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デジタル技術による文化財情報の記録と利活用 > 6 号 > 文化財デジタルアーカイブ課程フォローアップ座談会

文化財デジタルアーカイブ課程フォローアップ座談会

莵原 雄大 ( 越谷市教育委員会 ) 國分 梓 ( 郡山市 ) 野田 真衣 ( 荒尾市役所 ) 野口 舞 ( 東京都 ) 福島 幸宏 ( 慶応大学 ) 福薗 美由紀 ( 福岡市役所 ) 大矢 祐司 ( 松原市教育委員会 ) 大西 稔子 ( 栗東歴史民俗博物館 ) 川崎 志乃 ( 四日市市(当時) ) 庄子 裕美 ( 仙台市教育委員会 ) 小山 侑里子 ( 板橋区教育委員会 ) 若井 啓奨 ( 三重県埋蔵文化財センター ) 三谷 直哉 ( 奈良文化財研究所 ) 三好 清超 ( 飛騨市教育委員会 ) 高田 祐一 ( 奈良文化財研究所 ) 高村 勇士 ( 茨木市教育委員会 ) 熊谷 葉月 ( 石川県教育委員会 ) 宮原 由橘菜 ( 福岡市博物館 ) 吉原 大志 ( 兵庫県立歴史博物館 )

Follow-up Roundtable with Participants of the “Digital Archives of Cultural Properties” Program

Uhara Yuta ( Koshigaya City Board of Education ) Kokubun Azusa ( Koriyama City ) Noda Mai ( Arao City Government ) Noguchi Mai ( Tokyo Metropolitan ) Fukushima Yukihiro ( Keio University ) Fukuzono Miyuki ( Fukuoka City Government ) Oya Yuji ( Matsubara City Board of Education ) Onishi Toshiko ( Ritto Historical Museum ) Kawasaki Shino ( Yokkaichi City ) Shoji Yumi ( Sendai City Board of Education ) Koyama Yuriko ( Itabashi Ward Board of Education ) Wakai    ( Mie Prefectural Center for Archaeological Operations ) Mitani Naoya ( Nara National Research Institute for Cultural Properties ) Miyoshi Seicho ( Hida City Board of Education ) Takata Yuichi ( Nara National Research Institute for Cultural Properties ) Takamura Yuji ( Ibaraki City Board of Education ) Kumagai haduki ( Ishikawa Prefectural Board of Education ) Miyahara    ( Fukuoka City Museum ) Yoshihara Daishi ( Hyogo Prefectual Museum of History )
莵原 雄大, 國分 梓, 野田 真衣, 野口 舞, 福島 幸宏, 福薗 美由紀, 大矢 祐司, 大西 稔子, 川崎 志乃, 庄子 裕美, 小山 侑里子, 若井 啓奨, 三谷 直哉, 三好 清超, 高田 祐一, 高村 勇士, 熊谷 葉月, 宮原 由橘菜, 吉原 大志 2024 「文化財デジタルアーカイブ課程フォローアップ座談会」 『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用』 遺跡地図・3D・GIS・モバイルスキャン・デジタルアーカイブ・文化財防災 https://sitereports.nabunken.go.jp/online-library/report/12
目次

背景と開催目的

奈良文化財研究所文化財情報研究室では、2019年と2022年に文化財デジタルアーカイブ課程を開講した。新たに立ち上げた研修であることもあり、研修メニューは試行錯誤を続けている。社会的にもデジタル化は加速しており、研修メニューと実務面で乖離していないか懸念されるところでもある。研修受講者が受講後に職場でどのような取り組みに結実したか、もしくは研修に何が不足していたかを検証することで、今後の改善を図ることが可能となる。そこで、過去の受講者を対象に「文化財デジタルアーカイブ課程フォローアップ座談会」とフォローアップアンケートを実施した。座談会には有識者として研修講師でもあった福島幸宏氏にも参加いただいた。受講者が現在何に苦労しているかフォローアップをすることで、研修効果がさらに高まることも期待される。2023年10月6日にオンラインにて開催した。


2023年10月6日 zoomにてオンライン開催

担当者専門研修を必要とない状態を目指す

高田 まず私から今日の流れを説明させていただきます。最初に私から10分ほど企画の趣旨や振り返りについて、そのあと大矢さんと莵原さんから情報提供という形でそれぞれ5分ほどお話しいただきます。その後、ディスカッションを40分ほど、最後に福島先生に総括、講評いただけたらと思っています。

この座談会では、専門職の皆さんが、文化財デジタルアーカイブに関する資質を向上し、業務に役立てるにはどうしたら良いかということを考えたいと思っています。皆さんが抱えている課題について掘り起こしたいというのが主な目的です。また、来年度の研修内容についても検討したいと思います。この座談会に先立ちまして、過去2回令和元年と令和4年度の文化財担当者研修「デジタルアーカイブ課程」受講者を対象に、アンケートを実施しました。研修受講者が86名、そのうち34名から回答をいただきました。

まず、皆さんも研修を受講された時に、研修メニューが非常に多いと感じられたのではないかと思います。かなり多く詰めこんでいたのですが、実は最終的には研修をしたくないというのが一つの理由です。研修が必要とされない状態を目指し、どうしたら実現できるかっていうのを考えています。研修メニューを多くして研修を必要としない状態に早くする。ただ、社会変化は起こっていきますので、新たな課題に対応していく必要があります。そして、全国に埋蔵文化財センターだけで約5400名の職員がいますので、できるだけ知識を持った人数を増やすことが大事だと思っています。それに現場にはやはり色んな課題がありますし、組織のカルチャーもありますので、それぞれに対応しようとすると、どうしても研修メニューが多くなってしまいます。研修内容のテキスト化を図っていて、それも全て電子公開しています。内容につきましては一歩難しいものがあったかと思うのですが、未来への投資ということで、試行段階のものも盛り込んだりもしておりました。

 令和元年度のメニューは、講師18名で、講義枠の数は23コマ。令和4年度は、若干スリム化しまして、講師13名、18コマでした。違いについては、令和4年度は著作権や知的財産に関する講義の時間を増やしました。

