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文化財多言語化研究報告 > 4 号 > 今、文化財多言語化事業を振り返る ―2022年度「文化財多言語化担当者研修」と『文化財多言語化研究4』を編む―

今、文化財多言語化事業を振り返る ―2022年度「文化財多言語化担当者研修」と『文化財多言語化研究4』を編む―

扈 素姸 ( 奈良文化財研究所 )

Ho Soyeon ( Nara National Research Institute for Cultural Properties )
扈 素姸 2024 「今、文化財多言語化事業を振り返る ―2022年度「文化財多言語化担当者研修」と『文化財多言語化研究4』を編む―」 『文化財多言語化研究報告』 文化財多言語化研究報告 https://sitereports.nabunken.go.jp/online-library/report/49

 観光庁が『観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン』を策定したのが、2014年であった。コロナ直前の2019年には文化庁から『観光客は外国人!文化財の多言語化ハンドブック』、観光庁から『魅力的な多言語解説作成指針』など、2010年代、日本への観光客の増加を持って、よりいい文化財多言語化を促す資料が次々と発行された。しかし、『魅力的な多言語解説作成指針』で指摘された「解説文が乱立していたり、表記が不十分であることから地域や観光資源の魅力が十分に伝わらない等の課題が散見される」という問題は未だ解決できたとはいいづらい状態である。

 そこには、コロナ禍により、文化財に関する情報やデータの発信及び公開の方法を、物理的に変えざるを得なかったことも大きく影響したはずである。すなわち、従前のような展示室や遺跡などのパネルと題箋といった方法から、展示室そのものを3Dにしてネット公開する、または動画にしてYouTubeで公開するなどへ変化する中で、文化財を多言語化するということ自体も見直す必要があったためである。さらに、多言語化担当者の多くが任期付けであるため、1世代の多言語化担当者たちがコロナ禍のなかで、次の世代への引継ぎが混乱であったことも理由であると考えられる。

 2023年3月に奈文研主催で開催した多言語化研修は、このような状態を打破すべく、現時点の多言語化の問題点と改善方針を、前世代と現役の多言語化担当者、そして、全国の文化財関係者がひざを突き合わせて論じる「場」として準備したものである。その「場」で熱心に語った内容を今回『文化財多言語化研究報告4』の特集とすることは、今の文化財多言語化を振り返すために必然なことと考えられる。

 その時、語った内容については、各自の原稿で重要性を理解できるでしょう。ここでは、当日の流れと各報告の内容について、簡略に伝えよう。文化財多言語化担当者研修は3月10日、午前・午後の部に分けて進行された(タイムテーブルは図1を参考)。


図 1 当日のタイムテーブル

 午前の部では、まず、ヤナセ・ペーテル、扈素妍、呉修喆の奈良文化財研究所の当時現役多言語化担当者から「文化財多言語化総論」として、多言語化政策の沿革や現時点での問題点、また、多言語化担当者の役割について、自身の実際の経験に基づいて論じた。

 続いて、文化財多言語化担当者の役割をより詳しくLynne E. Riggsさんが説明した。Lynneさんの話は、文化財多言語化のワークフローについて、多言語化担当者の立場からその協力と流れの重要さについて教えるものであった。特に、「翻訳」と「多言語化発信」の違いについて述べ、「翻訳者+編集者・ライター+協働的推敲」の重要性を指摘した。そして、多言語化のワークフローを①英文出版、②文化財解説、③極短縮に分けて提示した。各ワークフローの詳細については、ご自身の原稿で扱うと思うが、ここで強調するのは、多言語化という時に、翻訳者のみならず、関連者が皆緊密に協力しないと良い多言語化はない。すなわち、今の担当者たちの「海外発信への意識改革」が必要であり、「多言語化を協力プロセスとして考え、それを日本文化の創造の芽としてほしい」ということである。

