発掘調査報告書の電子化・公開
Introduction of easy steps to digitize and publish excavation reports on the Internet
奈良文化財研究所
- 奈良県
- はじめに(Introduction)
- 1 報告書を登録する(Register a report)
- 2 情報を整える(Prepare the information to be registered)
- 3 報告書の電子化・公開の特徴(Characteristics of digitizing excavation reports and publishing them to the Internet)
- (1) 電子化とインターネット公開の特徴(Characteristics of Electronicization and Publication in the Internet)
- (2) 全国遺跡報告総覧の特徴(Characteristics of the Comprehensive Database of Archaeological Site Reports in Japan)
- (3) 発掘調査の情報の保存(Method and Procedure for Safely Saving Electronic Information for Archaeological Excavation)
- おわりに(Conclusion)
- 参考文献
はじめに(Introduction)
全国遺跡報告総覧は、より多くの人が、より簡便に、いつでも発掘調査の情報を利用できる仕組みだ。このリポジトリ(英:repository)は、利用者にワンストップ(英:one-stop service)で発掘調査の情報を提供し、全文検索をはじめとする高い検索能力をもち、安心できる保守機能を備えている。全国遺跡報告総覧に発掘調査報告書を登録するには、1冊あたり10分ほどの時間があればよい。ほんの短い間、簡単な登録作業をするだけで、発掘調査報告書をインターネット上に公開することができる。
この文章は、全国遺跡報告総覧に発掘調査報告書を公開する作業の手順と、その手軽さやコツを紹介することを目的として記述した。
1 報告書を登録する(Register a report)
(1) 登録する情報とその構造(Classification of information to be registered and its structure)
発掘調査の情報は、E.S.モースの“Shell Mounds of Omori”(E.S.モース, 1879)から本として公にされてきた。そのため、全国遺跡報告総覧に登録されている情報も、本を探すための書誌情報が基礎となり、これに発掘調査・所収論文・所収遺跡の各情報が装備された構造を採っている。
全国遺跡報告総覧では、本を探すための書誌情報を“書誌的事項”として分類し、19事項で構成している。このうち必須項目は、“書名”・“書名かな”・“編著者名”・“報告書種別”の4事項だけである。さらに“報告書種別”はチェックボックス式となっていて、本を探すための情報は随分と簡便化された記入スタイルに整理されている。
発掘調査・所収論文・所収遺跡の各情報は、いずれも任意の登録項目である。発掘調査の情報は、報告書のPDF(英:Portable Document Format)ファイルをアップロードして登録する。この発掘調査の情報の登録作業は、最少3回のクリックで完了する。所収論文の情報は “タイトル”・“ページ”・“著者名”などの16事項、所収遺跡の情報は“遺跡名”・“遺跡名かな”・“市町村コード”などの13事項を登録する。いずれもユーザーがより便利につかうための情報だからであろう、上記の“〇〇”と表記した事項以外はすべて省略可能となっている。
(2) 登録の手順(Steps to register information)
全国遺跡報告総覧に発掘調査報告書を登録する手順は、以下のとおりである。
全国遺跡報告総覧では、本を探すための書誌情報が既に入力されているケースが多い。したがって、登録する報告書を検索し、その書誌事項を確認することが最初の作業となる。
次に、PDFファイルをアップロード・登録する。PDFのファイル名を“熊本県257小野原遺跡群.pdf”のように作業中に判別しやすくしておくと、誤登録を避けやすくなる。
この後、必要に応じて所収論文・所収遺跡の情報を登録し、作業結果の確認をすると、全国遺跡報告総覧への報告書登録は終了する。
1 > ログイン
・フッター左端のメニュー「スタッフログイン」から入る
2 > 登録する報告書を検索
・左サイドバーのメニュー「検索」または「登録データ一覧」で検索
3 > 書誌情報を確認・入力
・対象報告書の書誌情報があれば、“書誌的事項”セクションの “書名”・“書名かな”・“編著者名”・“報告書種別” 他を確認
・書誌情報がなければ、左サイドバーのメニュー「個別登録」に入り、“書誌的事項”セクションに “書名”・“書名かな”・“編著者名”・“報告書種別” を記入してフッターボタンの「保存」
