静岡県の文化財3次元データ整備事業と「LEGA-SHIZU×3D」

田村 隆太郎 ( 静岡県スポーツ・文化観光部文化局文化財課 )

Shizuoka Prefecture's project to promote 3D data of cultural properties and "LEGA-SHIZU×3D"

Tamura Ryutaro ( Cultural Properties Division, Cultural Bureau, Department of Sports, Culture and Tourism, Shizuoka Prefecture )
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データ登録機関 : 奈良文化財研究所 - 奈良県
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田村隆太郎 2025 「静岡県の文化財3次元データ整備事業と「LEGA-SHIZU×3D」」 『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用』 XR・LiDAR・3D・デジタルアーカイブ・知的財産権 https://sitereports.nabunken.go.jp/online-library/report/81
 静岡県は、文化財の3Dによる情報発信を実装する事業を立ち上げた。県内にある国・県指定文化財の彫刻の中から3Dで見てもらいたい仏像を選び、専門業者に委託して高精度の3Dを取得した。また、県内における文化財の3D化の取組を促進するためのセミナーを開催し、考古資料や遺跡などの3D化に関して専門家を招いて、文化財関係者を対象とした講義と実習を行った。1月には静岡県文化財ポータルサイト「レガシズ」内に「LEGA-SHIZU×3D」を開設し、取得した文化財の3Dを公開するとともに、3D化等への参加を募集するなど、「みんなでつくる静岡県の文化財デジタルミュージアム」へと成長させるプロジェクトとした。
目次

1.はじめに

 静岡県が令和6年度に開始した「文化財3次元データ整備事業」と開設した「LEGA-SHIZU×3D」について、経緯と令和6年度事業について報告する。今後の取組の参考になれば幸いである。

2.事業化の経緯

(1)背景

 静岡県(以下、「本県」という。)は、令和元年度に文化財行政の所管を教育委員会から知事部局に移し、令和2年3月には「静岡県文化財保存活用大綱」(以下、「大綱」という。)を策定した。この大綱において、文化財を魅力ある地域資源として発信することを県が取り組む方向性の1つとし、国・県指定文化財データベース「しずおか文化財ナビ」の公開や様々な文化財関連動画の配信などを行ってきた。さらに、令和6年3月には、県内の文化財に関する情報を一元的に発信するポータルサイト「レガシズ」を立ち上げた。

 先端技術の利用については、県GISシステムでの遺跡地図公開や全国遺跡報告書総覧での報告書PDF公開などに参画している。しかし、3次元データ(以下、「3D」という。)の利用については、大綱で防災における保存措置として有効であるとしたものの、事業としては推進してこなかった。一方、県土づくり・まちづくりの部局においては、県域の3次元点群データを取得・公開する「VIRTUAL SHIZUOKA」が進められ、その利用実績と効果の認知が広まってきていた。また、徐々にではあるが、各地で文化財の3Dの取得と成果の公表も行われるようになってきていた。 

(2)契機

 令和6年度当初予算編成方針において、重点事業の指定テーマの1つに「新たなデジタル技術の活用」があげられた。そこで、新規事業「ふじのくに文化財3次元データ整備事業」(以下、「本事業」という。)を提出することとした。また、本事業の推進に向けて、デジタル田園都市国家構想交付金のデジタル実装タイプTYPE1への申請も所管課をとおして行うこととした。なお、事業内容の検討にあたっては、県内市町の文化財行政所管課に対して3Dの利用状況等について調査したほか、都道府県の文化財行政所管課に対して先端技術を利用した取組に関するアンケート調査を行った。

 事業内容は、静岡県内の歴史文化資源である文化財の3Dを取得し、アーカイブとコンテンツによるWEB公開や体験会を行うことにより、3Dによる文化財デジタル情報発信(以下、「文化財3D情報発信」という。)を実装するものとした。保存上公開制約もある文化財の価値や魅力を広く伝え、文化財の認知度を上げることを目的とし、さらに、本事業の効果として、展示会や講演会、観光、教育活動への文化財3D情報発信の利用を促進することで、文化財への理解を深め、地域の誇りと文化財の未来への継承につなげることを目標とした。