では、事前アンケートの結果を確認していきたいと思います。

研修の内容で受講後に職場で役立った内容は何かという設問に対しては、著作権、利用規約という回答が圧倒的に多く、次にデータ整理・保管や、報告書の電子公開というのが多かったです。受講後に具体化できた実践例としては、刊行物の電子化や、デジタルアーカイブの公開、「内部調整知識が身に付いたので内部調整できた。」や、SNSでの発信などがありました。受講後に閲覧したデジタルアーカイブでは、例えば松原市さんなど、お手本になった事例があったということでした。研修の時にはなかった内容で、今後研修に組み込んだ方が良い内容や、希望する内容が幾つかございました。もう少し小さい単位で、短くて実践的なものがあったら受講したいというのがありまして、私はこれがちょっと刺さりました。新型コロナウイルス感染症が5類に移行しデジタル活用についての機運が盛り下がったと感じるか。について、主観的になりますが、回答内容をYES/NOに分類させていただきました。盛り下がったと感じているところが、大体回答者の中で25%ぐらい。盛り下がっていないっていうのが65%ぐらいというところです。

では続いて、大矢さんと莵原さんに発表をお願いし、その後、ディスカッションをしたいと思います。実は、ディスカッションについてはノープランです。あまり私の方でかっちり決め過ぎると誘導になってしまいますので、流れを見て色々決めていきたいと思っています。では、大矢さんお願いします。

松原市におけるデジタルアーカイブ実践と今後の課題①

大矢 私は令和元年度に研修を受講させていただきましたので、その後の取り組みをお話しさせていただきます。

研修後の経過ですが、まずは全国遺跡報告総覧のデータ充実に取り組みました。座談会の事前アンケートでも回答が非常に多かったので、ここは手を付けやすい所ですね。これまで紙ベースの報告書抄録を、研修での教えを生かして、検索に対応できるよう時代・遺構・遺物と細分化していきました。あとは、これまで公開されてなかった講座資料などを少しずつ出していこうというと方針で進め始めました。そして、2020年度末に報告書(松原市教育委員会 2021 『立部遺跡・立部古墳群跡』松原市文化財報告9)を刊行したのですが、そこに出土品のエックス線CT画像データを付録としてつけました。その際、CT画像には著作性がなく、著作権に基づく利用申請は不要いう旨の一文を添えました。

次の2021年度ですが、8月には市のウェブサイト内にある遺跡の概要説明ページにCC-BYを付けました。市のサイト自体は政府の標準利用規約などが適用されていなかったので、個別のページでCC-BYを宣言しました。また、2021年度に予算がつきましたので、「まつばら文化財デジタルアーカイブ」を2022年3月に公開しています。

2022年度には、松原市指定文化財のオフィシャルな説明文(松原市教育委員会 2009 『松原市指定文化財調書 大林寺木造十一面観音立像』)をウェブ上で公開しました。そして、8月には文化遺産オンラインにコンテンツを手動で登録して公開しました。登録の一ヶ月後には自動的にジャパンサーチに連携されました。

一応、これで2年間かけて公開作業が終わりましたので、今年度からは公開をしたデータを活用する試みをしています。何をしているのかというと、松原市にも陣屋跡(丹南陣屋)がありまして、ちょうど立藩400年の節目を迎えます。それで、各地のお城で配っている御城印をうちでもやろうということになりました。御城印をもらう条件として、最初にデジタルアーカイブにある陣屋が描かれた村絵図の画面をスクリーンショットで撮ってもらって、次は現地(陣屋跡の石碑が建つ来迎寺)に行ってもらって、最後に郷土資料館で出土品を見てもらうと。この3つの文化財を巡っていただいた方に御城印をプレゼントするという方法でデジタルアーカイブの宣伝をやっています。後は、実際公開したデータを使って継続的に利用者を確保していきたいので、初のウィキペディアタウンをつい先日、図書館で行いました。来月はオープンストリートマップを使って、文化財の位置情報を二時利用可能な地図へ記録するワークショップを計画しています。

 じゃあ、一体これが幾ら位かかったのかなんですけど、ウェブサイトで公開されている2021年度予算を見ると、絵図と写真フィルムのデジタル化と翻刻作業に50万円位かかっているのがわかると思います。これがデジタル化にかかった1年間の作業の費用で、次の年も同じ位の費用で、コンテンツのデジタル化委託料は100万円程で、あとは市の職員が作業したので人件費がプラスアルファという形になっています。

ちなみに、研修受講後に少しずつ報告書や講座資料を全国遺跡報告総覧へ公開しているんですけど、今年度に入ってようやく一ヶ月間のダウンロード数が500件を達成しました。でも、これがこちらの努力で件数が上がったのか、はたまた、サイトの知名度が上がって閲覧者数が増えたのかっていうのがわからない。増加要因がいまいち見えにくのが現状です。

さて、デジタルアーカイブの作成と公開で実践に困ったところなんですけど、1番目は当然みんなが困る「ヒト・カネ・モノ」ですね。文化財部局全体の事業費のうち幾ら位のリソースを割くのかっていうところは、理解を得る必要がある。2番目は、データのライセンスです。政府はいち早く各省庁のホームページで政府標準利用規約を適用しているんですけれど、法令や内規をどう改正してたどり着いたのかがわかり難い。また、先行してオープンデータを公開している自治体もオープンデータの指針はあるんですけど、指針と例規や内規との関係をどう整理したのかというプロセスがよく見えなかったです。そして、3番目は需要予測と供給の計画ですね。これまでの普及啓発でも同じなんですけど、何人ぐらいがデジタルアーカイブを利用するのか、一体誰が使うんだ、というところも常に疑問としてあります。土日祝日の歴史系博物館の展示室とか発掘調査の現地説明会とかほとんどが一定の齢を重ねた男性という状態ですよね。その人たちはデジタルアーカイブを求めていて、利用者になってくれるのかっていう疑問はあります。もし、求められていないのであれば、新規開拓が必要になってくるので、その辺の計画というのも必要だなと。

最後に4番目、成果が地味っていうのがあります。まあ、資料を100点公開するのに2年かかっていて、デジタル化を大規模に進めていると比べると何とも...。ただ、本来はデジタルアーカイブを作ってからがスタートですね。デジタルアーカイブを作成したこと自体が新聞に取り上げられているケースがありますけれど、それを活用した地道な活動が芽吹いてきた時に取り上げていただきたいなと感じます。

今後の研修に欲しい内容ですけど、現地に残っていない文化財とか埋没した川とか改変された地形とかを現地でどう見せていくのかっていうところですかね。STYLYとかの使い方の事例がほしいですね。あとは、ミートアップイベントですね。やっぱり、活用を始めようと思った時に埋蔵文化財担当者だけではアイデアが偏りますし、広く展開するために外の世界と繋がるための場が欲しいなと。他には、今回みたいな受講者が事例(特に失敗事例)を共有するフォローアップもいいですし、研修の受講者がSlackみたいなものに講義の疑問をアップして過去の講師とか受講者が返信する仕組みとかも欲しいです。研修をしながらQ&A集ができれば、毎年刊行さていれる『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用』に少し毛色の違う小ネタが1本掲載できるかなと思います。以上です。

