考古学データベースを活かした文化財管理と研究活動 ー南米の視点からー
Archaeological databases: heritage management and their applications in research from a South American experience
奈良文化財研究所
- 奈良県
1. はじめに
本稿の目的は、文化財管理と研究活動に焦点を当てつつ、アルゼンチンにおける考古学データベースの進展と現状を探求することである。まずは、1960年代に遡り、現在までのアルゼンチン考古学におけるデジタルツールの発展を検証する。特に重要な発展として、BaDaCorのようなオープンアクセスデータベースの構築が挙げられる。注目すべきは、これにより考古学データの整理と共有が容易になったことである。また、アルゼンチンにおけるオープンアクセスへの取り組みが、考古学データを「見つけられる(Findable)」「アクセスできる(Accessible)」「相互運用できる(Interoperable)」「再利用できる(Reusable)」ようにするという、国際的なデータ共有の原則、FAIR原則にどのように対応しているかについて論じる。
アルゼンチンでは、社会学や人文学の研究におけるデジタルツールの利用が始まったのは、パソコンが導入された1960年代に遡る(Jacovkis 2022)。60年代半ばには、パソコンがすでにラテンアメリカの社会的状況の研究において計算作業のために利用されていた(Varsavsky and Calcagno 1970)。考古学も例外ではなかった。60年代以降、パソコンを使った収蔵品コレクションや遺跡の記録等に関わる統計的・数学的なモデルの開発が始まった(Lahitte and Calandra 1977, Lahitte and Frangi 1979等)。
1980年代には、パソコンの利活用が他分野の研究でも普及し始め、統計的・数学的モデルを試行するだけでなく、データの記録処置として利用されるようになった。データの一部はテキストデータで、中には灰色文献になるものもあったのだが、それも他のデータとともに整理され、データベースに登録されていった (Bellelli他 1985; A. D. Izeta and Cattáneo 2018)。
1990年代から2000年代にかけて、膨大なデジタルデータが生み出されたが、残念ながらそのデータの多くは現在まで残っていない。しかし一部の残ったデータの書式や画像形式、図表形式などから、当時のパソコンはどのようなツールを使用していたかわかる。そういった書式の痕跡は、「現代考古学(Arqueología Contemporánea)」(ブエノスアイレス)、「パリンプセスト(Palimpsesto)」(ブエノスアイレス)、「考古学論文(Publicaciones Arqueológicas)」(コルドバ)、「コーノ・スールの狩猟採集民(Cazadores Recolectores del Cono Sur)」(マルデルプラタ)等の学術雑誌と、1994年以降のアルゼンチン国立考古学大会のプロシーディングスで見られる。
1990年代のプロセス考古学と行動生態学(e.g. Luco 2010)の進展にともない、統計的なアプローチへの関心が高まり、データ処理を行うためにSPSSやdBase III Plusが開発された(Ratto and Haber 1988; Yacobaccio 1988, 1991; Bellelli and Guraieb 1992; Laguens 1994等)。統計的アプローチの隆興がそれ以降も続いたが、現時点から振り返ってみると、2000年代までは統計とともに地理情報を処理する試みやデジタル情報の保存については、関心も力量もまだ不足していたといえる。
本稿では、南米で2009年に始まった考古学のためのオープン・デジタル・エコシステムの開発について考察する。その中で、中央アルゼンチンを対象とした研究活動と文化財管理のために使用できる一般公開の考古学デジタルリソースの一例として、BaDaCor(コルドバ遺跡データベース)を紹介する。また、BaDaCorを活用した具体的な研究活動の事例や、先住民コミュニティーによる利用例についても取り上げる。
オープンサイエンスは、オープンアクセスのことだけではない。UNESCOは、オープンサイエンスを次のように定義している。
「オープンサイエンスとは多様な運動及び実践を組み合わせた包摂的な構成物であって、多言語の科学の知識を全ての人が自由に利用し、アクセスし、及び再利用することができるようにし、科学及び社会の利益のための科学の協力及び情報の共有を拡大し、並びに伝統的な科学コミュニティーを越えた社会的関係者に対して科学的知識の創出、評価及びコミュニケーションに関する過程を開放することを目的とするものをいう。オープンサイエンスは、全ての科学の学問分野及び学術の実践の側面(基礎科学及び応用科学、自然科学及び社会科学並びに人文科学を含む。)から成り、並びに次の主要な柱(オープンサイエンス知識、オープンサイエンスの基盤、科学的コミュニケーション、社会的関係者の開かれた関与及びその他の知識の体系との開かれた対話)を基礎とする。」[1]