4 > 発掘調査の情報の登録
・左サイドバーのメニュー「PDFアップロード」に入り、対象ファイルを選択して「アップロード」
・左サイドバーのメニュー「登録データ一覧」に入り、対象報告書の”書名”をクリックして書誌情報を表示
・”書誌的事項”セクションの”PDFファイル”のプルダウンリストから対象ファイルを選択してフッターボタンの「保存」
5 > 所収論文の情報を記入
・左サイドバーのメニュー「登録データ一覧」に入り、対象報告書の”書名”をクリックして書誌情報を表示
・“所収論文・総括類”のセクションに “タイトル”、“ページ”、“著者名” 他を記入して、フッターボタンの「保存」
6 > 所収遺跡の情報を記入
・左サイドバーのメニュー「登録データ一覧」に入り、対象報告書の”書名”をクリックして書誌情報を表示
・“所収遺跡(抄録)” のセクションに “遺跡名”・“遺跡名かな”・“市町村コード” 他を記入して、フッターボタンの「保存」
7 > 作業結果の確認
・左サイドバーのメニュー「登録データ一覧」に入り、登録した報告書の書名をクリックして、作業結果をチェック
・必要に応じてヘッダーボタンの「修正する」から修正作業に移行
2 情報を整える(Prepare the information to be registered)
(1) PDFをつくる(Convert a paper book into an e-book)
発掘調査の情報は、文字・写真・図面によって記述され、紙に印刷されて綴られた報告書、すなわち本として公刊されてきた。この本をPDFファイルに変換してインターネット上のリポジトリ(倉庫)に収め、検索・閲覧できるようにした仕組みが全国遺跡報告総覧である。
発掘調査報告書をPDFファイルに変換するとき、いちばん重要なのは、閲覧用のPDFファイルをつくる、という目的を堅持することである。そのため、次の二つのことを意識して作業をすすめるのがよい。
第一は、報告書(底本)とPDFファイルを一意的に対応させることである。報告書とPDFファイルを1対1で対応させるのは、利用者は公刊された報告書ベースで検索・閲覧することが多いためだ。したがって、分冊された報告書の場合でも1対1の対応関係を保つように、3分冊の報告書には3ファイルのPDFを作成するのがよい。
第二は、全国遺跡報告総覧の推奨仕様に一致するようにPDFファイルをつくることである。図版をより高精細に収録しようとしたり、参照部分にハイパーリンクを埋めこんだりする誘惑にかられると、ついついPDFファイルのサイズと数を増やしてしまう。しかし、PDFファイルのサイズと数が増えれば増えるほど使い勝手は悪くなり、PDFファイルをつくる手間も無秩序に増える。
PDFファイルはDTP(英:Desk Top Publishing)印刷工程の中で作成することができる。これから刊行する発掘調査報告書の場合は、印刷仕様書にPDFファイルのCD納品を加えるとよい。PDFファイルの推奨仕様は「全国遺跡報告総覧が推奨する報告書公開のための電子化仕様」(全国遺跡報告総覧プロジェクト, 2025a)に記載されている。実際、印刷屋さんがDTPソフトのボタンを数回クリックするだけで作成できるので、報告書の印刷にPDFファイルのCD納品が加わっても、金額は(ほぼ)変わらない。
いままでに刊行された発掘調査報告書の場合は、PDFファイルがあれば「全国遺跡報告総覧マニュアル」(全国遺跡報告総覧プロジェクト事務局, 2025b)に記された推奨仕様に調整し、PDFファイルがなければ推奨仕様にあわせて発掘調査報告書をスキャンすると、閲覧用PDFファイルを作成できる。
なお、「遺跡抄録および報告書PDFの登録フロー」(高田祐一, 2020)を併せて参照いただくことをお勧めする。
A > これからの報告書
・印刷仕様書にPDFファイルのCD納品を追加
B > いままでの報告書
・断裁機とスキャナーを準備。断裁機はカッター、スキャナーは複合コピー機でもよい。いずれも官公庁では身近な備品である。
・さらに、OCRアプリ、PDF編集アプリ、カッターマット、ステープルリムーバーなどがあればとても便利
・報告書を綴じているステープラーをはずし、本の背を断裁して各ページをスキャン
・文字のOCR処理、写真の調整、ページの編集を行い、推奨仕様のとおりにPDFファイルを調製
(2) データを整える(Format the input data)
全国遺跡報告総覧では、“書誌的事項”に19事項、“所収論文・総括類”に16事項、“所収遺跡(抄録)”に13事項の情報を記入できるようになっている。このうち、記入が必須なのは“書誌的事項”に含まれた4事項だけであり、その他は任意に記入する事項であった。しかし、発掘調査の結果を広めようと企てるとき、情報の完結性を固めようと志すとき、利用者の使い勝手を高めようと思うときには、任意に記入する44事項の記入率も上昇する。