越谷市におけるデジタルアーカイブ実践と今後の課題②

莵原 埼玉県にあります、越谷市教育委員会生涯学習課の莵原と申します。令和4年度の文化財デジタルアーカイブ課程に奈良文化財研究所に赴いて受講させていただきました。今回は越谷市の事例をお話ししたいと思いますので、よろしくお願いします。

越谷市では幸いにして、令和5年8月1日から越谷市デジタルアーカイブを公開することができました。越谷市デジタルアーカイブの特徴としまして、対象資料は文化財関係にとどまらず、市が業務を行う過程で発生するさまざまな知的資産を対象としています。具体的には公開時点で1点目として越谷市史を電子書籍化したデータとテキストデータを公開しております。2点目として地域資料。これは言い替えると図書館の蔵書になります。3点目は絵図・地図、4点目は古文書、5点目は近現代資料ですね。近現代資料は明治から昭和期の紙資料になります。6点目は文化財建造物のパノラマ資料。Googleストリートビューのように建造物内を移動できるデータになります。7点目は音声・映像資料、8点目は市史編纂時の写真と広報担当部局の写真、9点目は行政資料。行政資料は予算書ですとか、福祉の計画とか、市の計画や統計等を入れてあります。10点目は公文書の目録ですね。行政資料と公文書目録は同じカテゴリーにまとまっています。公開資料数は8月1日時点で約1万2,000件になっています。

 資料の見せ方も工夫していまして、1つ目は、写真に位置情報を持たせて地図上にマッピングして公開している「地図から資料を探す」というカテゴリー。2つ目はデジタルアーカイブ資料に解説を加えた「地域学習用コンテンツ」。コンテンツ名は「越谷まなびるーむ」と言います。3つ目は、文化財ボランティアの活動の成果を公開する、「越谷市文化財ボランティア作成コンテンツ」になっています。システムはジャパンサーチと連携していますので、ジャパンサーチからも検索結果が表示されます。

 続いて、越谷市でデジタルアーカイブを構築した経緯をお話ししたいと思います。越谷市はデジタルアーカイブの整備を目指しまして、平成30年度から検討を行ってきました。令和3年度から、越谷市の最上位計画である「第5次越谷市総合振興計画」のうちの具体的な事業を定める「実施計画」というものがあるのですが、そこで「デジタルアーカイブ事業」というのを位置づけております。また関連して市の情報化施策を定める「越谷市情報化推進計画(2021)」というものがあり、そこでもデジタルアーカイブの整備を位置づけておりまして、令和3年度の検討、令和4年度の構築、令和5年度からの運用が定められております。今回構築できたことで無事にそれらが達成できたということになります。事業を進めるために庁内プロジェクトを組織しまして、事務局が生涯学習課、構成課所は広報担当の広報シティープロモーション課、行政のデジタル化の推進等を担当する行政デジタル推進課、公文書の管理等を担当する総務課、以上が市長部局です。教育委員会としては図書館と指導課になります。指導課は学習指導や教育資料の研究等を所管していますが、学校教育との連携を見据えてプロジェクトに入っていただいております。

以上の話の流れだと、市の計画に沿って順調に構築にこぎつけたというふうに聞こえるかもしれませんが、実現のためには予算の獲得から庁内の調整等々いろいろありますので、一つ一つ実現に向けて進めてきたというような感じです。例えば一例ですが、市のホームページを使ってサンプルデータを公開して、デジタルアーカイブに対する反応を見るということをやりました。サンプルデータとして、古写真、古文書の画像データとそれに対応する翻刻テキストデータ、絵図、公文書目録などを公開し、「デジタルアーカイブ(意見募集)」と題してホームページに掲載し、何人アクセスしたとか基礎的なデータを取得しました。また、意見投稿ページのリンクを設けて、意見を拾い上げるというような擬似的なパブリックコメントを行いまして、構築するデジタルアーカイブに求められる機能や搭載して欲しい対象資料のニーズなどを収集しました。事業を進めていくと、本当にシステムが必要なのかとか、どれくらいの人がアクセスするのかなど、庁内・庁外含めて説明が求められてきますのでそれに回答できるように客観的なデータに基づいて答えられるよう、このような取り組みもあらかじめ実施をしております。

 さて、文化財デジタルアーカイブ課程受講後に実践したことを話して欲しいと言われていますので、たくさんありますが、3点紹介します。

 1つ目は、デジタルアーカイブは二次利用されることが望ましいので、利用者が公開資料を手軽に二次利用できるよう「画像等データの二次利用方法」というボタンをデジタルアーカイブトップページの一番上の目立つところに持ってきまして、二次利用方法が分かるようにアナウンスしています。

 2つ目は、越谷市のデジタルアーカイブでは基本的にクリエイティブコモンズライセンスを設定したということです。越谷市デジタルアーカイブは文化財の資料に限らず、市全体の資料を詰め込んでおりますが、他の部局の方にもライセンスを理解して設定してもらわなければならなかったので、どう説明して設定してもらうかが課題となりました。その時に文化財デジタルアーカイブ課程で話を伺った青森県の事例が参考になりました。青森県は、資料の所有者にクリエイティブコモンズライセンスを設定するために照会をかけているんですけど、その資料の作り方などが非常に参考になりました。

 3つ目は、越谷市デジタルアーカイブの利用規定の中に「内容の高精度化について」という項目を作りました。越谷市デジタルアーカイブで見ていただいて、この資料はこういう意味があることを知っています。とか、この資料はいつ撮られたものか知っています。など何か知っていることや気付いたことがあれば教えてくださいというものです。これは文化財デジタルアーカイブ過程において規約作成演習がありましたけども、その講座の中で思いついたことを反映しております。利用者と一緒にデジタルアーカイブをつくっていきたいという考えです。

 現在実務として課題と感じていることとして、古写真の公開・非公開の選別というのがあります。例えばお寺でお持ちの古文書の写真があって、それを公開していいかどうかという部分になります。市史編さん時に多くの写真が撮影された昭和40~50年代では写真がインターネットで公開されるという想定で撮影していませんので、現在及び当時の古文書所有者がどうやって考えている(いた)のか、その辺がつかみきれない。かといって、聞きに行ければいいのですが、それも職員の手間は非常に大変で、公開するためにはどうしても人手がかかってしまう、という部分が大きいです。この自治体ではこういう解決事例があるよとか、そういう知識の積み重ねみたいな部分があると参考になるかなと思っております。大枠の課題としては越谷市の場合は、市全体の様々な課所室の資料を詰め込んで公開していますので、市全体としてデジタルアーカイブを組織的・継続的にデータを搭載し続けるかということも課題になってきます。越谷市の場合は非常にタイミングも良く構築できましたが、振り返ると、ホームページで情報を少しでも公開しておくとか、今できることをやりまして、デジタルアーカイブの構築を進めていますよ、とか、ここまで検討して今この段階まで来ていますよっていうのを組織内・組織外に周知するっていうことが大事かなというふうに思います。以上で終わりにします。

