古代寺院3DGIS科研研究集会予稿集
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遺跡地図GISの現在地
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遺跡地図GISと文化財総覧データの連携
遺跡地図GISと文化財総覧データの連携
武内 樹治 ( 奈良文化財研究所 )
Integrating Archaeological Site Map GIS with the Comprehensive Database of Cultural Heritage in Japan
Takeuchi Mikiharu ( Nara National Research Institute for Cultural Properties )
Submitter :
考古形態測定学研究会
- 東京都
Page view : 262
武内樹治
2025
「遺跡地図GISと文化財総覧データの連携」
『古代寺院3DGIS科研研究集会予稿集』
遺跡地図GISの現在地
https://sitereports.nabunken.go.jp/online-library/report/115
第1章 はじめに
本報告では、まず二次利用可能な形で公開されている遺跡地図のGISデータの概要を確認した上で、そのGISデータをどのように考古学に活用できる研究資源として利用できるかについて検討する。その際に全国文化財総覧での抄録データベースに着目する。最後に、様々な埋蔵文化財・考古学データが二次利用可能な形で公開されることによって広がるデータ駆動型研究について展望を述べていく。
第2章 遺跡地図GISデータの公開
遺跡地図は埋蔵文化財包蔵地の位置や範囲を記載した地図である。特に、文化財保護法95条にある周知の埋蔵文化財包蔵地の資料の整備とその周知の徹底のために、国や地方公共団体が整備しているものであり、「埋蔵文化財の保護と発掘調査の円滑化等について」(庁保記第75号)の通知でも記載がある。これらは紙媒体で整備されていたが、近年ではデジタル化が進んでいる(注1)。ネット上でのPDF公開やWebGIS公開も進んでいる。さらに、遺跡地図のGISデータとして二次利用可能な形式での公開も広がっている。
2025年4から5月にかけて調査したところ、遺跡地図を二次利用可能なGISデータとして公開している都道府県は、13都道府県であった。その多くがクリエイティブコモンズライセンスCC-BYでの公開であり、GeoJSONやシェープファイル、ジオパッケージ形式での公開であった(図1)。これらの遺跡地図GISデータの二次利用可能な形での公開は、行政として整備すべき埋蔵文化財包蔵地の資料の整備と周知の徹底に基づくものと、官民データ活用推進基本法(平成28年法律第103号)などをはじめとするオープンガバメントの考えに基づくものと考えられる。
図1 二次利用可能な形で公開してある遺跡地図GISデータリスト
二次利用可能な形で公開されている遺跡地図GISデータは、基本的には、即座にQGISなどのGISソフトウェアで閲覧することでき、分析も可能である。特に考古学研究においては、基本的な遺跡の位置関係や分布図の図化が作成しやすくなっただけでなく、遺跡の地理空間情報を用いた空間分析や統計的な分析も敷居が低くなったといえる。
ただし、遺跡地図GISデータは各都道府県によって属性データは様々である。それぞれの遺跡地図GISで、他の都道府県のものでできたことが、他の都道府県のもので可能であるとは限らない。さらに、全国の自治体ごとに遺跡範囲の考え方の多様性もあり(桑波田2024)、必ずしも客観的で統一的な指標で遺跡範囲の線引きや発掘調査が終了した地域の取り扱いなどが運用されているわけではないため、複数の遺跡地図データを組み合わせる際には注意が必要である。
公開されている遺跡地図GISデータに考古学的な研究に用いることができる属性、例えば出土遺構や時代などの情報が整備されていないこともある。そこで、遺跡地図GISデータと、発掘調査情報に関する抄録データなどをデータ突合して、考古学研究に活かすことができないかと企図する。遺跡地図GISデータに遺跡に関する属性情報が整理されて、遺跡の考古学的な情報が加われば、考古学研究として重要な研究資源となりうる。
第3章 遺跡地図GISデータと抄録
抄録とは、発掘調査の基本的情報である調査組織及び調査員,遺跡で得られた成果等を所定の様式の一覧にして巻末等に付するものである(埋蔵文化財発掘調査体制等の整備充実に関する調査研究委員会 2004)。抄録がデータベース化が行われ、現在は全国文化財総覧にデータ結合されている。2025年8月上旬時点で15万件以上の抄録が既に全国文化財総覧に登録されている。
抄録には、調査した遺跡の名称や、種別、該当する主な時代、出土した主な遺構・遺物、特記事項を記す欄があり、これらに遺跡の考古学的な情報が盛り込まれている。これらの情報を先ほどの遺跡地図GISとデータ結合することができれば、効率的に遺跡の範囲データに考古学的な属性を加えることができる。
ただし、データを結合するにも結合する際のキーとなる属性が課題となる。全国的な遺跡IDはなく、同名の遺跡もあるため単純な遺跡名結合は難しい。遺跡番号や所在市町村などの情報を掛け合わせて結合する必要がある。
遺跡地図GISデータにて、遺跡範囲がポリゴンデータとして整備している際には、当該遺跡範囲上にある抄録データをGIS上で空間検索して、それぞれの属性を結合することもできるであろう。