これらを主軸とすることが、オープンサイエンスの理想である。以上のアプローチは、情報を一般公開するのみでなく、研究の過程と結果を再分析し評価することも含んでいる。そのような取り組みは、研究結果の再現性やデータ品質の基準、標準化と情報共有のプロセスという課題に立ち向かう(Gupta他 2020; A. D. Izeta他 2021; Marwick, 2017; Nicholson他 2023; Richards, 2009)。オープンサイエンスは、アカデミックコミュニティーの範囲を越え、政策立案者や遺産管理者、企業、一般市民などの利用者にも研究成果をとどけることができる。
近年、オープンサイエンスとデジタル考古学は大きな発展を遂げている (Kansa and Kansa 2013; Lake 2012; Marwick 2017)。デジタル考古学は、出版物に加えて、研究結果の再現性を高めるデータベースや方法論を通じて、知識共有の議論を深化させる上で重要な役割を果たしている。(Marwick 2017; Marwick and Birch 2018; Marwick and Schmidt 2020)。それにより、多くの専門家や考古学愛好家がデータや遺物を共有し、過去と現在をより深く理解することに貢献している。最近の研究では、考古学研究を他機関の研究者や一般市民からアクセスしやすくするにはどうすれば良いか、という課題がよく取り上げられる。
しかしながら、世界の大部分の領土と人口を占める「グローバルサウス」に分類される地域では、オープンアクセス等の発展が始まったのは比較的最近のことである(A. D. Izeta and Cattáneo 2019; Salerno 2013)。グローバルサウスに位置するラテンアメリカは、フランスの海外領土やプエルトリコを含む20カ国と7つの属領からなる広大な地域である(図1参照)。ラテンアメリカは、地理的多様性にもかかわらず、重要な類似性も持ち合わせている。例えば、公用語として用いられているスペイン語、ポルトガル語、フランス語はラテン語系の言語である。また、法制度と政府制度は、ヨーロッパの法律に基づいている。この共通の法的枠組みが、地域協力やオープンサイエンスの発展を支えている。

図1. グローバルサウス(薄い青)およびラテンアメリカ(紺枠線)の中でアルゼンチン(黒い枠線)を示す地図
この地図は、Rのrnaturalearthパッケージを使用して作成された(Massicotte and South 2023)。
この政治と行政の制度こそが、多くのラテンアメリカ諸国の財政政策にも影響を与えている。高等教育や科学研究は主に公的資源に依存しており、公的資金による研究成果は広く公開されるべきだという見解が有力である。このような背景のもと、公的資金による研究や教育のオープンアクセスの義務化を求める地域レベルの活動が活発になり、ユネスコの地域事務所や他の多国間機関の資金で開催されるCILACフォーラム(ラテンアメリカ・カリブ海のオープンサイエンスフォーラム)などの会議に参加している。
多くの課題が依然として残されているが、ラテンアメリカのオープンサイエンスのエコシステムが急速な発展を遂げている。ラテンアメリカの多くの国々、とりわけアルゼンチンでは、高等教育や科学研究が公的資金によって支えられているため、研究成果の公開が必須とされている。そのため、アルゼンチン、チリ、コロンビア、ペルー、メキシコなどでは、オープンアクセスを義務化する国法が制定された。一方で、ラテンアメリカの他の国々では、機関レベルの方針が存在するものの、科学的成果のオープンアクセスに関する国法は未整備のままである(Rico-Castro and Bonora 2023)。
2.オープンアクセスーラテンアメリカの学術雑誌についてー
ラテンアメリカのオープンアクセスエコシステムは、特に出版物の公開分野においては顕著な進展を見せている。この20年間で、多くのラテンアメリカの学術雑誌がオープンアクセスになった。Scientific Electronic Library Online(SciELO)等といった学際的なデジタルリポジトリは、1990年代後半から利用され始めた(Cetto他 2015)。また、REDALyCやAMELICaといったプロジェクトは、ラテンアメリカのオープンアクセスの雑誌を集約し、それらへのアクセスをより容易にしている。現在、ラテンアメリカでは、考古学関連のコンテンツを含む86誌以上の学術雑誌が発行されており、そのうち63誌(73%)がオープンアクセスで、それぞれのウェブサイトや前述のリポジトリを通じてオンラインで利用可能である。さらに、多くの学術雑誌は、Directory of Open Access Journals(オープンアクセス学術雑誌要覧)をはじめ、国際的な引用索引データベースや、ヨーロッパのERIHPlus、ElsevierのScopusやWeb of Scienceといった商用データベースにも収録されている。
多くのラテンアメリカの学術雑誌に共通する特徴の一つは、著者から論文処理費用(APC)を請求しない点である。この方針は、論文を読者や著者に経済的な負担をかけることなく、公開、配布、保存されることを目指すダイヤモンド・オープンアクセスモデルに従っている。
注目すべきなのは、ダイヤモンド・オープンアクセスモデルが、ラテンアメリカの著者と読者の無料出版環境を維持する方針と一致している点である。それが可能なのは、カナダのサイモンフレーザー大学のPublic Knowledge ProjectによるOpen Journal Systems(OJS)をはじめとしたオープンソースの編集管理システムのおかげである。OJSは、ダイヤモンド・オープンアクセスモデル(論文処理費用なし)の実施、相互運用性の確保、オープンアクセス、多言語対応、そしてFAIR原則の適用などを可能にしている。