デジタルアーカイブ事業の遂行方法

高田 私から莵原さんに質問です。行政できちんと事業としてされて、しかも部署を横断されていて素晴らしいと思うんですけど、部署横断でするとどうしても指揮統制が取れなくなるというのがある。そうすると、どういう方がメインパーソンとして、指揮命令というか司令塔として調整されたんでしょうか。

莵原 プロジェクトを組織していますので、プロジェクトのメンバーで決めるというのが前提になりますが、デジタルアーカイブに関する知識を持ち、かつ市民の皆さんになるべく多くの市所有の情報を公開する、という使命感を持ってやるのは事務局である生涯学習課だと思って進めました。あと、例えば『我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性』など、国の指針とかもいろいろありますので、そういうのを引用して、今、世の中としてはこのような動きがある、というように何かに準拠して進めるようにしました。そういう風に進めないと、当然どこの部署もヒト・モノ・カネが不足していますので、限られた時間と人工の中で効率よくまとまるように、事務局が方向性を示すよう進めてきました。

高田 素晴らしいですね。普通は課の中でもまとまらないケースもあると思うんですけど、素晴らしいです。ありがとうございます。では、大矢さんお願いします。

大矢 莵原さんからいただいた資料の中で、第5次越谷市総合振興計画前期基本計画第一期実施計画の部分がありますが、このデジタルアーカイブ事業の下のところにオープンデータ化推進事業という、行政デジタル推進課が絡んでいる事業がありますが、お互いどういう関係にあったのかなって。お互い全く別物だと考えているのか、それともこのデジタルアーカイブ事業の大きい波を受けて、じゃあこのオープンデータ化の方も進めていこうというような流れがあったのか。お互いどういう関係だったのかなというところがちょっと気になります。

莵原 まず、前提として第5次越谷市総合振興計画には大綱1「多様な人が交流し、参加と協働により発展するまちづくり」という項目があり、市民への情報発信のような意味合いがあります。「デジタルアーカイブ事業」や「オープンデータ化推進事業」は大綱1に位置づけられています。教育委員会は通常、大綱6「みんなが主体的に学び、生きがいを持って活躍できるまちづくり」という別の大綱で動いています。ですので、教育委員会が大綱1に入っている珍しいケースですね。オープンデータ化推進事業はどちらかというと、市の所有する統計などの生データみたいなのを出して活用をしてもらいましょうというようなイメージで、デジタルアーカイブ事業は皆さんイメージされるようなものです。そのため、別物みたいな感じです。ただ市では「越谷市オープンデータ推進に関する基本方針」を定めていて、デジタルアーカイブもある種オープンデータのような意味合いがあるため、その方針に準拠している部分がありますので、土台は一緒というような関係性になっています。

大矢 ありがとうございます。多分、市史も資料として扱っておられたので、こういうオープンデータは現在の自治体が生み出し続けている歴史資料なので、市史の続きをどうやって編さんしていくのかっていう点で、庁内で良い関わりが生まれているのかが少し気になっていて、聞かせていただきました。ありがとうございます。

高田 野田さんどうぞ。

野田 熊本県の荒尾市役所の野田と言います。松原市さんは今約100点の資料を公開するのに2年かかったと伺いましたけれども、資料の選別はどのように進めていかれたのかというのをお聞きしたいです。

大矢 デジタルアーカイブのコンテンツ100点を選ぶ基準ですが、10年位前に郷土カルタ(まつばらいろはかるた)を作っていまして、その読み札に関する文化財っていうのが候補です。それで、そこからさらに絞り込んだんですけど、利用頻度の高いもの、市の文化財課以外に頻繁に展示されたり、本に掲載されたり、ボランティアガイドさんが使ったりするものを優先しました。そして、文化財の各所有者さんにお願いして回って許諾を得たものを公開しています。

デジタルアーカイブの周知機会を考える

川崎 大矢さんに質問です。ウィキペディアタウンとかOpenStreetMapを作られたりっていうのは、今後、若い世代に使ってほしいという思いがあってされているんだと思うんです。実際、今回イベントをされて若い方活用されていますか?次世代の方に入っていってもらわないと、やっぱり今後継続できないかなと思うんですけど、そのあたりいかがでしょうか。

大矢 そうですね、ウィキペディアタウンは参加者数が少なかったのもありますけど、やはり積極的にされているのは、60代より下の方が多いかなと思います。文化財は次の世代にどんどん繋いでいかないといけませんので、そういった次世代や今まで関わってこなかった人が関わってきてくれればいいなと思って、こういうイベントをしています。ただ、御城印を配る企画は、デジタルアーカイブを見て現地の文化財を訪れたらもらえる形にして、デジタルに関わる度合いに緩急をつけたつもりです。興味関心に応じて使い分けていけたらいいなとは思います。ただ、『70歳のウィキペディアン』の著者の門倉百合子さんみたいな人も松原市にはいるんじゃないかという気もしなくはないんですけど。

川崎 ありがとうございます。野田さんもされていると思うんですけど、野田さんのところどうでしたか?若い人来ていましたか?