多くの事項を速く正確に記入したいのであれば、ワークシートをつかうのがよい。あらかじめ各事項のデータを記入しておき、全国遺跡報告総覧の書誌情報の入力作業では、ワークシートからWebへ、コピペ(英:copy and paste)でデータを入力するのである。
この方法には、いくつかのメリットがある。
一つは、効率的にデータを扱えることである。記入するデータをコピー(英:copy)、ペースト(英:paste)、インクリメント(英:increment)して生成するのである。例えば、“シリーズ名”・“編集機関”・“発行期間”・“作成機関ID”・“郵便番号”・“電話番号”・“住所” のような同一データは[Ctrl + ドラッグ]で一気にコピペして、“書名”・“書名かな”などの頻出データは[Ctrl + C]と[Ctrl + V]でコピペする。“巻次”・“シリーズ番号”はセル右下を右クリックのままドラッグして連続データにする、といった具合である。
二つは、データチェック(英:data check)が容易になることである。ワークシート上に一覧化されたデータは、視認性に優れ共有化しやすいので、ダブルチェックや起案に用いると便利である。
三つは、このワークシートが図書目録になることである。このワークシートは、そのままであれば自らが公刊した図書を一覧化した出版物目録になり、在庫数を加えれば在庫目録となる。
この他、データの入力値の種類を簡単にコントロールできるなど、ワークシートには便利な機能が備わっている。また、ワークシートからWebへデータをコピペするときには、複数のアイテムをコピーして貼り付けるクリップボード機能やツールを利用すると作業がスムーズになる。
なお、具体例として添付の「個別登録_ワークシート」を試用いただきたい。
(3) 電子版に後付をつける(Update bibliographic information)
本文の前後に付く、前付(まえづけ)と後付(あとづけ)を、付物(つきもの)という。後付には、付録・あとがき・参考文献・引用文献・索引・奥付などがある。(野村安惠, 2007)
発掘調査報告書では、正誤表・追加資料などの情報が、後付に含まれることがある。
これに加えて、電子書籍には、電子書籍化の目的・底本の発行者名と書名・底本の所在を電子書籍の後付に含めるとよい。さらに、自治体合併などの組織の変遷・調査記録や出土文化財の所在を付記すると、利用者の満足度は格段に向上するだろう。
なお、具体例として添付の「後付奥付_電子版」を参照いただきたい。
(4) 電子版の奥付をつける(Add a colophon to an e-book)
奥付は、いつ・どこで・だれが・なにを刊行したのか、その本の出版に関する情報を取りまとめた記述である。書名・発行年月日・版と刷数・著者名・発行者名・発行所名とその住所や連絡先・印刷所と製本所名とその住所や連絡先が記される。(日本エディタースクール, 2002)
電子書籍を刊行するときには、電子版の奥付をつけ、PDFファイルの素性を明らかにしておくとよい。電子版の奥付には、電子書籍の書名・電子書籍の発行者名とその住所と電話番号・電子書籍の発行年月日を含めるとよい。
なお、具体例として添付の「後付奥付_電子版」を参照いただきたい。
3 報告書の電子化・公開の特徴(Characteristics of digitizing excavation reports and publishing them to the Internet)
(1) 電子化とインターネット公開の特徴(Characteristics of Electronicization and Publication in the Internet)
電子化とは紙媒体を電子データに変換することであり、電子化すると保存・検索がしやすくなる効果がある。したがって、発掘調査報告書を電子化すると、発掘調査の情報を保存・検索しやすくなる効果を得られる。
一方、インターネットに公開された情報の特徴は、即時性と広域性をもつことである。インターネットに公開された情報は、時間と距離に制限されずに、いつでも、どこでも、だれでもアクセスできる情報となる。同時に、その情報は、時間と距離に制限されずに、いつでも、どこでも、だれでも追加・修正・削除して更新することもできるようになる。(実際には、編集権をコントロールして情報を保護するため、“だれでも”は除かれる。)つまり、インターネットに公開された発掘調査の情報は、いつでも、どこでも、だれでもアクセスできる状態にありながら、いつでも、どこでも更新することができる情報となる。
(2) 全国遺跡報告総覧の特徴(Characteristics of the Comprehensive Database of Archaeological Site Reports in Japan)
このような情報あるいは情報を集積する仕組みの価値は、大規模災害の発災時にはっきりとあらわれる。