一方で、ScopusやSciELOへの論文収録に対する関心も高まりつつある。ScopusやSciELOといったシステムとデータベースは、掲載される論文が査読済みで内容の質も高く、考古学研究の可視性を向上させるためである。アルゼンチンには、考古学の様々な分野を扱う約20誌の学術雑誌が存在している。そのうち5誌は国際的なデータベースに収録されているため、世界中の読者にアクセス可能となっている。特に、コルドバ人類学研究所が刊行する「人類学博物館紀要(Revista del Museo de Antropología)」は、Scopusに収録されて以来、国際的な著者からの投稿が増加している(Takata and Yanase 2023等)。さらに、この雑誌は現在、Scopusに登録された369誌の考古学雑誌の中で89位にランクインしている(2024年9月12日時点)。
3. アルゼンチン考古学におけるオープンアクセスエコシステムの発展
我々は長年にわたり、考古学におけるデジタルツールの役割に関心を寄せてきた。しかし、2009年以降、本格的にその分野に関与するようになり、オープンデータやオープンアクセス、そして権利や職業倫理に関する意思決定における科学者の役割についての議論に参加するようになった。
アルゼンチン国立科学技術研究評議会(CONICET)による一次データを一般公開する最初の試みとして、PLIICSというプラットフォームの開発が始まり、我々もそれに関わった(A. D. Izeta他 2021; A. D. Izeta and Cattáneo 2021)。しかし、この試みは残念ながら成功には至らなかった。それでも、我々はウィリアムズ財団[2] からの民間資金を得て活動を続け、考古学研究データのデジタル保存に関心を持つ機関のネットワークを構築した。このネットワークは、地域規模から始まり、最終的には全国規模へと発展を遂げた。本稿では、その成果について詳述する。
2010年に、我々はコルドバ国立大学哲学・人文学部の人類学博物館に所蔵されているコレクションの記録、目録作成、およびデジタル化を目的としたパイロットプロジェクトを開始した。その後8年間にわたり、研究者、教員、フェロー、学生で構成された学際的なチームが集結し、このプロジェクトに取り組んだ。このチームは、アナログおよびデジタルデータの収集と体系化を進めるとともに、物質的文化とそれを確保した際の情報の長期的な保存と保護を目指し、そのために必要な保存方法の開発にも携わった。
このプロセス全体を通じて、利用可能なグローバルデータセットとの相互運用性を目指した。そのため、作業の流れに最適な選択肢を見極めるべく、さまざまな商用およびオープンソースのソフトウェアプラットフォームを試用した。また、コルドバ国立大学の規則を遵守し、オープンアクセスの条件を忠実に守るために、FAIR、TRUST、CAREといったフレームワークに準拠した一連のプラットフォームとソフトウェアの導入を試みた(Carrol他 2020;Lin他 2020;Wilkinson他 2016)。
これらの取り組みは、2016年にDSpaceというODRシステム上で公開されたテーマ別リポジトリ「Suquía」の初版として結実した(A. D. Izeta他 2021)。BaDaCorは、このSuquíaプラットフォームの一部として組み入れられており、さらにARIADNEPlusポータル、IDACORDig、Wikidataなどの他のオープンデータベースやインフラにも統合されている(A. D. Izeta 2024; A. D. Izeta and Cattáneo 2021)。我々は、このような国内外のデジタルインフラと連携しているシステム全体を、「デジタルエコシステム」と呼んでいる。
2017年に、ウィリアムズ財団の支援を受けて、これまでの作業で得た知識や開発された方法論を他の機関へと広める活動を始めた。これが、アルゼンチン国内の考古学機関におけるテーマ別デジタルリポジトリの実装を可能にする、全国的なデジタル考古学ネットワークの設立へとつながった。最終的に、我らのプロジェクトから生まれたモデルは、研究者や専門家のコミュニティーに広がり、国内におけるデジタルプラクティスの継続と発展を支える基盤となった。
アルゼンチンでは、デジタル形式への移行が進む一方で、考古学データの多く、特に数十年前の研究は、依然としてアナログ形式でしか利用できない状況にある。しかし、過去15年間にわたってアルゼンチンの学術出版物の大部分がデジタル化され、多くが一般公開されるようになった。それにより、調査研究へのアクセスが大幅に向上している。その具体例として、現在、国内では24誌のオープンアクセス考古学ジャーナルが活発に発行されていることが挙げられる(表1)。一方で、論文が国際的な学術雑誌に掲載される多く場合、ペイウォールによってアクセスが制限される。このように、学術出版のエコシステムが進化し続ける中で、研究者は国内外の研究成果を常にフォローし続ける必要がある。

表1, アルゼンチンの考古学関連デジタルジャーナル(2024年9月現在)
※表1のPDFデータはコチラ
そこで大きな課題になるのは、デジタルコンテンツを一つのインフラストラクチャーに統合することである。アルゼンチン国立科学技術研究評議会機関リポジトリ(CONICET Digital: https://ri.conicet.gov.ar/)などの取り組みは、アルゼンチンの学術成果を統合する方向で進展を見せているが、さらなる努力が求められている。報告書や未発表資料といった灰色文献も、これらのリポジトリに積極的に収録され始めている。