野田 実は今回のデジタルアーカイブの研修参加させていただいて、うちが取り組めることってまだあまりないなと思っていたので、特に広く利用されているところで、ウィキペディアタウンを初めにやってみたんですけ(ウィキペディアタウンin荒尾「宮崎兄弟」)、わりと町の若手のYouTuberの方とかが参加してくれて、事前に現地にも見に来てくださったり、日頃あんまり使われてないような資料とかもその時に見ていただく機会にはなりまして、第一段階としてはすごく良かったかなと思いました。お年寄りの方も、若手の方も学校の先生とかも参加してくださっていました。今度学校の出前講座で学校の歴史について話をさせていただく機会があるんですけど、次は学校のウィキペディアのページを一緒に作ってみようっていった形で、お金をかけずにデジタルで触れやすいところからまずしてみようかなって思っています。

川崎 四日市市では、文化財ARをやってみました。iPad Proをレンタルしているので、既存のツールで出来ることをやってみました。でも、自治体で実際主催するのはかなりハードルが高かったので、鉄道会社のロゲイニングというイベントのチェックポイントとして史跡を組み込んでもらう形で参加させてもらい、東海道最古の道標を174年ぶりに元の位置していた「日永の追分」で見てもらいました。このほか、文化財の説明板や展示に、URLにリンクする二次元コードを貼ることで、他の文化財にもアクセスできるようにしています。

デジタルアーカイブに求められていること

高田 飛騨市の三好さんからチャットで質問来ているので、読み上げます。莵原様に質問です。ホームページでパブコメっぽいことをしたっていうお話は素晴らしいと感じました。どのようにライブ協議に反映されたかご教示いただければ幸いです。

莵原 令和2年8月1日から令和3年3月31日まで実施しまして、写真42件、古文書1件、刊行物5冊など、あまり公開資料数自体は多くないですがサンプルとして公開しました。アクセス数は3万8,470件ありまして、25件の意見を頂きました。市のパブリックコメントで寄せられる意見が14件とかいう事例もあるので、比較的意見が寄せられたかなと考えています。閲覧者からの要望としては、ホームページですと画像の解像度が固定されてしまいますので、もっと高画質な画像が見たいです。とか、デジタルアーカイブでは目録と資料のデジタルデータが基本的にはセットになると思うんですけど、ホームページでは目録の検索機能っていうのはできにくいので目録と資料を紐付けてほしい。という意見ですとか、あと公開のライセンスですね。二次利用についてはちゃんと明示してほしい。というような意見がありました。他にも、写真をもっと公開してほしいとか、古地図が見たいとか、こういう資料を求めていますよっていうような意見もありまして、非常に参考になりました。意見を頂けると、市としても方向性を持って進められますので、振り返ってみるとやって良かったなと思います。

デジタルアーカイブの利用者像

高田 次は論点を1つ決めて、ちょっと深掘りしてみたいと思います。

では、まず私から。大矢さんのお話で、誰が使うのかが曖昧である、というのがありました。私もデジタルアーカイブ的なことをやりながら、実は、誰が使っているんだろうっていうのを不思議に思っています。なぜかダウンロード数が上がっていく。観測手段はTwitter(現X)でしかわからないというのがあって、実は、誰が使っているのか不思議なんですよね。その辺り、誰が使っているか分からないと進めようがない、対策しようがないとは思います。例えば、マーケティングの世界では昔流行ったんですけども、ペルソナっていう手法があって、どういう属性の人が使っているかを色々整理して、その人に対してアプローチしていく手法あるんですけど、今回のデジタルアーカイブについては相手先が全く見えないので、そういったマーケティング的なことができない、難しいと思っています。ですので、今後、そういうユーザーを考えてやっていくのがいいのか考えなくていいのかとか、その辺の基本的な考え方をちょっと皆さんと議論できればと思うんですけど、いかがでしょうか。

若井さん、お願いします。

若井 三重県埋蔵文化財センターの若井と申します。三重県では、デジタルアーカイブを、機運が高まった結構前に用意しましたが、正直現在活用されているかというと微妙なところです。うちとして一つあるのは、学校とか授業での活用の時に、実はこのようなものを公開していてと、授業のパッケージの一つに組み込んでいったりすることで使ってもらって、多少のフィードバックはあるんですけど、私も、実際どれぐらい使ってもらっているかというのはちょっと不安とか疑問もあったり。投げっぱなしで、そこから更新が滞っていたりということもあるので、そこが現状課題かなと思っています。

川崎 どなたかお聞きしたいのですが、観光関連では利用されていないでしょうか。イベントがあると、事前に指定文化財の解説のページの閲覧が増加するので、事業者さんにも使ってもらっている印象を私は持っています。今後はオープンデータに本格的に流していったら、使ってもらえるのかなと思っています。観光地の方とかいかがでしょうか。

高田 ユーザーでいうと、多分一般の方に近いのは特に博物館関係の方かと思うんですけど、博物館の方でどうでしょう。

宮原 大体使われる方で把握しているのは、画像利用をしたい方とかがデータベースから探してこの画像を使いたいんですが…。という、研究者やメディア関係者からのお問い合わせですね。その方々の声を聞く事はできるんですけど、どうしても一般の利用者の動向は見えないことの方が多いです。当館でやっていることは、展示替えがある企画展に合わせた資料紹介です。内容が変わるたびに、今ここで展示公開していますよっていうのをアーカイブのトップページに出して、さらにSNSへサムネイルを出して紹介する。というようなことはやっているんですけれど、統計を見ると、甲冑とか刀とか、そういった大物、目玉資料みたいなものが見られているようです。目玉資料を公開している時に、Twitter(X)での反応とかを見ても、やはりほかの資料に比べても一番多いですね。そういったところでしか一般利用者のリアクションが見られないので、もっと何か宣伝していく必要があるとは私も考えているところです。

高田 代わりに大西さんからのチャットを読み上げます。「博物館には日々レファレンスなどで色んなことをお調べになった方から連絡があります。そうした方にとっては、データが公開されていると使われるのではと思います。美術工芸品、仏像など、ご先祖調べなど。」確かにご先祖調べは結構ニーズが大きそうですね。

 時間ですので、いったん福島さんから講評お願いします。

総括・講評(福島先生)

福島 皆様、ありがとうございます。福島でございます。アンケートも拝見し、今日のお話もお聞きしました。こういうフォローアップを、わざわざ一回集まってやってみようっていうこと自体がそんなにないので、その意味でこの企画自体すごいことだなと思いました。それと、もう一つ踏み込んで申し上げておくと、誰も研修はやりたくないし、受けたくもないんですよ。そういう研修が少なくなる社会に向かって、どうやっていったらいいのかっていうことのデザインの中で、このフォローアップの前提になっている研修も、この会合も企画されているということ自体がすごく面白い、重要なところだなというふうに思いました。

 多分、その社会のゴールはたくさんの高田さんや大矢さんや莵原さんができることでしょう、と考えます。もしくはこの場に集まっていただいている皆さんが、そのままでなくてもいいんですが、たくさん複製されて、いろんなところに増えていくことがすごく大事だなと本当に思います。これは別にデジタルアーカイブ的なことだけじゃなくても、新しいこと取り組む時には、結局、その中心になれる人とか、もしくはその前段階で研修の講師にお呼びできる人とかをどこまで分厚くできるかっていうことが、結局新しい考え方とか技術が広まっていくキモになります。このことはずっと言われていることですね。なので、奈文研さんを中心にしたこの活動が、きっちり社会に定着するための次の段階を考える場面なんだろうなと思ってお聞きしていました。

