考古学ビッグデータと3D-GISの統合による古代寺院立地・造営・景観論ー2025年度上半期までの進捗ー
The integration of archaeological big data and 3D GIS for the study of the Ancient temple location, construction and their landscape: progress through H1 FY2025 (five year project FY2024-FY2028)
1. 古代寺院3DGIS科研の概要
本研究集会は日本学術振興会化学研究費基盤研究(B)「考古学ビッグデータと3D-GISの統合による古代寺院立地・造営・景観論」(24K00142、研究代表者:野口 淳)の一環として企画・開催される。以下、本科研プロジェクトについて「古代寺院3DGIS科研」と略称する。
古代寺院3DGIS科研の申請時の計画概要は以下のとおり:
「地下に埋蔵され目に見えない考古遺跡の情報を3D-GIS化し、文字に記された歴史と、地形・地質・周辺環境などの地理情報と連結することにより、奈良時代~平安時代の古代寺院の立地・造営・景観について詳細を解明する。またその時間的変遷を文献に記録された社会史、地層中に残された災害史と連携することで、専門分野を超えた立体的、総合的な叙述を可能にすることを目指す。」
野口 淳(考古学)を研究代表者として、考古学、地理学、文献史学、火山学の研究者を分担・協力者で構成される、2024年度〜2028年度までの5ヵ年の研究プロジェクトである。
2. 初年度(2024年度)の経過
主たる研究対象を武蔵国分寺跡とするため、着手にあたって国分寺市教育委員会との協力関係を構築した。初年度(2024年度)は、国分寺市教育委員会で推進してきた市内遺跡発掘記録のGIS化(寺前報告)に協力するとともに、僧寺北方建物址(北院)の現況3D計測、恋ヶ窪遺跡第119次調査区で検出された東山道武蔵路の構築前および放棄後の堆積物の年代測定を実施した。これらは武蔵国分寺の寺域と施設遺構の配置・構成と、その立地条件を時系列上で把握するための取り組みである。
また災害史、古代瓦研究をテーマとする2回の研究集会を開催した(古代寺院3D-GIS科研2024a,b, 2025a,b)。
3. 本年度(2025年度)前半の進捗と後半の予定
2年目 (2025年度)は、国分寺市教育委員会による市内遺跡発掘記録のGIS化の進捗を受けて、既刊報告書にもとづき遺構および自然堆積層の深度情報を付与することで3D化を進めるとともに、報告書記述にもとづく遺構時期設定に着手する。
並行して僧寺を中心とした史跡範囲の現況3D計測を実施した。同様の計測を甲斐国分寺跡でも実施した。今後東国各地の国分寺跡でも行った上で、伽藍配置と造営の微地形条件を検討するためのデータを取得する。また考古学的な調査成果を歴史的に評価する方法論検討のために、考古学・文献史学双方の立場から国分寺造営と伽藍配置に関する諸問題を議論する研究集会も開催する予定である。
また武蔵国分寺跡出土古代瓦および古代土器の3D計測にも着手した。今後、近隣遺跡との比較検討による年代基準の策定、武蔵国分寺跡既往調査区検出遺構の時期・年代決定を進めるとともに、窯跡資料との対比からみた生産体制、物流の検討も行う。僧寺伽藍北側の国分寺崖線直下の低地で、武蔵国分寺造営前から創建期、「再建期」とその後にかけての凹地内の堆積と年代を明らかにすることを目的としたボーリング調査も予定している。寺域の整備、維持とその放棄を、自然および人為的な環境の変化から捉えることが目的である。
一般向けの成果公開と普及の一貫として、国分寺市武蔵国分寺跡資料館の秋季展に遺跡地図GISに関するパネル展示を行う(2025年10月〜12月予定)。また一般参加者からの関心の高かった災害史研究会にもとづく普及講演会を開催する(図1)。

図1 これまでの進捗と今後の予定
4. 3年目以降の展開(予定)
武蔵国分寺跡の詳細遺跡GISデータの整備を受けて、遺構および自然堆積層の深度情報を付加した3D-GISデータの整備を本格的に進める。並行してデータフォーマットとデータ項目・記述等の標準化について2027年度を目標として検討を進める。また全国文化財総覧の抄録情報、発掘調査報告書などに蓄積されている考古・歴史情報とのリンクを進める(図2)。

図2 GIS部門の検討課題
GISをベースとした考古・歴史情報の集約、可視化と解析は、考古学、文献史学、災害史研究のリソースとして、武蔵国分寺を核とした古代寺院の立地、造営とそれを取り巻く景観の解明のために提供される(図3)。古代土器・瓦についての研究集会、文献史学との連携に関する研究集会、災害史情報の集積と歴史的評価についての研究集会とを企画する。

図3 古代史理解のためのフローチャート
今後とも、古代寺院3D-GIS科研プロジェクトに注目いただき、議論に参加いただければ幸いである。
参考情報
・古代寺院3D-GIS科研 2024a『考古学・歴史学と災害史研究―過去を知り、未来に備えるために―』古代寺院3D-GIS科研研究会シンポジウム予稿集1 https://sitereports.nabunken.go.jp/140725
・古代寺院3D-GIS科研 2024b 『考古学・歴史学と災害史研究―過去を知り、未来に備えるために―発表資料集』古代寺院3D-GIS科研研究会シンポジウム発表資料集1 https://sitereports.nabunken.go.jp/140796
・古代寺院3D-GIS科研 2025 『瓦研究の革新は東国古代史理解に何をもたらすのか』古代寺院3D-GIS科研研究会シンポジウム予稿集2 https://sitereports.nabunken.go.jp/141908
・古代寺院3D-GIS科研YouTubeチャンネル(研究集会動画アーカイブ) https://www.youtube.com/@kodaijiin3dgis