 その後は、研修の前に参加者に配布した一種のQuizである事前配布資料を基にして、奈文研多言語化担当者3人が、多言語化の実務におけるコツを伝え、また、それに対する質疑応答をおこなった。

 午後の部では、奈文研だけでなく、以前他の機関で働き、今も多言語化の最先端で尽力している方々から、良い多言語化にする方法について講義を聞くことができた。

 まず、趙ウニルさんは、「文化財多言語化の現場」と題して、完成度の高い多言語ページを作成する方法を説明し、特に『京博ハンドブック』韓国語版の作成時の経験を例として挙げて、日本人来訪客を対象とした刊行物の日本語原稿をそのまま翻訳するのではなく、まず「日本特有のものはなにか」を日本語原稿の内容企画段階で考えてから、多言語化へ取り組む方が、面白いものになると伝えた。さらに、文化財の多言語化に止まらず点字や音声ガイドなどを使って、誰もが楽しめる「ユニバーサル化」へ進むべきであると力説した。

 方国花さんは、「失敗しない多言語化にするために」と題して、様々な間違えた多言語化事例を挙げて、なぜGoogle翻訳などの機械翻訳を信用してはいけないのか、「分かりやすい」+「正確」な多言語化のためにの「専門家」を雇う必要性を力説した。

 続いて、Rebekah Harmonさんは、主に英語への多言語化の観点から、良い多言語化のためには、翻訳の前に日本語原文の段階で確認し、翻訳者に伝えなければならない事項について講義した。例えば、この情報を手にする想定する対象は誰なのか、また、誤訳や説明不足を未然に防ぐため、参考になる資料や情報などを伝え、そのテキストを読むにあったって、読み手がすでに知っていると想定された背景知識を知らせる必要があると伝えた。

 そして、午後の部における最後の講義として、大阪歴史博物館企画広報課情報資料係の加藤俊吾さんが、大阪歴史博物館の優れた多言語化状態を事例として、「博物館における多言語化の実例」について説いた。大阪歴史博物館の多言語化は、2015年~16年までの多言語化補助金事業として行われ、タイ語・アラビア語・フランス語・スペイン語の施設案内パンフレット、英語、簡体字、繁体字、ハングルの展示項目サイン類、英語、簡体字、繁体字、ハングルのボランティア研修用ツール、英語、簡体字、繁体字、ハングルのホームページなど、様々な多言語化コンテンツを作成したという。その結果、当時訪日外国人が増えたことと相まって、多言語化事業以降、外国人来訪客が増えていることが確認できる。

 その次に、奈文研の当時多言語化担当者たちが愛用していたオープン資料や、参考できるウェブサイトなどを紹介し、その後、総合討論及び全体における質疑応答に移った。研修全般において、多言語化担当者はやはり翻訳業者のみに任すのは危険であり、機械翻訳は論外、きちんと多言語化担当者を雇って、すくなくとも1回の校正はできるワークフローを作る必要があると口を揃えて話したが、研修後、各地の機関ではとてもそれができるような予算・時間的余裕がないという文化財担当者からの感想文が相次いだ。なるほど、確かに今の多言語化を鑑みた時、根本的な問題は、予算や期間が理不尽とまでいえる状態であることかも知れない。しかし、それを打破するためには、最前線の人々がそれでは足りないと叫び続けるしかない。『文化財多言語化研究報告4』が文化財多言語化担当者研修の特集になったのは、その叫び続ける「場」を共有し、また、今後も続いて我ら担当者たちの話が途絶えることのない「場」を作ることを目指しているためである。

 その意味で、今回講義を引き受けてくださったLynne E. Riggsさん、趙ウニルさん、方国花さん、Rebekah Harmonさん、加藤俊吾さんにこの場を借りて心より感謝を申し上げたい。また、ご多忙にもかかわらず『文化財多言語化研究』4の原稿をご執筆くださった方々にもお礼を申し上げる。

図 2 質疑応答時、研修主催者の多言語化チームの3人


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総覧登録日 : 2024-03-28
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