 今のを前提に、講評っていうそんな偉そうな立場じゃないですが、それぞれ申し上げます。大矢さんの話ではあっさりおっしゃったんですけど、構築のところの話の中で、予算は小規模で、あとは職員の手作業でやったっていうお話がありました。同じ事を試みようとしたことあったんですけど、今のところうまく展開しないんです。でも、やっぱりおっしゃった成果を見せたいんですよね。こう取り組んだことによって、手間がかからなくなったっていうことを見せるために。まだまだ役所の世界では職員の人件費を事業費の中に読まないという悪弊がまだあるので、職員の人件費込みでデジタルアーカイブの構築運営ができているっていうことを我々もしっかり説明していくべきだなと、本当に思います。役所内ではかえって目をむかれるかもしれませんけど。逆にいったらうまく展開できたら、人件費を減らせるところは減らせるっていう風に考えるべきなので、宣伝効果と比べた時にお得になりますっていうことを見せたいです。そういう意味で莵原さんのおっしゃったことになるかもしれませんけど、無理やりにでも理屈付けて多分出せると思うので、職員の方とどう考えるかっていうことが、全体の議論の中で出てきてもいいかなというふうに思いました。

 それから大阪で着実にやられていることは、いろんな状況を考えると、すごくご苦労されていると思います。その意味で莵原さんのところの越谷のデジタルアーカイブを改めて拝見して、ある意味自治体が持っている文化資源をまるっと出そうとされているってことで、デジタルアーカイブの世界でもう少し共有して議論できたほうがいいお仕事だと思いました。今日僕、これが多分4本目ぐらいの会合で、図書館、デジタルアーカイブ、博物館を渡り歩いて、この文化財系の場に辿り着いているんです。越谷ぐらいしっかりいろんな情報がまるっと出せているということ、そしてそれが教育委員会所属の部署が主導でやられているとことはすごく面白いと思います。その中で特に面白いと思ったのは、庁内でどう戦うかっていう話をすごくしていただいていて、これ大事なんですよね。その向こうにダイレクトに、首長さんだったり議員さんがいらっしゃるのかも。なかなか表には出せないお話を、こういう研修の場のどこかで、クローズドでもきっちり情報交換をしていくっていうことが大事です。庁内の戦い方みたいなのはやっぱりどこも課題ですね。それぞれ戦い方はあるんですけど、たくさんの事例をみんなで仕入れることがいいかなという風に思いました。

 それから、ディスカッションも含めて、今少し気が付いたところ。それぞれ大矢さん、莵原さんに対しての部分で申したことと重なります。ディスカッションの方を軸にして申し上げると、働きかけのその対象が、どうしても学校教育の話とか、若い人に、っていう風には思うのです。しかし、門倉さんという、今度ご本を出される方のウィキペディアンの話がちょっと出ていましたけども、実際に、今の60代の人こそが社会人生活の中でいろんなデジタル環境に触れていて、みんながみんなではないですが、明らかに今の20代ぐらいの人よりはデジタルまわりに強いんですよね。そういうのをみんな実感されていると思います。だって30歳ぐらいの時にWindows95が出てしまって、世界が変わるわけでしょ。その後、ずっと付き合ってきた。もしくは、その前からずっとそれに付き合ってきているんです。例えば、市役所とか役場でもOBの方とかを含めて、年齢が上がっている方でも、幅広に考える時代になっているだろうと思っています。だから、戦略も全年齢対象でいい、ぐらいで考えてもいいかなとは思いました。その上で利活用してもらう。

 これもデジタルアーカイブの初期から言われた話ですが、利活用してもらうためのケアは大変かもしれませんけど、一種のコアなコミュニティを、博物館の友の会とかと同じように作っていって、そこを起点に、役所の外側にそういうグループを作っていくっていうことが大事です。それから越谷で25件のパブコメ的な意見が出たっていうのは多分めったにない数だと思います。国がやってもパブコメ0なんていうのもざらにありますから。なので、それはすごいことだと思います。ともかく利活用者のイメージ像を我々も頭を切り替えて、かつ少し意図的に作りにいくっていうことが大事かと思いました。デジタルアーカイブ活動の中に含み込んでしまって、最初から設計するということがどうも大事になってくるかなというふうに思いました。

 またこれを機会に皆さん、是非私にもお声がけ頂いて、高田さんと何かご一緒にやれることがあればと思っていますので、ぜひよろしくお願いします。

デジタルアーカイブの利用者の創出とその持続性

高田 先ほどの議論の続きですが、利用者層、利用者像ですね。福島先生がおっしゃるには全年齢対象にしておくと。その上で役所の外側にコアのコミュニティを作る。さらに、利用者像を探すのではなくて、こちらから作っていくというのがいいんじゃないかという風におっしゃっていました。この辺り、ほかにご意見ありますか?

大矢 外にコミュニティを作るっていうのが、今年度やっているウィキペディアとかOpenStreetMapを使ったワークショップかなと思います。もう既に外には取り組みをする人たちがいますので、そういった方達を呼び込みたいです。そして、コミュニティが独り立ちしたら役所みたいな公的機関と両方とも活動したいですね。オープンストリートマップを使ったマッピングパーティーなどを見ていると、みんなで歩いて楽しんでご飯を食べて、その後も有志で集まってさらに続くみたいな。ツーリズムに近いものは、外のコミュニティ方が断然やりやすいですよね。ワークショップに参加した方が、次も参加したいなって思えるコミュニティができてほしいです。そして、その団体から欲しい文化財資料のリクエストがあると嬉しい。あとは、現在の行政区域に縛られない自由に動けるコミュニティがあると、データも行政区域に縛られない広い内容になるんじゃないかと考えています。

高田 市の広報誌とかを見ていると、よく古文書を読む会とかありますよね。あれって100%市の事業じゃなくて、かといって営利としての事業でもない感じがするんですけど、そういうのにコミットするというか使ってもらうのはどうでしょうね。

大矢 「みんなで翻刻」も連携したいなと思って、少し狙っています。デジタルアーカイブの活用を考えるようになってから、どこにどんな人がいるか分からないので、新しい場所にも顔を出しています。デジタルアーカイブ自体が多くの人にとって新しいものなので、とりあえず色んな人に伝えて回ろうかと思っているんです。

高田 三好さんがチャットで、「利用したい人が利用したいデータを自分でアーカイブしてもらえたら」って。これが理想ですよね。(笑い)

