デジタル技術による文化財情報の記録と利活用
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XR・LiDAR・3D・デジタルアーカイブ・知的財産権 7 号
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人口減少による文化財リスクに関する空間的把握の試み
人口減少による文化財リスクに関する空間的把握の試み
武内 樹治 ( 奈良文化財研究所 )
A Spatial Analysis of Risks to Cultural Heritage Due to Population Decline
Takeuchi Mikiharu ( Nara National Research Institute for Cultural Properties )
Submitter :
奈良文化財研究所
- 奈良県
奈良文化財研究所
- 奈良県
Page view : 309
武内樹治
2025
「人口減少による文化財リスクに関する空間的把握の試み」
『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用』
XR・LiDAR・3D・デジタルアーカイブ・知的財産権
https://sitereports.nabunken.go.jp/online-library/report/105
本稿では、文化財リスクの一つである人口減少について将来予測を試みたものであり、人口減少が進んでいくなかで、実際にどれくらいの建造物がどれくらいの人口減の影響を受けるかを定量的・空間的に提示してみたものである。2020年に50人以下の集落に位置している建造物は308件であったものが、2045年には952件まで増加するなど、建造物を取り巻く集落が人口減によって人口規模の少ない地域になっていくことが分析によって定量的・空間的に示すことができた。他のスケールによる分析の検討など課題はあるものの、人口減少による文化財のリスク評価と対策が求められるであろう。
1 はじめに
文化財は災害をはじめとして、様々なリスクを抱えている。その中でもこれまで文化財を支えてきた地域社会の変化は文化財の保存継承に大きく影響するであろう。人口減少、少子高齢化は全国各地の文化財保存活用大綱・地域計画などでも課題として触れられている(注1)。文化財と人口減少に関する地理空間情報を用いてそのリスクについて事前に予測することは、今後の文化財の保存継承に関する取り組みを考えるうえで重要である。既に渡邉(2024)によって四国地方を対象として人口減少下での指定文化財の分布的特徴が特定されている。
そこで、全国的な人口減少における文化財リスク予測の方法の一つとして、文化財の情報と人口推移のデータを組み合わせて、今後の文化財をとりまく地域の人口減少が進んでいく様相を定量的・空間的に提示することを目指した。本稿では、その試行分析について示していく。なお、ここでは文化財については、国指定(国宝・重要文化財)、都道府県指定文化財の建造物を扱っていく。
2 試行分析データと方法
文化財情報と、人口推移に関するデータを用いて地理情報システム(GIS)上で分析する。
2.1 文化財情報
まず、文化財情報の地理空間情報を収集・整理していく。国指定(国宝・重要文化財)の建造物については文化庁が公開している国指定文化財等データベース(注2)を用いる。GIS上で展開する際に必要となる緯度・経度が入っている建造物レコードは5,401件であった(図1)。
都道府県指定文化財の建造物については、各都道府県が公開している文化財オープンデータを用いる。文化財はデジタル庁がオープンデータとして公開することを推奨しており、フォーマットなどが公開されている(注3)。ただし、一部の都道府県においては文化財オープンデータが整備・公開されていない場合があり、その場合は各都道府県の担当部局のウェブサイトに掲載されている文化財一覧情報(例:文化財目録PDF)をもとにデータを作成した。位置情報が整理されていない場合は、文化財名称やその他の文化財項目をもとに、文化遺産オンラインや各都道府県や市町村による文化財の個別紹介のウェブサイト、さらには検索エンジンでヒットした情報をもとに位置情報を取得した。位置情報を取得できたものは2,446件であった(図2)。

図1 国指定(国宝・重要文化財)建造物の分布
文化庁の国指定文化財等データベースをもとに筆者作成

図2 都道府県指定建造物の分布
2.2 人口推移データ
農林水産省が公開している2020年、2045年の将来推計人口データを利用する(注4)。それらを地理空間情報として扱うために、同じく農林水産省が公開している農業集落境界GISデータ(注5)を利用し、属性情報として推計人口データを統合した(図3,4)。なお、データは2024年5月に取得している。

