東北地方太平洋沿岸における歴史津波の評価をめぐって
Evaluation of Historical Tsunami in the Pacific Coast of Tohoku Region
蝦名 裕一
( EBINA Yuichi )
本報告では、東北地方太平洋沿岸で発生した歴史地震津波、特に1454年享徳地震津波と1611年慶長奥州地震津波について、現在における歴史学、地質学、考古学の知見から総合的な評価を試みたものである。現在確認されている史料によれば、近年その存在が確認された享徳地震津波であるが、その規模については史料から明確な情報が得られず、不明とするしかない。慶長奥州地震津波については、これを特定できる津波堆積物が岩手県から宮城県にかけて確認でき、史料も北海道から東北地方太平洋岸の各地域で確認されていることから、広範囲に被害をもたらした地震津波災害であることを明らかとした。一方、近年の慶長奥州地震津波の研究に対して、これを震災史観として否定的にみる見解があるが、現段階では震災史観そのものの定義が曖昧であり、さらにこれに端を発した研究が慶長奥州地震津波の規模を不当に過小評価している点について、『言緒卿記』の史料分析などから明らかにした。