大矢 ウィキペディアタウンだって、みんな歩き回ってその写真をウィキメディアコモンズに上げれば立派なアーカイブですよね。利用したい人に自分でアーカイブしてもらう時に文化財記録のちょっとしたコツ・ツボを教えますっていうイベントいいですね。。そういう人がどんどん仲間になってくれると、うれしいですね。

デジタルアーカイブの利用者の創出とその持続性

莵原 先ほどの、市民の方から公開したいデータをもらって公開するっていう話ですけが、越谷市デジタルアーカイブでも、システムの下の方に「市への情報提供はこちら」という投稿ページを設けています。ここで、市民が持っているデータとか、こういう民具を持っていますよ。みたいな情報や、市に関して覚えていること、こういう記憶がありますよ。っていうのも投稿してください。っていうページです。本日時点ではまだ投稿はありませんが…。

大矢 大阪市の図書館さんが「思い出のこしプロジェクト」っていうのをやっていて、電子のフォームの受け付けと、図書館の窓口に紙で書いて投稿するっていう2種類の投稿方法で情報を集めていたと思います。手書きのは図書館の人が入力して、それを個人情報とか抜いてデータ化して、オープンデータで発信していました。その辺は少し注意が必要ですかね。孫世代に集めさせるとかダメでしょうかね。祖父母世代の記憶を集める学校の宿題とか。

川崎 夏休みの企画として募ったら、集まってくると思います。例えば、くるべ古代歴史館の場合は、四日市市の文化財施設としてすでに認知されているので、史跡ガイダンス施設ですが、遺物を発見した市民が持ってこられます。イベントをすると軒丸瓦を寄贈したいとか家の屋根裏から出てきたと持ち込まれるケースがみられます。市役所の本庁へとなると、ハードルが上がるでしょうけど、施設があることで認知しやすい可能性はあるかと思います。デジタルアーカイブもデジタルデータだけじゃなくて資料館などの拠点があると利用してもらいやすいのではないでしょうか。ホームページだけだと、ユーザーに見えにくいから、周知しないと辿り着けないかもしれません。

公共に求められる情報の正確性

高田 川崎さん、以前、大学の授業で遺跡の位置探しのお話をされていませんでしたか。

川崎 大学で教えていまして、型式学の授業で、一次資料を使ってアクティブラーニングを実施しています。本物の土器は、埋蔵文化財センターから運んでもらっているのですが、遺跡の情報を検索して表示したら、文化財総覧WebGISの位置情報が間違っていました。土器を持ってきていただいた職員さんも、世代交代していて遺跡の場所のプロットが間違っているっていうことに全く気づけない。私は知っている場所だったので、私が見たら一目瞭然で分かる。どうしましょうねって学生さんに聞いたら、調査した人がプロットするべきではないかとの意見がありました。後世の人わからないよねって。私はこれまで行政の中で作る側の人間だったので、高田さんや野口さんが既にかなりプロットが間違っていることが課題と指摘されていても全く実感がなかったわけです。でも実際に学生と同じユーザー目線に立ってみれば、公共性の高い地図が間違えているってことは、学生にしてみれば信じられないことだとようやく理解したところです。学生さんたちには、遺跡の位置を正確に把握してもらいたいので、資料批判の一環として遺跡の位置情報も検討してもらっています。ただ、何重にもチェックするのが大変ですし、そもそも私も合っているかどうか最終判断はできかねます。真摯に取り組んだほうがいいんじゃないでしょうか。皆さんでそれぞれやるしかないかなというのが、ユーザー側に立ってみた感想です。

デジタルアーカイブと大学連携

野田 今、大学でというお話が出たのでお尋ねしたいんですけど、この中で、大学とかと連携してデジタルアーカイブを検討したり、何かしら関わったりみたいなとこはありますか。というのも、うちも目録はあるんですけれども、内容があまり厚くないというところと、継続的に利用してもらえるかなという目論見もあって、荒尾市史等を監修してくださった先生のご協力を得て、大学のゼミで一緒にデジタルアーカイブを作るようなことができないかなと思って、来年度ご相談に行こうかと思っています。こういった、そもそも投げ掛けすること自体がどうなのかなって思いながら。でも一人じゃなかなかできないですし、外に協力者が必要かなと思って、そういったことを今考えています。もしそういったことをされているところがあったら教えていただきたいと思います。

高田 分野としては博物館の展示品ですか。

野田 そうです。今、とりあえずやろうと思っているのは、近代史の先生のゼミにご相談をして、古文書とかの整理をしつつ、アーカイブを一緒に作るみたいなことができないかなと思っているんですけど。

高田 よくあるのは古文書の目録取りですよね。というのは古文書系の文献の先生はよくやりますけど、そういうのではなくて、もう一歩踏み込んだ感じですか。

野田 そうですね。もしもできるのであれば、科研費のデータベース作成分とか、そういうものをうまく使ってできないかなって思っています。まず最初の取っ掛かりとして、ゼミの学生さんたちに実地研究というか、そのようなことをしてもらう流れから持っていけないかなって考えていたところなんです。

若井 まだ計画ですが、教材作成や教材の提供という話はあります。

野田 ありがとうございます。

デジタルアーカイブを行う意義を考える

川崎 みなさんすごく忙しい中で、高田さんが仕事が増えているんじゃないかっておっしゃっていましたが、今回アンケートの結果見ると、効率化の話も出ていると思うんです。結局アーカイブって仕事が増える一方でしょうか。届出についても聞きたいです。今、私4倍くらい仕事が増えていて、そもそもデジタル化の意義を教えていただけたらと思います。

高田 ある業務を効率化して時間を圧縮したい、そして実際に圧縮できたとする。でも皆さん真面目なので、空いた時間にまた次の仕事放り込むんですよね。そうすると、すごく圧縮された高密度な仕事を毎時間毎日こなすようになる。そうすると、やっぱりストレスとして負荷が高いですよね。非常に厳しい。昔って郵便しかなかった時は1回郵便したら2~3日返ってこないので、その間は極端な表現では、返事を待っていれば良かったんでしょうけど、今は瞬時に返ってくるし、自らの業務を究極に圧縮してぎゅってしている。でも圧縮していても判断やチェックは要るから厳しい。これすごいジレンマを感じますよね。雇われの労働者マインドとしては、やるべきことをやって、自分で効率化した分は何ていうかダラダラしても問題ない。頑張っている風に装うけど、実は終わっていて、隙間に自己研さんしているいるみたいなのがサラリーマンのあるべき姿だと思っていたんですけど、実際皆さん、この文化財の仕事ってそうじゃないですよね。いっぱいやることがあるし、やればやるだけ次の未来に繋がっていくので、ダラダラしないですよね。その辺皆さんどうしていますか。実際、僕は毎日しんどいですよ(笑い)。時間が足りなさ過ぎる。皆さん、どう過ごしていますか。川崎さんはどうでしょうか。