この課題に取り組むべく、まず包括的なデジタルライブラリの作成に着手した。Suquíaは、最初は幣所の記録を1885年まで遡って集約し、次に複数の情報源からの学術雑誌情報の収集に移った。その過程で、140年以上もの間に発表された論文、修士論文、博士論文などの学術成果や、雑誌などをデジタル化し、9,570件(2024年9月13日時点)を超えるデジタルデータを集積することとなった。このデジタルライブラリは、既存のデジタルコンテンツの統合のみならず、アナログ資料のデジタル化を推進し、公開された文献や灰色文献へのアクセスを容易にしている。これらのデータの多くは他のデータベースなどから収集され、複数の機関間でデータネットワークを構築している。また、Dublin CoreやCIDOC-CRMオントロジーといった分類システムとメタデータ基準に準拠することで、OAI-PMHなどのプロトコルを通じた相互運用性を確保し、第三のFAIR原則に従っている。
2013年に制定された法案により、研究調査の一次データを機関リポジトリに統合する取り組みが強化された。法第26,899号は、すべての研究者に対し、自らの研究成果を機関リポジトリに掲載することを義務付けており、これにより研究成果へのアクセスを容易にしている(法第26,899号、2013年 )。さらに、デジタルインフラの整備がこの法案の遵守を後押しし、オープンアクセスおよびオープンサイエンスの原則の普及を促進している。
これらの進展があるにもかかわらず、アルゼンチンの多くのデータベースは依然として個人のコンピュータに保存されており、一般公開されることはなく、他のデータベースへの統合のための機能も備わっていない。このため、ハードウェアの故障やソフトウェアの陳腐化により、データが失われたり使用不能になったりするケースが少なくない。オープンで、統合および連携が可能なデータベースは現在でも稀である。しかし、2017年のアルゼンチンデジタル考古学ネットワーク(RADAR)の設立は、オープンアクセスのデータベース、特に考古学のデジタル遺物コレクションや遺跡のカタログと記録の発展を推進した。
例えば、2021年には、RADARが20以上の機関から提供された出版物のメタデータを標準化し、適宜追加することで、6,000件を超えるユニークなレコードが体系化された。これにより、データのアクセス性と検索性が向上した。
要約すると、かなりの進展が見られるものの、FAIR原則に基づいたデータの利用可能性を確保し、学術出版物と一次データへの世界中からのアクセスを実現するには、さらなる取り組みが求められる。その中で、Suquíaリポジトリは重要な役割を担い、考古学者や一般の人々によるオープンアクセスデータの活用を可能にしている。
4. 事例研究: SuquíaリポジトリのコレクションとしてのBaDaCor
前述の通り、Suquía機関リポジトリ は、アルゼンチンの文化遺産の保存と普及を目的としたデジタルプラットフォームである(A. D. Izeta他 2021)。Suquíaは、文書、写真、地図、新聞、ビデオ、音声記録など、多岐にわたる資料が収録されており、アルゼンチンの文化遺産に関して調査している研究者や学生にとって貴重な情報源となっている(A. D. Izeta and Cattáneo 2019)。Suquíaは、これらの資料を一般公開することで知識へのアクセスを広げ、社会全体の教育水準の向上を目指している。
このリポジトリは、コミュニティー、サブコミュニティー、コレクションから成る。BaDaCorは、2390件の考古学遺跡のデータを集約したデータベースであり、各遺跡に関するメタデータや、RENYCOA(国立考古学遺跡登録)の必要情報を含むPDFファイルを収録している。また、Archesプラットフォームを基盤とするIDACORDigと統合されている。IDACORDigは空間データの管理、地図作成、および地理空間分析を行っている(Doerr他 2018; Myers他 2016; Ronzino他 2016)。
さらに、BaDaCorはARIADNEPlusプロジェクトにも参加している。ARIADNEPlusとは、考古学データの国際的な可視性を向上させ、科学者や機関間の協力の活性化を図るプロジェクトである(Aspöck 2019; Geser他 2022; Niccolucci and Richards 2019)。考古学データの長期的な保存とアクセスを確保するとともに、データ管理プロジェクト開発の経験を持つコミュニティーを結成している。
また、BaDaCorは、ウィキメディア財団が管理するオープンデータベースのWikidataに統合されている。Wikidataは、プラットフォーム間の連携を重視し、コミュニティーによるデータ入力を可能としていることが特徴である(Vrandečić and Krötzsch 2014)。この開放性は強みである一方、誰でもデータの編集や改ざんができるという弱点も抱えている(Heindorf他 2016; Schmidt他 2022)。
