静岡県東部における縄文時代草創期後半から早期の石器群 ―石器群から見た居住パターンの変化について―
中村 雄紀
静岡県東部地域では、縄文時代草創期後半に竪穴住居が出現し、早期には集落遺跡の存在が一般化する。本稿では当該時期の居住パターンを考察するため、帰属時期が明らかな石器群の事例を集成し、石器分布のパターンの検討を行った。その結果、時期によって次のような変化があることが分かった。草創期後半には住居内部を中心に石器や剥片類が残される傾向がある。早期撚糸文期以降は住居跡内部から出土する石器が激減するのみならず住居跡を伴う集落遺跡での石器製作の痕跡が希薄になり、集落とは別の地点で石器集中が形成される事例が、特に押型文期、条痕文期の遺跡に顕著に認められる。早期終末の打越式以降になると集落遺跡内に多数の石器・剥片類が残され、しばしば住居覆土にも廃棄されたものと考えられる。こうした石器群の残され方の違いは石鏃など狩猟具を中心とした石器製作の場の配置の変化を反映したものであり、狩猟のスケジュールや季節性と対応した居住パターンの変化と密接に関わっていたものと考えられる。