川崎 川崎はハードスケジュールをこなしていますよ。本当に(笑い)。またGISの研修の成果は共有していただいたらよろしいんですが、届出関係はハードです。届出DXSaaSを作っていただきたいんです。次世代につなげないし、そちらのほうと連動していかないと結局紙も残していかなきゃいけなかったりとか。

高田 届出関係は全国的なテーマで、次世代のありかたにしていく余地はありますよね。たとえば文化財総覧Web GISで、例えばここの情報を入手っていうのをポチポチっと押せば、所定のフォーマットにしてPDFが出てくるみたいなのは、多分できるかなとは思っているんです。技術的には可能ですよね。

川崎 そうなんですよね。地図情報と連動していかないと長期保存は困難と思います。

高田 莵原さんにお聞きしたいんですけど、全庁的にすごいシステム作ったじゃないですか。あれって、事務局が生涯学習課で主導したとなると、もう生涯学習課じゃないですよね。それでひとつ課ができるくらいだと思うんです。

莵原 今のところは生涯学習課の担当です。対象資料を全庁的に広げたことで、教育委員会ではなくて、庁内でも市長部局が所管なのではと言われることはあります。教育委員会でシステムを持ち続けるのかどうかっていうのはいずれ議論になるのではないかという状況です。

高田 でも、それは生涯学習課の存在意義にもなるってことですね。

莵原 そうなんですよね。デジタルアーカイブ自体は教育委員会所管の事例も多いとは思いますが、越谷市の事例では対象資料を鑑みると市長部局でやるべきだという意見も出るところですね。今後どうなるのか、構築した自分が今後携わるならどういう立ち位置が適切か、考えるときもありますね。

個人的な印象では、市町部局で運用すると仮想空間の倉庫的な印象が強くなるのではないかとイメージしています。教育委員会は教育とどうしても結びつきますので、デジタルアーカイブ公開資料を用いた活用も見据えていくと思いますが、そのためには、ある程度の歴史的な専門知識も必要になるため、個人に業務が偏るのではないか、とも思います。何が良いのかは市の考え方になるので、どちらがシステムを所管するのにふさわしいのか何とも言い難いですよね。

高田 結局やっぱり人ですよね。割と人ひとりが世の中を動かすと言うか、つながるんだなって痛感しているので、やっぱり人なんだなって思っています。特に文化財部局は人が少ないので、良くも悪くも人依存っていうのを最近よく考えています。

文化財デジタルアーカイブ課程の今後

高田 是非聞きたいことがあります。令和4年の時はオンラインも併用しました。デジタルアーカイブ課程は結構座学が多いし、中には若干手を動かすこともありましたけど、内容の濃い難しい講義を、5日間ひとり画面を見ながらオンラインで聞くのはかなりきついんじゃないかなと思うんですけど、その辺り実際どうでしたか。オンラインで受講された皆さんどうでしたか。

若井 令和4年のオンラインの方で参加させていただいて、アプリとか使ったりとかして実際に自分の手を動かすっていうのを合間、合間に入れていただいたので有難かったです。話を聞いてそのあと作業が入ってという日程の時は、しっかり聞くこともできましたし、ついて行けたっていうのはあります。ただ、オンラインでグループを作ってというのは、その場の雰囲気とかも大事なのかなと思います。オンラインの会議全体に言えるのかもしれないんですけど、なかなか関係性がない中でというのは、ちょっと難しいなと思ったところはありました。

高田 今日また別の研修の受講生から、やっぱりきつかったみたいなこと聞いて。(笑い)オンラインで理解度に差が出ているかも。ただ交通費が負担ないのはありがたいと。

野田 個人的になんですけども、対面で参加させていただいて、行き帰りの時にちょっとお話しさせていただいたり、授業の時だけじゃないやりとりもありました。実際さっき川崎さんに話を振っていただきましたけど、研修後にも私がウィキペディアタウンっていうのをやっているのを見られて、わざわざメールを送ってくださったりとか、こういうゆるくじゃないですけど、そうやって繋がれているっていうこと自体が何かありがたいなと思いました。そういった関係っていうのは、対面で参加して、授業前後のこともあったからこそかなというのは実感しています。

高田 結構テキスト化を進めているんですけど、読めば分かることは、講義ではできるだけ削りたい。皆さん読んでわかるものですか、『文化財と著作権』(独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所企画調整部文化財情報研究室 2022 『文化財と著作権』奈良文化財研究所研究報告34)とか。

大矢 私の場合、1回目の研修に参加させてもらって、事前学習してから読んでいるので、そういう意味ではまあ分かりやすかったんですけど。今年参加した人はあの分厚い本を全部読むんでしょうか。(笑い)著作権のところをざっと見た人は多いかもしれないですね。

高田 皆さん読んでいました?そういう意味で、第1期生は踏み台の土台作りでもあります。教科書を作るために大量に講義をしているので。

川崎 私、読んでいましたよ。というのも、実は一回前のコロナ禍でキャンセルになった研修に参加の予定をしていたんです。でも行けなくなって、でも業務はやらなきゃいけないし、何か参考になるものないかと思って全部ダウンロードしました。今は、私が執筆もさせていただいているので、新しい職員にマニュアルとかで説明はできるんですけど、その裏にある背景とかバックグラウンドは、どういう理由があってこういう形になってきたとか、説明する時間がないので、読んでもらっています。

三谷 高田さんと同じ研究室に所属していて、文化財防災センターという組織にも所属しています三谷直哉と申します。先ほど著作権の話になりますけど、私も読んだことがあるんですけども、読んで自分なりにこういう意味かなっていう風に解釈するんですけども、それが本当に合っているかなというところで、ちょっと不安があるかも。私はすぐに高田さんに聞けますけど、そういう環境にない場合は大変かもしれないなって感じています。

高田 研修に関して、意見交換できる場が欲しいという意見があります。今回が最初なので、時間設定が短すぎた点は反省しています。次の今後の取り組みとして研修フォローアップを入れてもいいかなと思いました。研修やりっ放しにしない。基本的な座学とか知識は皆さんも揃っているという前提で、応用編の意見交換として、更なる次に行くための場というのを今後考えたいなと思いました。

※本稿は当日の発言をもとにテキスト化し、公開に際して適切な表現に改めるとともに意味が通じるよう加筆修正した。


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総覧登録日 : 2024-03-22
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