BaDaCorは、2009年に開発が始まったオープンアクセスのデジタルプロジェクトであり、他機関と連携を特徴としている。近年、我々はアルゼンチンにおけるデジタル考古学の促進に努めると同時に、遺跡のデータベースの開発を進めるため、アルゼンチンの中央部分に位置する2,300件の遺跡データを収集した。このデータベースの主な成果の一つとして、コルドバ州政府の公式考古学遺跡インデックスの基礎データベースとの役割があげられる。現在もコルドバ州政府はBaDaCorを活用しており、その成長に寄与している。さらに、BaDaCorの活用により、コルドバ州における人類の歴史的居住空間の分布に関する知識を整理することができた。また、コルドバ州の考古学に関心を持つ人々にとって非常に有用なツールとなっている。後述するように、BaDaCorに掲載される情報は、文化遺産の保護に取り組む団体にとっても極めて重要である。特に、大規模なインフラ開発プロジェクトなどで文化財が破壊の危機にさらされた場合や、逆に保護区域、保護区や州立・国立公園の設立といった、ポジティブな影響を与えるプロジェクトにおいても役立っている。
BaDaCorは、「コルドバ州の農村地域の土地利用計画」プロジェクトの一環として誕生した。このプロジェクトは、IDB PID 013/2009(Foncyt-Mincyt/コルドバ)として、リオクアルト国立大学のO. Giayetto氏が指導し、コルドバ国立大学のM. Zak氏がコーディネートした。2009年にコルドバ州科学技術省の科学振興局によって開始されたこのプロジェクトは、コルドバの農村地域における土地利用のための予測および土地利用関連のコンフリクト解消に必要な情報を生成することを目的としていた。当初からプロジェクトの目標を達成するためには、学際的な研究チームが必要と予想されており、最終的に様々な分野の97人の研究者が参加した(Giayetto and Zak, 2019)。このプロジェクトは、コルドバ州科学技術省(MinCyT)およびアルゼンチン国立科学技術振興庁(ANPCYT)の科学技術研究基金(FONCyT)からの資金提供により実現した。
この枠組みの中で、Cattáneo執筆者は考古学情報に関するサブプロジェクトを主導し、文化遺産管理のための地理情報システム(GIS)を構築した。国および州のさまざまな機関に所属する多くの研究者やフェローが、自分のプロジェクトで得た情報を提供した。最終的に出来上がったGISプロジェクトは、環境および文化に関する多層的なデータを生成し、人間の発展を支える三つの領域、すなわち物理的、生物的、社会経済的、およびインフラ的要素に対応することを目的としていた。学際的な情報を統合することで、このプロジェクトはコンフリクト地域や進行中の活動を特定し、文化遺産のリスク地域をモデル化し、文化遺産管理および州の土地利用計画の作成に役立った(Cattáneo他 2015, 2019)。
当時、BaDaCorは遺跡の状態に関する情報を提供し、文化財管理方法を改善する新たな考古学遺跡インデックスの必要性に応える役割を果たした。さらに、米州機構やUNESCO、ICOMOSなどの国際機関からの勧告に準拠するために役立ち、文化財管理に関する国内法(法第25743号/03および法第26160号/13)の要件を満たした(Cattáneo他 2015; A. D. Izeta and Cattáneo 2021)。特筆すべきは、当時はコルドバ州には公式の地理情報を参照できるインデックスやデジタルデータベースが存在しなかった点である。この状況は、現在でも多くのアルゼンチンの州で続いている。
広い意味での考古学調査においては、文化財に関する議論に多様なコミュニティーを含める必要性が認識されている。考古学調査が社会および政治に必然的に影響を与えることを踏まえ、我らのプロジェクトでは社会的視点が採用された(Endere and Curtoni 2006; Endere and Prado 2009)。この視点は、文化財に関する課題についてコミュニティーの声を取り入れることを重視している(Atalay 2008; Endere 2007; Haber 1999; Hernando Gonzalo 2006; Wharton 2005)。これに基づき、我らは文化財や記憶、地域のアイデンティティに関心を持つ地元の情報提供者やコミュニティーメンバー、市民と協力して活動を行った。
2009年から2015年にかけて、空間データ(出版済みおよび/または一般公開済みのもの)、データの出典(参考文献)、年代、および関連する物質文化がデータベースに収録された。そのために、国立人類学・ラテンアメリカ思想研究所(INAPL)が提案したアルゼンチン考古学遺跡データベースの基準(Rolandi 1998)を採用した。2020年に始まった第2段階では、メタデータの標準化が大きく進展した。それには、Dublin Coreメタデータ記述、国際博物館会議国際ドキュメンテーション委員会(CIDOC)の概念参照モデル(CIDOC-CRM)、アルゼンチンのデジタルリポジトリシステム(SNRD)のガイドライン、およびWGS84などの標準を採用した。さらに、標準化された用語リスト(例:ゲッティ財団美術・建築シソーラス(AAT)と地名シソーラス(TGN))、アルゼンチンの地名データ(datos.gob.arから)、コルドバ州空間データインフラストラクチャー(IDECOR)のGIS層、INAPLの国立遺跡収蔵品遺物登録簿(RENYCOA)を活用、データベースの構造と機能を強化した。
