デジタル技術による文化財情報の記録と利活用 > XR・LiDAR・3D・デジタルアーカイブ・知的財産権 7 号 > 全国で公開する高精度DEM及び3次元点群データを用いた城館跡の遺跡立体図の整備公開

全国で公開する高精度DEM及び3次元点群データを用いた城館跡の遺跡立体図の整備公開

永惠 裕和 ( 兵庫県立考古博物館 )

Web-based publication of three-dimensional maps of castle ruins using high-precision DEM raster and 3D point cloud data published nationwide.

NAGAE Hirokazu ( Hyogo Prefectural Museum of Archaeology )
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データ登録機関 : 奈良文化財研究所 - 奈良県
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永惠裕和 2025 「全国で公開する高精度DEM及び3次元点群データを用いた城館跡の遺跡立体図の整備公開」 『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用』 XR・LiDAR・3D・デジタルアーカイブ・知的財産権 https://sitereports.nabunken.go.jp/online-library/report/86
 本稿は、筆者が作成した城館跡の遺跡立体図を公開することを目的とする。作成にあたっては、国土地理院が整備する高精度DEM・各府県が整備公開する高精度DEM及び3次元点群データを用いた。このうち点群データについては高精度DEMを新たに作成し、高精度DEMデータが存在しない、もしくは部分的に欠落している箇所については、国土地理院の5mメッシュDEMを用いて補った。
今後も、この形態でのデータの公開を進めていきたいと考えているが、利用ケースの増加を考えるならば、3次元点群データの公開だけでなく、利用しやすさを考えた高精度DEMの整備公開が望まれる。
目次

1 はじめに

 筆者は、国土地理院や地方自治体が公開する高精度DEMを元に、「遺跡立体図」を開発した(永惠2023)。この遺跡立体図は、古墳や城館跡などの地表面に起伏として遺構が顕在している遺跡に特化した表現手法であり、特に標高をスペクトラル色で表現した点に特徴がある。文化財行政分野でよく用いられる立体地図である、赤色立体地図やCS立体図は、遺跡に限るならば、適切に地形の起伏を捉えているものの、隣接しない遺構群においては、等高線の補助なしにそれらの比高を表現することが難しかった。その点、筆者が開発した遺跡立体図では、明瞭に色彩によって比高を表現することができ、また両図と同様に地形の起伏を捉えることに成功している。遺跡立体図は、まさに文化財専用の立体図である。

 兵庫県内の城館跡等の遺跡立体図については、筆者が作成したものを、兵庫県企画部情報戦略課に依頼し、G空間情報センターにて、ワールドファイルを付して公開している。また、公開データの簡便な利用として、ウェブサイトである「open-hinata3」で各遺跡立体図を閲覧することができる(註1:「open-hinata3」はhttps://kenzkenz.xsrv.jp/open-hinata3/?s=fSfzLQ。いずれも背景画像の中に格納されており、当該画像を選択後、画面上で閲覧できる。)。定期的な更新は難しいものの、年度ごとの更新を目途に、兵庫県内の城館跡の遺跡立体図を充実させる予定である。

 しかし、他道府県のものについては、G空間情報センター内の兵庫県のページで公開することは道義的に難しく、筆者自身が画像をSNS等で公開する、もしくは研究会等で用いる以外に掲載の方法がなかった。本稿は、奈良文化財研究所情報研究室の高田祐一氏の勧めにより、これまで作成した他府県のデータを用いた城館跡の遺跡立体図の公開を目的としている。

 ただし、他府県においては、兵庫県と同様の高精度DEMラスター画像(以下、高精度DEMとする)の公開が行われていない場合もあり、点群データからの作成となった地点や、一部国土地理院の5mメッシュDEMを利用しているものもある。遺跡立体図の作成以外のDEM作成及び、5mメッシュDEMの利用について、次章で詳述する。なお、東京都については0.25mメッシュの高精度DEMが公開されているため、それを用いた。

2 公開する遺跡立体図(附ワールドファイル)

データ公開URL:https://www.geospatial.jp/ckan/dataset/iseki

(1)宮城県

①月館館跡・中館跡・赤岩館跡(気仙沼市)

(2)東京都

①江戸城跡(東京都千代田区)

②世田谷城跡(東京都世田谷区)

③品川第3・第6台場(東京都品川区)

④滝山城跡(東京都八王子市)

⑤八王子城跡(東京都八王子市)

⑥片倉城跡(東京都八王子市)

⑦深大寺城跡(東京都調布市)

(3)神奈川県

①小机城跡(神奈川県横浜市)

(4)静岡県

①駿府城跡(静岡県静岡市)

②横地城跡(静岡県菊川市)

③下田城跡(静岡県下田市)

④山中城跡(静岡県三島市)

⑤諏訪原城跡(静岡県島田市)

⑥小長谷城跡(静岡県榛原郡川根本町)

(5)愛知県

①名古屋城跡(愛知県名古屋市)

(6)京都府

①伏見城跡(京都府京都市)

(7)大阪府

①上赤坂城跡(大阪府南河内郡千早赤阪村)

(8)和歌山県

①和歌山城跡(和歌山県和歌山市)

(9)広島県

①吉田郡山城跡(広島県安芸高田市)

②福山城跡(広島県福山市)

③亀居城跡(広島県大竹市)

(10)高知県

①朝倉城跡(高知県高知市)



3 作成したデータの概要

(1)遺跡立体図の元となるDEMデータの作成

 本稿で提示した遺跡立体図のうち、各府県の点群データから作成したのは、神奈川県・静岡県・大阪府・和歌山県・広島県に属するものである。これらの府県では、ウェブ上で測量に基づく3次元点群データ(以下、点群データとする)が整備公開されている。また、ラスター画像としては、いずれの府県でもCS立体図を公開しているが、本稿で述べる高精度DEMの公開は実施されていない。