図3 2020年の愛媛県における人口分布
農林水産省のデータをもとに筆者作成

図4 2025年の四国地方における人口(将来推計)分布
農林水産省のデータをもとに筆者作成
2.3 分析の方法
文化財情報の位置情報を用いて、GIS上で文化財所在地の農業集落の将来推計人口の値を文化財ごとに集計した。本稿で扱う、文化財・人口データの地理空間情報の可視化・分析はQGISで行った。
3試行分析
まず、人口減少の進展について将来推計人口データを用いて確認する。表1に、人口規模ごとに農業集落の数を2020年、2045年それぞれ集計した数値と、人口規模ごとの2020年、2045年を比較した際の増加率を示した。人口が101人以上の集落数は減り、100人以下の集落数は増えており、特に1~10人規模の集落数は3倍以上に増える。また、約900の集落が無人化することになる。ここで人口減少が着実に進み、人口の少ない集落が増えることが定量的に把握することができた。
表1 人口推移に基づく2020年・2045年の集落数の比較

次に、人口推移と文化財の関係についてみていく(表2)。分析の結果、2020年時点で10人以下の集落にある対象となる建造物は34件、50人以下では308件あった。2045年にはそれぞれ142件、952件まで増加する(表2)。2020年と2045年で比較したところ、50人以下の農業集落に位置する文化財件数の増加率(309.1%)は、農業集落自体の件数の増加率(187.6%)と比べても大きいことが判明した。建造物が位置している集落の人口が50人以下のものを2020年・2045年で地図上で比較したものが図5,6である。全国規模で増加しており、この問題は全国規模でも考える必要がある。無人化していく集落に位置している指定文化財の建造物も数多くあり、文化財の継承に対して何らかの対策が必要である。
表2 人口推移に基づく2020年・2045年の文化財建造物数の比較


図5 2020年 50人以下の集落の国宝・重要文化財/都道府県指定建造物分布

図6 2045年 50人以下の集落の国宝・重要文化財/都道府県指定建造物分布
4おわりに
本稿では、文化財リスクの一つである人口減少について将来予測を試みたものであり、人口減少が進んでいくなかで、実際にどれくらいの建造物がどれくらいの人口減の影響を受けるかを定量的・空間的に提示してみたものである。2020年に50人以下の集落に位置している建造物は308件であったものが、2045年には952件まで増加するなど、建造物を取り巻く集落が人口減によって人口規模の少ない地域になっていくことが分析によって定量的・空間的に示すことができた。その結果から、人口減少による文化財のリスク評価と対策が求められる。
建造物は現位置からの移築が容易でない。人口減少に伴い日常的な管理を担う人員が減り、災害対応も難しくなる。建造物内にある収蔵品の盗難リスクもある。自動スプリンクラーなどの防火対策や監視カメラの設置などは解決策の一つとして考えられるであろう。そのような文化財の現状をどのようにデジタルアーカイブして継承していくかも検討事項の一つである。
本研究では農業集落単位で集計したが、実際の文化財の管理・継承は小学校区や旧市町村単位などで行われている場合もあり、メソスケール・ミクロスケールでの集計の比較を行い、より実際の文化財管理の実態に沿ったスケールでの分析が求められるであろう。オープンデータとして公開されている人口や現代の集落スケールのデータのみでなく、例えば明治期の集落単位などの分析も今後考えていく必要がある。また、さらなる分析を続ける際には、農林水産省による将来推計人口について批判的検討を行う必要があるであろう。さらには文化財の現地調査での実態把握なども行う必要があろう。
文化財には災害をはじめとして、様々なリスクを抱えている。その中でもこれまで文化財を支えてきた地域社会の変化は文化財の保存継承に大きく影響するであろう。そのリスクについて事前に予測することは今後の文化財の保存継承に関する取り組みを考えるうえで重要である。
本稿は、日本地理学会2025年春季学術大会にて報告した内容を大幅に加筆修正したものである。
参考文献
渡邉敬逸 2024.人口減少化における指定文化財の分布とその管理に関する予察 四国地方を事例として.人文地理学会歴史地理研究部会 報告資料
注
注1 文化庁 2019文化財保護法に基づく文化財保存活用大綱・ 文化財保存活用地域計画・保存活用計画の策定等に関する指針
文化財保存活用大綱の例:愛媛県文化財保存活用大綱
注2 文化庁 国指定文化財等データベース
注3 デジタル庁 オープンデータ
注4 農林水産省 将来推計人口
注5 農林水産省 農業集落境界データ
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文化財種別 :
史跡・遺跡種別 :
遺物(材質分類) :
学問種別 :
考古学
テーマ :
その他
キーワード日 :
文化財
建造物
人口減少
オープンデータ
地理情報システム
キーワード英 :
Cultural Properties
Buildings (Cultural Properties)
Population Decline
Open Data
Geographic Information Systems
データ権利者 :
武内樹治
総覧登録日 :
2025-03-31
wikipedia 出典テンプレート :
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