境を整え、何とか映像制作ができるという状況であった。操作方法がわからなくなっても教えてくれる人間は周りにいなかったので、インターネットで検索し、自分なりに何とか対処していた。また、動画が完成したとしても個人で楽しむ程度であり、周りに発表することはなかった。 また、当時(2020年度)の小学校ではそもそも映像制作に触れることがほぼ不可能であった。学校でデジタル(WEBサイト検索やパワーポイント等)に触れることができたとしてもPC室の共有パソコンを先生の指示通りに扱う事が基本であり、表現の幅はとても狭いと感じていた。中でも、動画制作の過程で自分の情報を収集・選択し、自分なりの伝わる工夫をしていた状況と比較すると不自由で、狭い世界と感じていた。

2.石川条里遺跡の見学

その後、中学校に入学し、2021年5月末に私は長野県長野市篠ノ井塩崎に位置する石川条里遺跡を見学し、その際、当時使用が開始された文部科学省のGIGAスクール構想に基づき整備されたタブレット端末を一人一台もち、自分の視点で自分の気になる場所を記録していった。そして、私はその際に動画ですべて記録した。今までは見学場所ではメモが当たり前であったが、カメラで様子を記録することで今までよりも詳しく、容易に記録をすることができるようになった。また、見学後にそれぞれの発見や感想を共有する際の今までは口頭や文字が中心であったのが、写真を使用したりすることでよりわかりやすく、かつ具体的に一人一人の発見や感想を今までよりも安易に共有することができるようになった。

また、見学後、動画をまとめた上で、部活内上映会を実施した(図1)。自分にとって初めて学校内で自分の映像作品を発表する事となった。初めて視聴者と対面で発表することとなり、映像作品の感想や反応を間近で見ることができ、とても良い機会となった。また同時期にGIGAスクール構想によって一人一台端末が貸与されたことにより、中学生でも動画制作ができることが証明されることなった。これまでは多くの人がスマートフォンなどで記録程度に撮影した動画に対し、それを編集し映像制作をするということはハードルが高いように思われていたかもしれないが、発表会を通して「自分でもできるかもしれない」と思ってもらえたのではないかと考える。

図1 石川条里遺跡の見学の様子と部活内上映会の様子


3.長野県埋蔵文化財センターの見学

2021年8月上旬に私達は長野県長野市篠ノ井に位置する長野県埋蔵文化財センターを訪ね、そこで同年5月末に見学に行った石川条里遺跡などで実際に発掘された文化財をどのような工程で記録、デジタル化をしているかを見学させてもらった。また、その際に、実際に現場で活躍されている馬場伸一郎氏および市川隆之氏の2名の方にインタビューすることができ、一人一人がそれぞれの視点において聞きたいことをインタビューすることができた。また、それにより今後の文化財に関する考えなどを私達中学生と実際に作業されている長野県埋蔵文化財センターの方々と共有することができた。


図2長野県埋蔵文化センターの見学およびインタビュ ー


4.映像制作と見学を通じて

 これらの映像制作と見学を通じて下記の3点を感じた。 1)GIGAスクールにより誰でもデジタル上で自由に表現できるようになったこと、 2)個人の考えや視点をデジタルアーカイブでより具体的に表現できるようになったこと、 3)デジタルアーカイブによりより多くの人に発信をすることができるようになった ことが挙げられる。

1)GIGAスクールにより誰でもデジタル上で自由に表現できるようになった

GIGAスクール構想により一人一台端末貸与によって個人がデジタルを活用し、様々な表現ができるようになったと感じた。動画やイラスト、文章など多種多様な表現方法があり、それぞれが最も適切であると考える方法で行うことができるのではないかと考える。

2)個人の考えや視点をデジタルアーカイブでより具体的に表現できるようになった

デジタルでアーカイブをすることで、今までとは異なる様々な方法で自分の視点を記録する事ができるのが特徴であり、魅力であると考える。文字ベースで記録していたものを動画や写真などで記録することで、以前よりも手軽にそして詳しく記録することができるようになった。