 また、本事業が目指す構想として「みんなでつくる静岡県の文化財デジタルミュージアム構想」を掲げた。本県には県立の歴史系総合博物館はないが、県内のあらゆる地域や所蔵施設に多彩な文化財があふれている。本事業で3D化できる数には限度があるが、実装する文化財3D情報発信を玄関口として、官・民・学の多様な人材の関わりを得て3Dアーカイブの拡充と利用を推進したいと考えた。


図1 文化財3次元データ整備事業の構想


3.令和6年度事業の概要

(1)仏像の3D化の実施

 本事業のメインとしたのは、仏像の3D化である。県内にある国・県指定文化財の彫刻の中から、3Dで見てもらいたい仏像を選び、専門業者と所蔵施設をめぐって高精度の3Dの取得を実施した。

 3D化は、建造物や彫刻、考古資料、史跡といった立体的な構造や造形に特徴のある文化財に対して高い効果が期待できる。その中で、彫刻の仏像は精巧な表現技術に優れるとともに、実物の展示公開には保存上の制約も求められることから、魅力発信と保存措置のいずれにおいても高い効果が期待できる。県内には190軀以上の国・県指定文化財の彫刻仏像がある。この中から、3Dの取得・公開に対する所有者等の同意が得られるもの、3D化作業に耐えられる保存状態のもの、保存上の制約をふまえた公開措置が図られているもの、本県の歴史文化との関わりがあるものなどを条件とした。さらに、令和6年度は鎌倉時代以前の仏像を県内の東・中・西部各地域から選び、最終的には7施設(寺院の宝物館や地域の御堂、美術館)が所蔵する32軀の3D化を実施した。

 専門業者は、プロポーザル方式により選定した。業務委託の仕様書には、対象候補となる仏像一覧と取得する3Dの条件、計測作業の条件、公開モデルの条件、体験会を支援すること、県が3Dを管理する環境を整備することを示し、複数者の企画提案の中から企画内容と契約相手を選定した。対象候補となる仏像の所有者や施設関係者には、前もって事業内容を説明して理解を得ていた。委託契約後の6~7月には、専門業者と各施設をめぐって作業計画のための事前確認を行った。その後、専門業者は作業計画を調整し、県は所有者等から同意書を得て、9~10月の7日間で3D化の計測撮影作業を実施した。3D化の方法は、企画提案等によりフォトグラメトリになった。仏像の移動に係る作業者(美術品梱包輸送技能取得士)は専門業者により準備されたが、移動は所蔵施設内に限ることとし、また、委託者側の指導を受けて作業することを仕様に示し、県内で多くの仏像の保存・活用に関わっている田島整氏(上原美術館上席学芸員)と島口直弥氏(浜松市美術館学芸員)に指導を依頼した。

(2)文化財3Dセミナーの開催

 考古資料や遺跡などについては、文化財担当職員等が自ら3D化を行っている事例もあることから、そうした取組を広げることで県内文化財の3Dアーカイブを充実させることを目的として、文化財3Dセミナーを開催した。文化財の3Dについて専門家を招いて、県内の文化財関係者を対象とした講義と実習を行った。

 令和6年度は、10~12月に県内3か所でそれぞれ2日間にわたって開催した。静岡県埋蔵文化財センターと磐田市埋蔵文化財センターでは考古資料を対象とした実習と講義、伊豆の国市あやめ会館・北江間横穴群では遺跡を対象とした実習と講義を行った。講師は、野口淳氏(公立小松大学次世代考古学研究センター特任准教授)、高田祐一氏(独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所主任研究員)、内田翔氏(モバイルスキャン協会副代表理事、内田建設)に依頼した。のべ26名が参加し、3D化のしくみと特徴に関する基礎知識と実習によるノウハウの習得に加えて、専門業者の屋外計測機器と計測方法、発注する場合の留意点、データの取扱いと管理、公開と活用方法について共有した。なお、このセミナーで取得した県内文化財の3Dは、作成者と県、所有者で共有するものとした。


図2 令和6年度文化財3Dセミナーのカリキュラム


(3)「LEGA-SHIZU×3D」の開設

 仏像の3D化や文化財3Dセミナーで取得した3Dについては、本県の文化財3Dアーカイブとし、公開用の3Dモデルを制作した上で、静岡県文化財ポータルサイト「レガシズ」内に専用コンテンツを設けて公開した。コンテンツの名称は「LEGA-SHIZU×3D」とし、令和7年1月17日に開設した。URL:https://lega-shizu.com/legashizu3d/