過去14年間で、BaDaCorは2回の大規模な更新を経た。第1回は2015年で、第2回は2020年に開始され、現在も進行中である。データベースの各バージョンはCSV形式でコルドバ人類学研究所にて利用可能であり、公開されたインターフェースはSuquía機関リポジトリ(DSpace)、IDACORDig(Archesプラットフォームを基盤とする)、ARIADNEPlus、そしてWikidataの4つのインフラからアクセスできる。
5. 考古学データの応用と再利用
BaDaCorは、多用途のツールとして、コルドバの考古学調査研究および公共啓発活動の基盤となっている。その具体例として、地域の歴史の年代枠組みの確立、遺跡分布のマッピング、そして考古学データの社会的関連性の向上が挙げられる。本節では、BaDaCorの多様な応用例を取り上げ、研究およびコミュニティーへの重要な貢献について考察する。
データベースから得られる標準化済みのデータは、研究において大きな可能性を秘めている。ここでは、BaDaCorの使用による二つの重要な成果、すなわち年代研究の進展と、科学データの公共利用に関する具体例を紹介する。
5.1 データと年代
時間は空間と同様に、考古学において極めて重要な要素である。文化の歴史的進化を理解するためには、信頼性の高い年代データが不可欠である。しかし、アルゼンチンの一部の地域ではこのデータを取得し活用することが非常に困難であった。コルドバに関する800以上の考古学出版物を対象として文献調査を行った際に、いくかの問題が明らかになった。例えば、放射性炭素年代の利用が進められている一方で、時代遅れの歴史文化モデルや信頼性に欠ける年代測定法の使用が依然として課題となっている。さらに、多くの文献において、調査過程や遺跡成形過程に関する情報が不足しているため、データの質が低いと指摘されている(Aguilar 2019; A. D. Izeta and Aguilar 2022)。
これに対応して、BaDaCorのデータベースにおける年代は、該当地域の文化的定義、文化および地質学的な時代、世紀(ISO 8601形式)、放射性炭素年代、年代範囲などのさまざまな項目によって決定されている。また、入力された時代がPeriodOに登録されている場合、その名称とリンクもBaDaCorのデータに追加される(A. D. Izeta and Aguilar 2022)。データの各項目に関しては、基本的にBinding氏とTudhope氏がARIADNEplusのために提案したアプローチに従っている(Binding and Tudhope, 2023)。
2,300件の遺跡のうち、放射性炭素年代測定が行われたのはわずか77か所に過ぎなかった。この不均衡は、考古学データ管理の改善が不可欠であることを示している。たとえ年代測定に関連している遺跡形成過程や他の基礎的な情報が収録されている場合でも、他の詳細が欠けていると、その年代データを正確な分析に利用することができない。また、古いモデルに基づいて人類の滞在時期の解釈や、編年と文化モデルの構築を行うと、問題が生じる。
更新世と完新世の移行期における最初の人類の住居(いわゆる『パレオインディアン期』)や、西暦初頭の初期陶器など、重要な時期に関する年代測定が行われていないため、文化的連続性の理解が困難である(A. D. Izeta 2024; A. D. Izeta他 2017; Rivero 2012)。この課題に対処するためには、連接地域の研究の中で提案されたように(Neme and Gil 2006)、年代と住居の生物学的および地理学的側面を総合的に調査する、よりダイナミックなアプローチが求められる。
以前、アルゼンチンの人類の定住史は、限られた物的証拠と隣接地域との比較に基づいて解釈されていた。放射性炭素年代測定を使った最初の調査では、以前知られていなかった人類の痕跡が残る時期の判明につながった。この発見により、更新世と完新世の境界における定住の失敗や、気候乾燥が起きた完新世中期における人類の定住性がきわめて低かったという解釈が可能になった。この現象は、南アメリカ南部全体で記録されているものである。これらの情報は、我々のモデルで特定のデータポイントとして視覚的に表示されている。
しかし、新たなデータおよびデジタルモデルのツールにより、過去12,000年間に中央アルゼンチンに生活していた人々の理解がさらに深まっている(A. D. Izeta and Cattaneo 2024)。
絶対的な年代的変化と古環境の変化との関連性を明らかにするために、放射性炭素年代測定を実施したコルドバ州内の遺跡を選定した。質の高いデータを確保するため、以下の基準に基づいてデータ選択を行った。まず、層序が明確で、人間活動の痕跡がはっきりと確認できるサンプルを優先した。一方で、平均的な年代や正確性が低い年代を除外した(Prates他 2020)。さらに、遺跡調査の際に遺跡の形成過程が考慮されているかどうかも評価した。これは、年代測定に使用された植物種やその部位に関する詳細な情報が不足している場合、放射性炭素年代の正確性が損なわれる可能性があるからである。そうすると、測定結果の不確実性が高まる。このように、データの異質性や不完全性によって生じる課題にもかかわらず、厳密な解釈を行うよう努めた。
要約すると、BaDaCorには、11の国際研究所から提供された、それぞれ出典と質の違う放射性炭素年代測定の174件が含まれている(https://suquia.ffyh.unc.edu.ar/handle/suquia/489)。それらは、中央アルゼンチンの居住史を表していると考えられる。その背景にあるのは、物質文化を通じてその年代に関する手がかりになっている2000以上の遺跡である。