3)デジタルアーカイブによりより多くの人に発信をすることができるようになった

デジタルでアーカイブをすること、また、必要に応じSNSで発信することで組織内にとどまらず、より多くの人から様々な観点で感想や意見を伺うことが容易にできるようになった。アナログだけでは拡散に限界があったものが、デジタルにすることでより容易にかつスピーディーに拡散、発信することができるようになった。しかし、それと同時に危険性などについても理解することが必要であると感じた。そのときに出会った考え方が、クリエイティブコモンズライセンスおよびオープンデータの考え方であった。

5.Wikipediaによるアーカイブ

 その後私達は2021年10月から専門家の方を交え、デジタル百科事典Wikipedia上に、見学して知ったことなどを掲載した。また活動は長野県立図書館にて行い、資料等も司書の方に集めていただき、その情報を整理、掲載した(図3)。


図3 Wikipedia事前準備資料と長野県立図書館での活動の様子


 これらの活動はGIGAスクール端末で行うことができ、中学生なら誰しもが発信することができるということが実証された。しかし、それと同時に数々の課題も浮きぼりとなった。例えば参考文献など、日頃あまり目にしないようなものはどのように扱うのが良いのかよくわからないという状況になった。また、画像の著作権や肖像権の問題があり、それらを適切に把握し掲載する必要性があるため、専門家がすぐそばにいる状況下でないと不安になった。それでもGIGAスクール端末の活用を通じて自分なりの発見などを自分なりにまとめ、世の中に発信できたことはものすごく大きな成果であったと考える。

6.iPhoneのライダースキャナーによる3Dでのデジタルアーカイブ

 その後2022年になり、須坂市にある須坂市技術情報センターよりApple社より発売されているiPhone 13 Proを貸していただき、私たちは新たに3Dでのデジタルアーカイブをすることができるようになった。これまではデジタルアーカイブとは言えど、写真や動画など2次元でのアーカイブが限界だったのが、iPhoneのライダースキャナーにより手軽にそして細かく記録することができるようになった。特に石碑など、特定の対象物をアーカイブするという点において、その成果は顕著であった(図4)。


図4 3Dスキャンと3D編集の様子


7.千葉県・大網白里市との交流

 2022年5月28日、考古形態測定学研究会主催の「考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロンonline #21デジタルミュージアムと学校教育連携の可能性」にオンライン参加し、千葉県の武田剛朗氏(大網白里市教育委員会)と意見交流をした。それぞれの文化財とデジタルの関係性について、また、それぞれの環境における問題点を共有した。中学生と文化財関係者の間には一見共通点がないように見えるものの、中学生の活用の視点を中心に、大網白里市が公開するデジタル博物館の3D土器の活用アイデアや(表1・図5)、今後どのようにデジタルアーカイブをするかを考えることができた。

考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロンにて発表

 2022年8月6日、主催:考古形態測定学研究会の「考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロンonline #26文化財情報を活用するGIGAスクール×文化財・博物館の取組み」にオンライン参加し、私たちが今まで行ってきた文化財におけるデジタルアーカイブを発表した。個々がそれぞれの視点で、自分なりのスタイルで発表した。 そして、それぞれの発表を受け、多くの人から「中学生」というキーワードを多くもらった。「中学生でもこんなにできるんだ」と驚きながら評価してくれた方が多数いた他、「中学生らしい」といった評価してくださる方もいた。これらの感想を受け、世代によって視点が異なることや発想が異なることがわかり、視点や発想を共有することに大いに価値があるのではないかと考えに至った。世代が異なればその世代ごとに感覚も異なる。生まれた時からデジタルが浸透している人もいれば、アナログ時代に生まれ、長らくアナログを多用してきた人もいる。このように世代ごとに価値観や環境は異なるが、それでもそれぞれの世代を超えた交流をすることで世代ごとの良さを融合した新たな考えや視点が生まれ、時にはそれがとても重要で価値のある物になるのではないかと考える。世代を超えた関わりをすることで同世代だけでは思いつかなかったアイデアなども盛んに生まれるのではないかと考える。その為にも積極的に世代を超えた関わり、それぞれの視点や考えの共有は非常に重要であると考える。

図5 デジタル博物館で何したい?