平成28年(2016年)4月14日21時26分そして4月16日1時25分に震度7の熊本地震が発災した。熊本県文化財調査報告の全国遺跡報告総覧への登録が一段落した2週間後のことであった。前震発災直後から熊本の地震履歴が報道され、本震後にはマスコミや研究者から地震痕跡の調査成果についての問合せが増えてきた。しかし、発掘調査の写真や報告書を収蔵している文化財資料室も被災し、報道機関や研究者のリクエストに応えられる状況ではなかった。そんななか、様々な人々の多様なリクエストに応えていたのが全国遺跡報告総覧だ。熊本地震が発災した平成28年(2016年)4月にはファイルダウンロード数が通常の30倍に高騰し、5月でも通常の2倍を数え、6月に2,004件、7月の1,516件をへて通常のダウンロード数に復帰している。利用者の注目をあつめた情報も、熊本地震発災直後には「熊本城」、「装飾古墳」といった熊本を代表するカテゴリーとともに、地震痕跡を記録した「小野原遺跡群」、「二子塚」、「石の本遺跡群」などの発掘調査報告がダウンロード上位にならんでいた。
熊本地震の発災直後で活動困難なフェイズでも、多くの人が簡便に被災地熊本の発掘調査の情報を利用する仕組みとして、全国遺跡報告総覧は機能していたのである。
(3) 発掘調査の情報の保存(Method and Procedure for Safely Saving Electronic Information for Archaeological Excavation)
これから刊行する報告書を全国遺跡報告総覧へ登録する手順を振り返ると、多くの人の場合、次のとおりとなろう。
1 > PDFファイルをCDで入手
2 > PDFファイルをインターネット接続PCにコピー
3 > PDFファイルを全国遺跡報告総覧にアップロード
これを整理すると、3つのデータを作成し、2種類(以上)の異なるメディアに保存し、1つのデータは別の場所に保管した、となる。このようなデータの保管状態は、電子データのバックアップ方法として知られる“3-2-1バックアップルール”(英:3-2-1 backup rule)が適用された状態と同じである。
“3-2-1バックアップルール”とは、「3つデータを作成」して、「2つの異なるメディアで保存」し、「1つは別の場所で保管」する約束ごとである。情報メディアのエラー、情報デバイスの盗難など、単一障害点(英:single point of failure)の影響を軽減し、大規模災害によって手もとの情報が失われても遠隔地の情報をつかい復旧することができる仕組みだ。そして、データ保存がしやすいので、手軽に複製をつくり、複数で共有できる電子化データの特徴を活かした方法だ。
今までに刊行した報告書を全国遺跡報告総覧へ登録する場合も、PDFファイルをCDに書き込めば、上記のとおりとなろう。さらに、スキャンにつかった発掘調査報告の紙葉をファイリングシステムを用いて保管すれば、より安全に発掘調査の情報を保管する仕組みとなる。
全国遺跡報告総覧に発掘調査報告書を公開する作業の手順は、そのままで、発掘調査の情報をバックアップする仕組みになっている。
おわりに(Conclusion)
発掘調査報告書は、全国遺跡報告総覧に登録する簡単な作業と1冊あたり10分程度の時間で、すぐにインターネットに公開できる。総覧に登録した情報は、いつでも・どこでも・だれでも利用でき、大規模災害発災時には多数の多様なリクエストに即応する。また、総覧への登録作業は、電子化した報告書のデータ保管にも有効だ。「うん、やってみるとも。」と、あたらしい登録者が増えるほど、総覧の利用者にはより大きな満足感がもたらされる。
参考文献
Morse, Edward S, 1879. Shell Mounds of Omori. Memoirs of the Science Department, University of Tokio, Japan 1 (1). 邦訳: 矢田部良吉, 大森貝墟古物編. 東京大学法理文学部, 理科会粹第一帙上冊. 東京.
高田祐一, 2020. 遺跡抄録の現状と注意点. 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所,デジタル技術による文化財情報の記録と利活用. 奈良文化財研究所研究報告24. pp.206-210. https://sitereports.nabunken.go.jp/69974
全国遺跡報告総覧プロジェクト, 2025a. 全国遺跡報告総覧が推奨する報告書公開のための電子化仕様. https://sitereports.nabunken.go.jp/files/statics/2.全国遺跡報告総覧が推奨する報告書公開のための電子化仕様_20250115.pdf
全国遺跡報告総覧プロジェクト, 2025b. PDFファイルの圧縮・分割. 全国遺跡報告総覧データ登録マニュアル. p.7. https://sitereports.nabunken.go.jp/files/statics/1全国遺跡報告総覧データ登録マニュアル20240829作成 (最終更新日20250116).pdf
野村安惠, 2007. 本づくりの常識・非常識 第二版. 印刷学会出版部. 東京.
日本エディタースクール, 2002. 標準 編集必携 第2版. 日本エディタースクール. 東京.