 「LEGA-SHIZU×3D」の構成は以下のとおりである。

  ・活動の紹介…本事業の報告

  ・3Dデータの利用案内…3Dの利用に関する案内と利用報告・問合せ窓口

  ・参加メンバーの募集…「LEGA-SHIZU×3D」への参加方法と問合せ窓口

  ・展示室…テーマごとに3Dを用いて県内文化財を紹介するデジタル展示室

  ・アーカイブリンク…県内文化財の3Dを公開しているウェブサイトのリンク集

 展示室で公開している3Dモデルは、Sketchfabにアップロードしたものを埋め込んでいる。テーマごとに本県の文化財の特徴を示すとともに、各文化財の特徴を紹介する中で3Dモデルを見てもらえるようにしている。アーカイブリンクでは、「LEGA-SHIZU×3D」以外にもある県内文化財の3Dの情報を集約していく。また、データの利用について案内するほか、本県が進める文化財の3D化の活動を紹介するとともに、3D化活動に参加したい、取得した3Dを展示室で公開してほしい、3D公開サイトをアーカイブリンクに加えてほしいといった参加希望を募集することで、県内文化財の3D化を増殖させていくことをねらいとしている。展示室で公開する3Dモデルについても、本県の文化財3Dアーカイブに限らず充実化を図る。「LEGA-SHIZU×3D」は、官民に関わらず多様な人材の関わりによって静岡県の文化財を3D化して公開する「みんなでつくる静岡県の文化財デジタルミュージアム」プロジェクトとしても位置づけて成長させていきたい。


図3 LEGA-SHIZU×3D(左:トップイメージとQRコード 右:参加メンバーの募集)


(4)文化財3D体験会の開催

 「LEGA-SHIZU×3D」開設後の2~3月には、文化財の3Dを多くの県民等に見てもらい、利用や参加を促進するための体験会を県内東部・中部・西部の3か所で開催した。

 「3Dでせまる文化財『仏像のヒミツ』体験会」と題して、文化財3Dの紹介と操作体験、3Dデータから制作した仏像のレプリカにふれる体験、3D映像を用いた仏像の専門家によるトークタイムを行った。トークタイムは全ての回の予約が定員に達し、当日参加(立見)も加わり盛況となった。3Dによって保存上公開制約もある文化財の魅力を伝えることができ、専門的な議論やプレゼンテーションにも3Dの利用効果が高いことが確認できた。


図4 文化財3D体験会のフライヤーと開催風景


4.今後に向けて

 「LEGA-SHIZU×3D」の活動として、県内文化財の3D化と公開による情報発信の拡充を進めるとともに、令和7年度は文化財の3Dを利用した展示機会の創出を加えた事業の展開を予定している。展示機会の創出では、リアル空間で3Dを展示するディズプレイ等の設備を整備するとともに、サイバー空間であるメタバースでの3Dの展示を整備する計画である。

引用-システム内 :
引用-システム外 :
Cultural data online report map :
田村隆太郎「静岡県の文化財3次元データ整備事業と「LEGA-SHIZU×3D」」『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用7』 - 図1 文化財3次元データ整備事業の構想
田村隆太郎「静岡県の文化財3次元データ整備事業と「LEGA-SHIZU×3D」」『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用7』 - 図2 令和6年度文化財3Dセミナーのカリキュラム
田村隆太郎「静岡県の文化財3次元データ整備事業と「LEGA-SHIZU×3D」」『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用7』 - 図3 LEGA-SHIZU×3D(左:トップイメージとQRコード 右:参加メンバーの募集)
田村隆太郎「静岡県の文化財3次元データ整備事業と「LEGA-SHIZU×3D」」『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用7』 - 図4 文化財3D体験会のフライヤーと開催風景
NAID :
都道府県 : 静岡県
時代 :
文化財種別 :
史跡・遺跡種別 :
遺物(材質分類) :
学問種別 :
テーマ : 技法・技術 活用手法
キーワード日 : 静岡県 文化財 3D 情報発信 LEGA-SHIZU×3D 参加募集 みんなでつくる デジタルミュージアム プロジェクト
キーワード英 : Shizuoka Prefecture Cultural properties 3D Information dissemination LEGA-SHIZU×3D Recruitment for participation Created together by everyone Digital Museum Project
データ権利者 : 田村隆太郎
データ権利区分 : クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。
総覧登録日 : 2025-02-28
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