8.飛騨古川にておこなったデジタルアーカイブに関する共有

 2022年11月に岐阜県の飛騨において考古学関係者方々と交流し、私たちの発表と意見を交流した。そこではそれぞれの環境下における問題が浮き彫りとなった。立場が異なるだけでできること、できないことがあり、それらをどのように対処するかを別の立場の人間とともに考える良い機会となった。

 それぞれの立場に視点をおいて考えることで実際に問題共有をしてもらえなければ思いつかない事も視点を変れば別のアイデアが思いつくという事を実感するいい機会となった。 それぞれの場で発表の様子の写真学校教育におけるデジタルアーカイブにおいて必要なこと 、これらのデジタルアーカイブはすべて学校で行った。そしてこのデジタルアーカイブを通じて下記の2点がとても大切であると感じた。

1)専門家など多くの人との関わり

2)多くの人の前で発表し、その後、意見交流をする場

  1)は今回のデジタルアーカイブ活動は専門家の方など多くの方々のご協力があってこその活動であり、もし専門家の方々に相談したりすることができなければこのようなことはできなかった。特に著作権などに関しては私たちの知識だけでは到底足りず、専門家の方々と密接に相談し、コミュニケーションを取る場が必須であった。このようにデジタルアーカイブでは多くの人に容易に発信等することができる半面、その危険性や問題は数知れず存在する。それらは自己判断ではなく、必要に応じ専門家の方々から助言をいただき、総合的に判断をする必要性がある。その為にも、専門家など多くの人と関われる環境というのは特に未熟な子供が多い学校教育においてはとても必要なことである。

 2)は「3.デジタルアーカイブの発表を通じて」でも述べた通り、多くの人の前で発表し、その後、意見交流をする場はとても重要であり、特に今後、人生において様々なことに取り組むであろう私たち中学生にはものすごく必要な機会であると考える。この先どのようなことがあるのかわからない私たちは先人の生き方や知恵などから考えそして何をするか考えることは多々ある。その時に様々な視点や考え方があるということが、とても重要なのではないかと考える。その為にも学校教育において特に世代を超えた関わり、意見交流する場は必要なのではないかと考える。

9.終わりに

 これらのデジタルアーカイブや探究活動は周りからの多大な協力を受け、影響を強く受けて行った。決して一人だけでは行くことがないような世界に踏み入れることができた。そしてそれによって視点を広げることができ、また新たな出会いを作ることができた。そしてそれによりまた新たな世界に入ることができ、この数年間で様々な視点を見つけることができたのではないかと思う。これからもこの視点を大切に活動していきたいと思う。

謝辞

 今回の論文を執筆するにあたり、ともに取り組んできた更北中学校ものづくり部理科班の仲間、同顧問の佐々木宏展先生、須坂市技術情報センターのスタッフの皆様、快くインタビューに応じてくれた長野県埋蔵文化財センターの職員の皆様をはじめ、多くの活動の支援をいただいた皆様にこの場を借りてお礼を申し上げる。

参考文献

1)みんキャプ2022 https://2022.minc.app/

2)考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロンonline #21

デジタルミュージアムと学校教育連携の可能性

https://peatix.com/event/3229939?lang=ja

3)考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロンonline #26

文化財情報を活用するGIGAスクール×文化財・博物館の取組み

https://peatix.com/event/3291089?lang=ja


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キーワード : GIGAスクール デジタルアーカイブ ライダースキャナー 3Dモデル 地域文化資源 世代をこえた交流
データ権利者 : 松下佑
総覧登録日 : 2024-03-26
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