また、野口ら(2025)は関東平野西部、旧武蔵野国西~南部の範囲について、各自治体が公開している遺跡地図・台帳をもとにGISデータ化して、通時的な人類の活動、社会ー環境の相互作用動態と土地利用変遷史の解明を試みている。ここでは、遺跡範囲の代表点位置座標を取得してのポイントデータを整備している。このデータに抄録データを突合することができれば、より詳細な分析ができることが期待できる。
第4章 データ駆動型研究に向けて
抄録データはある程度の遺跡の概要や当該発掘調査の出土遺構・遺物を把握できるものの、情報量としてはそれほど多くない。発掘調査報告書は抄録データよりも豊富な情報を提供する。特に、詳細な出土地点、出土遺物の詳細、出土数量などの情報は、抄録では一括でまとめられてしまうことが多い。しかし、内容を把握するには膨大な量のページ数とテキストを閲覧する必要があり、膨大な数の遺跡で報告書から情報を集めるには時間がかかる。
現状は、発掘調査報告書を閲覧するには紙媒体かPDFデータがほとんどであり、機械判読性は高くなく、閲覧者が個々に調べる必要がある。報告書データに関する生データの公開はそれほど多くないのが現状であり、公開されている例はごく一部である。(注2)
そこで、自然言語処理技術を用いて報告書のPDFから必要な出土遺構・遺物のデータセットを抽出できれば作業を効率化できる。つまり、PDFという非構造化データから、構造化データへの転換・抽出である。こちらについては既に実践の試みがあり(山本 2025)、様々なAIや技術の向上で精度が高くなることも期待される。
全国文化財総覧に蓄積されている報告書PDFからAI・自然言語処理技術で必要な出土遺物・遺構のデータセットが抽出でき、それを抄録の位置情報(発掘調査地点の代表点の北緯・東経)や遺跡地図GISのデータと連携することで、地理上で様々な情報を可視化することができる。GISの様々な機能を用いて、例えば特定の2つの遺物の出土地点分布を比較して関係性がないかなど、を調査することもできる。これはデータ駆動で遺跡の地理空間情報を活用しながら分析するとともに、仮説の立案の一助ともなり得る。
第5章 おわりに
遺跡範囲GISデータについては、今後も公開する自治体が増加することを期待したいが、フォーマットなどは揃えた方が望ましいであろう。例えば、デジタル庁によるオープンデータサイトでは、政府として公開を推奨するデータと、そのデータの作成にあたり準拠すべきルールやフォーマット等をとりまとめた自治体標準オープンデータセットが公開されている(注3)。公共施設一覧や指定緊急避難場所一覧など、31の項目について、定義書が公開されている。遺跡地図に近いものでは、「文化財一覧」がある。さらに「文化財一覧」データセットを作成する際に整備する項目として、「名称」や「文化財分類」、「住所」などの45個の項目が用意されている。また、「文化財分類」など、分類を記載する必要がある場合は、選択肢も一覧として出しており、データ作成者はそこから選ぶ形となっている。
このような他のデータ作成基準や標準化の事例なども参考にしつつ、遺跡地図の公開データセットも整備されていくと、様々な活用の可能性が広がるであろう。また、それと紐づけられるような情報の整理も必要である。これまで大量の埋蔵文化財調査の蓄積をいかにビッグデータとして利活用できるかも検討する必要がある。
注・参考文献
・注1 文化庁 周知の埋蔵文化財包蔵地(令和4年3月)資料より
(https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/pdf/93717701_02.pdf)
・注2 例えば、秋田市は以下のサイトにて報告書に記載のある石器属性表のExcelファイルを公開している。
秋田市 秋田市埋蔵文化財調査報告書『地蔵田遺跡 旧石器時代編』について
(https://www.city.akita.lg.jp/kurashi/rekishi-bunka/1011795/1010787/1002234.html)
・注3 デジタル庁 自治体標準オープンデータセット(正式版)
(https://www.digital.go.jp/resources/open_data/municipal-standard-data-set-test)
・桑波田武志 2024「遺跡地図の現状と課題」月刊文化財,731,8-11.
・野口淳・高田祐一・武内樹治 2025「考古遺跡の中広域動態からみた土地・景観利用の変遷史」日本考古学協会第91回総会研究発表要旨,107.
・埋蔵文化財発掘調査体制等の整備充実に関する調査研究委員会 2004 行政目的で行う埋蔵文化財の調査についての標準(報告) (https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/pdf/hokoku_06.pdf)
・山本 湧大・武内 樹治・大内 啓樹・高田 祐一 2025「大規模言語モデルを用いた発掘調査報告書からの考古学情報抽出」言語処理学会 第31回年次大会 発表論文集, 155-160.
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都道府県 :
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文化財種別 :
埋蔵文化財
史跡・遺跡種別 :
遺物(材質分類) :
キーワード日 :
地理情報システム
遺跡地図
データ駆動型研究
キーワード英 :
Geographic Information Systems
Archaeological Site Map
Data-Driven Research
データ権利者 :
武内 樹治
総覧登録日 :
2025-08-15
wikipedia 出典テンプレート :
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