 そこで、本稿で公開する各遺跡立体図は、これらの点群データから、遺跡立体図の元となる高精度DEMをまず作成し、それらから画像の解析を行った。なお、遺跡立体図の作成方法については、拙稿(永惠2023)を参照いただきたい。

 QGISの基本機能であるメニューバーから、「レイヤ」を選択し、「レイヤの追加」→「CSVテキストレイヤの追加」を選択する。公開されている点群データのうち、地表面を記載したものを選択・ダウンロードし、追加する。この際、データにXYZの表記がないものが大半であるため、テキストエディタで、XYZを追加する。

 「CSVテキストレイヤの追加」ウィザード画面で、Z(標高値)を選択し、データを読み込む。読み込む際に、Zを読み込むデータとして、選択したテキストファイルを更にウィザード中段で「+」にて追加する必要がある。なお、このウィザード画面でZ(標高値)を選択しない場合には、平面上の位置でQGIS上では表記されるが、Z(標高値)として認識されない。

 次に、読み込んだテキストファイルから高精度DEMを作成する。プロセッシング内の「内挿(TIN)」を選択し、読み込んだテキストファイルをウィザード画面から選択する。この際、画像の範囲を、読み込むレイヤーのサイズにする必要がある。以上の選択・入力を行いプロセスの実行を行うと、高精度DEMが作成される。

上記の方法にて作成された高精度DEMを用いて、それぞれの遺跡立体図を作成した。

(2)5mメッシュDEMを利用したもの

 5mメッシュDEMを用いたものは、東京都のうち江戸城と、愛知県名古屋城、京都府伏見城、である。東京都は、令和4(2023)年から、東京都デジタルツイン実現プロジェクトを実施しており、他道府県に先駆けて、0.25mメッシュの点群データ・高精度DEMをも公開している(註2:区部:https://www.geospatial.jp/ckan/dataset/tokyopc-23ku-2024。多摩地域:https://www.geospatial.jp/ckan/dataset/tokyopc-tama-2023。島しょ地域:https://www.geospatial.jp/ckan/dataset/tokyopc-shima-2023。)。基本的に、これらのデータで遺跡立体図は作成できるが、本稿で公開する江戸城については、皇居に該当する内郭部(本丸・二ノ丸・北の丸等)のデータが欠落している。そのため、内郭部について、国土地理院が公開する5mメッシュDEMを利用する。京都府では点群ラスター・高精度DEMが整備・公開されていないため、国土地理院5mメッシュDEMを用いた。

 本稿で使用する国土地理院5mメッシュDEMは、近年更新されたデータは、写真測量であった地域について新たに航空レーザー測量を実施した地域である。特に本稿で公開する伏見城跡については、城郭の大半が写真測量の対象地域であったため、規模の大きさを考慮しても、大雑把なデータしかなく、遺跡立体図の作成を行うことができなかったが、今次の更新により遺跡立体図の作成が可能となった。

4 展望と課題

※ここに、「データの使いやすさ4象限分析」を入れる。

 筆者が、遺跡立体図の作成手法を開発し、実践してきたなかで数年が経過したが、この間、地方公共団体での3次元点群データや高精度DEMなどの地理情報データの整備公開は著しい。また、国土地理院も従来の5mメッシュDEMに加え、1mメッシュDEMの整備公開を開始し、全国の土地の形状に関するデータが増加している。

 この中で懸念されるのが、公開するデータ形式の在り方である。第3章で述べたとおり、本稿で公開する遺跡立体図のもとになるデータについて、兵庫県と東京都、高知県では高精度DEMが公開されておりダウンロードした高精度DEMを、そのまま遺跡立体図作成に使用することができる。それら以外の府県ではCS立体図を作成・公開しているにもかかわらず、点群データのみの公開に留まっており、GISで利用する際には高精度DEMを新たに作成する必要がある。

 DEMよりもDSM、DEM画像よりも点群データのほうが加工度が低く、より「生」もしくは「生」に近いため、測定時の記録としての価値は一般的に高い。また、本質的にユニークID、X、Y、Zの数値である点群データの方が、軽容量かつ汎用性が高く保存も含めた多様な利用シーンへの適応という点では有効であることは事実である。

 しかし、点群データを整備公開する多くの道府県でCS立体図が作られている現状を鑑みるならば、CS立体図作成時に必要となる高精度DEMの公開が、多様な利用シーンへの適合だけではなく、利用ケースの増加へとつながるのではないか、と考えられる。

【参考文献】

永惠裕和2023「遺跡の地形判読・記録のための、遺跡立体図・縄張図の作成」『奈良文化財研究所研究報告40:遺跡踏査とデジタル技術』


引用-システム内 :
引用-システム外 :
Cultural data online report map :
NAID :
都道府県 : 宮城県 東京都 神奈川県 静岡県 愛知県 京都府 大阪府 和歌山県 広島県 高知県
時代 :
文化財種別 : 埋蔵文化財
史跡・遺跡種別 : 城館 古墳
遺物(材質分類) :
学問種別 : 考古学
テーマ : 技法・技術 活用手法 調査技術
キーワード日 : 遺跡立体図 城館跡 東京都デジタルツイン VIRTUAL SHIZUOKA 広島県DoboX 国土地理院 高知県「数値標高モデル(DEM)0.5m」 神奈川県3次元点群データ 3次元点群データ デジタルツイン
キーワード英 :
データ権利者 : 永惠 裕和
データ権利区分 : クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。
総覧登録日 : 2025-03-07
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