上述した選定基準を適用した結果、174件の内167件が信頼できると判断した。このデータに基づいて、北部パタゴニアで使用された方法論を応用して、アルゼンチン中部地域の人口動態モデルを構築した (Cobos他 2022)。RStudio内でエコシステムを構築し、Rバージョン4.2.2 Patched (2022-11-10 r83330)をいくつかのパッケージと統合して使用した (R Core Team, 2022)。特に、rcarbon (Crema and Bevan 2021) と ADMUR v1.0.3 (Timpson他 2020) を活用した。
方法論の詳細についてはここでは触れないが、BaDaCorとそのツールの活用により、当該地域における人口動態の再解釈が可能となった。これまでのモデル(Recalde and Rivero 2018; Rivero 2012)は、完新世における領域の断続的な生存を示唆していた。しかし、我々の結果は、更新世と完新世の移行期に人類がアルゼンチンに到達して以来、継続的な人類の活動が行われていることを示している。特に、極乾燥期である完新世中期には、南米南部全域で極端な気候が見られた中でも、北部パタゴニアおよびコルドバにおける人口密度の増加が確認された。一方、いわゆる「南アメリカ乾燥対角線」と呼ばれる中間地域では人口の減少が見られた。
このモデルにより、過去の人類人口動態に関する理解が深まり、より信憑性の高い学説を立てることが可能になった。上記の例が示すように、考古学は信憑債の高い年代データを取得し、それを厳密に活用する際の大きな課題に直面している。文化史のさらなる理解を促進するには、研究や方法論への一層の注力に加え、遺跡の出土地および形成過程をより正確に記録する手法が不可欠である。
5.2 データ、先住民と38号線高速道路
データ再利用を評価するもう一つの方法は、質的分析である。前述の通り、Suquíaは膨大な情報を提供している。このデータは、論文、書籍、灰色文献など、様々な参考文献から収集され、包括的なデータベースとして編纂されている。ここでは、BaDaCorのもう一つの特徴的なの利用方法に焦点を当てる。
近年、BaDaCorのデータの社会的重要性が明らかになってきた。さまざまな組織、環境団体、市民が、文化遺産破壊や先祖代々の領土権に関する問題に対処する際、国家に対する法的および社会的請求において、このデータを利用している。
BaDaCorをARIADNEPlusに追加した2019年に、コルドバ州では高速道路建設が大きく進展し、地方の生活様式を守ろうとする地元住民と対立が生じた。当初、これらの住民グループは、大規模な建設による環境への悪影響に対して抗議していた。しかし、我々のチームが公聴会に参加した後、彼らは文化遺産問題についてより深い理解を持つようになり、それ以降、地域の埋蔵文化材に関する情報を活用するようになった(Collo and Uanini 2022; A. D. Izeta 2024; A. D. Izeta and Cattáneo 2023)。
38号線高速道路は、アルゼンチンのコルドバ州の州都とラ・リオハ州の州都を結ぶ国道38号線に代わるプロジェクトである。この高速道路は、約12,000年前から人類が居住し、現在も人口密度の高い谷を南から北にかけて通過する。この谷は、コルドバ州内でも特に遺跡や遺物の出現頻度が高い地域の一つである(Cattáneo他 2015)。
38号線高速道路の計画および建設は、この地域の埋蔵文化財に対して大きな負の影響を与えてきた(A. D. Izeta and Cattáneo 2023)。このインフラ整備により、歴史的・文化的に価値のある遺跡が変化・破壊された。また、発掘や土木作業によって、この地域の先住民を理解する上で重要な遺物の保全が損なわれた。
これらの損害に対して、地元の先住民コミュニティーや環境活動家たちは、BaDaCorのようなオープンアクセスデータベースの重要性を強調した。これにより、自発的な市民科学プロジェクトが立ち上げられ、BaDaCorに60件以上の新たな遺跡が追加された。その一部は、図2のヒートマップに示されている。BaDaCorは、埋蔵文化財の保護や記録のために不可欠なものとなっただけでなく、地域、国内、国際的な司法制度に対する法的請求にも活用されている。また、文化財破壊に対する訴えを裏付けるデータの収集と体系化を容易にし、損害に対する正義と補償を求めるコミュニティーや活動家の主張を強化する手段として機能している。

図2. 38号線高速道路に沿った遺跡の分布を示すヒートマップ
遺跡の密度はカラ―グラデーションで表されており、赤は遺跡の高密度エリア、青が低密度エリアを示している。黒い線は、遺跡の密度が高い地域を横切る38号線高速道路のルートを示す。すべての地図は、RStudio 2024.09.0(Build 360)とInkscape 1.2.2を使用し、オープンアクセスデータを基に作成された(Massicotte and South 2023)。右側の地図では、アルゼンチン国内におけるコルドバ州の位置(ハイライト部分)と、同州内でプニージャ渓谷の位置(黒い長方形)を示している。
BaDaCorは、透明性を高め、情報へのアクセスを促進する上で極めて重要であり、開発の影響を受けた遺跡の監視と保護に役立っている。BaDaCorが詳細で最新の情報を提供できるため、文化遺産へのインフラ開発の悪影響を軽減するために、このようなデータベース導入が必要である。
このようにデータを公開することが重要である理由は、地元コミュニティーが考古学的情報にアクセスできるようになるからである。これまで考古学的情報は散在しており、一般市民にとってアクセスが難しい状況にあった。実際、大学図書館へのアクセスは、研究者以外の一般市民にとって困難であるため、考古学的情報がBaDaCorデータベースにまとめられ、リポジトリを通じてオープンアクセスで公開されていること(現在、ARIADNEPlusポータルでも公開されている)は、コミュニティーにとって有効なツールとなっている。特に州内の先住民コミュニティーにとっては、その意義が大きい。彼らは植民地主義的思想のもとで歴史から排除され、代々継承してきた文化遺産が冒涜され、破壊され、隠されてきた。
そのため、考古学的オープンデータの活用の有用性を伝えるために、我らはコミュニティーと共に行動している。そして、これにより、国家や州に対する法的請求や司法への提訴を通じて文化財の効果的な保護ができるようになる。このような行動には、民族的出自、性別、年齢の異なる多様なグループが参加している。
データが適切に利活用されるためには、データそのものと、その所在が潜在的な利用者や関係者に周知する必要があると考えられる(これはFAIR原則の第一に該当)。そのため、デジタルメディアの活用に加えて、現地でも、近隣住民、環境保護活動家、文化財保護活動家、立法者、そして公式の文化財機関(州および国家)の職員のために講演、会議、討論会といった活動をしている。
この取り組みにより、様々な社会的アクターとの対話を通じて、埋蔵文化材が世間の関心を集め、その保存が生活の質を向上させるための重要な要素として認識されるようになった。同時に、大規模インフラプロジェクトにおける文化財の重要性が強調され、新たな遺跡の発見や、それらを公式リストやインデックスへ追加することが促進され、よりよく保存できるようになった。
6.課題と今後の方向性
要約すると、本稿ではラテンアメリカにおけるオープンアクセスとオープンサイエンスに関する二つのアプローチを示した(A. D. Izeta and Cattáneo 2023)。第一のアプローチはトップダウン方式であり、国や地方自治体、大学、科学機関が独自の法律・規制を作成するという方式である。アルゼンチンやペルーのような国々では、これらの規制は国法の形を取り、教授や学生、研究者が自らの研究(論文、学位論文、データセットなど)を機関リポジトリに登録することが義務付けられている。機関リポジトリは通常オープンアクセスである。
第二のアプローチはボトムアップ型であり、その代表例がアルゼンチンのデジタル考古学ネットワークである。その方式では、考古学者がコミュニケーション科学(図書館職員、アーキビスト、IT担当者)分野の専門家と連携し、具体的な課題に取り組んでいる。前述した市民科学プロジェクトもこのカテゴリに含まれる。
情報の再利用を理解するためには、定量的および定性的な洞察の両方が欠かせない。定量データは使用状況に関する情報を提供し、定性的な視点は、一般市民が考古学データをどのように活用し、政治的および社会的活動にどのように役立てているかを把握するための助けとなる。例えば、オープンデータは、先住民コミュニティーが自らの伝統的生活様式を保護するための政治的ツールとして活用することができる。
結論として、過去20年間におけるアルゼンチンのデジタル考古学は、考古学的実践の可視性を大幅に向上させてきた。この進展には、デジタルデータの作成、アナログデータのデジタル化、さらにオープンアクセスプラットフォームでの公開が含まれる。
ARIADNEPlusや機関パートナーが導入したデータ処理、プロトコルの使用、及び方法論の大幅な改善により、肯定的な成果が得られた。しかし、さらなる標準化に向けて取り組むべき課題は依然として多い。FAIR原則やTRUST、COREといったフレームワークに従い、考古学における倫理的な問題に対応することで、このデータがより多くのコミュニティーに広く利用・再利用されることが期待される。
7. 謝辞
筆者らは、セミナーを開催してくださった奈良文化財研究所に深く感謝申し上げる。また、温かく迎えてくださり、学術交流をしてくださった高田祐一氏(企画調整部文化財情報研究室主任研究員)、ドゥドコ・アナスタシア氏(企画調整部文化財情報研究室アソシエイトフェロー)、および庄田慎矢氏(企画調整部国際遺跡研究室室長)に心よりお礼を申し上げる。さらに、2024年4月の日本滞在中、我々の活動をご支援いただいた鵜澤和宏氏(東亜大学教授)、瀧上舞氏(国立科学博物館人類研究部人類史研究グループ)、および山形大学理学部理学科のすべての職員の方々にも、深く感謝の意を表する。
註
[1] 『オープンサイエンスに関する勧告』https://www.mext.go.jp/unesco/009/1411026_00003.htm (2025年1月7日確認)
[2] ウィリアムズ財団 https://fundacionwilliams.org.ar/
[3] 法第26,899号、2013年、アルゼンチン共和国国会。オープンアクセスの機関リポジトリに関して[最終アクセス日:2024年9月13日] http://servicios.infoleg.gob.ar/infolegInternet/anexos/220000-224999/223459/norma.htm
[4] Suquía機関リポジトリ https://suquia.ffyh.unc.edu.ar
