イラストレーターから QGIS へのデータ移行手法の一例

林 正樹 ( 富田林市教育委員会 )

An Approach to Data Transfer from Adobe Illustrator to QGIS

Hayashi Masaki ( Tondabayashi City Board of education )
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データ登録機関 : 奈良文化財研究所 - 奈良県
詳細ページ表示回数 : 631
林 正樹 2025 「イラストレーターから QGIS へのデータ移行手法の一例」 『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用』 XR・LiDAR・3D・デジタルアーカイブ・知的財産権 https://sitereports.nabunken.go.jp/online-library/report/60
 本手法は、Adobe Illustratorで作成した図面をQGISに移行する一例である。対象は、平面直角座標系のXY座標および縮尺が明示されているデータに限定される。作業手順は、まずXY座標の交点をIllustratorの原点に重ね、これを等倍でDXF出力する。その後、QGIS上で交点が正しく座標位置に合うように移動させるという、極めて簡易な方法である。各調査組織で蓄積された膨大なIllustratorデータを、特別なソフトウェアなしで容易に地理空間上へ集成でき、調査担当者による検討・分析が一層高度化することが期待される。
目次

1.はじめに

 昨年の6号に掲載された武内(2024)「Illustratorで作成した遺跡地図や遺構図をGISデータ化する」では、adobe社のIllustratorで作成された図面を、有料プラグインを用いて地理情報システム(GIS)データ化する手法が紹介されました。本稿では、武内(2024)と同様の目的を共有しつつ、異なるアプローチによるGIS化の手法を紹介します。

 今回の手法は、埋蔵文化財行政でデファクトスタンダードになっているIllustratorとQGISのみを使用します。有料プラグインやCADソフトウェアは使用しません。主に対象とするIllustratorデータは、発掘調査報告書に掲載するためにデジタルトレースされた平面図や詳細図で、平面直角座標系のXY 座標と縮尺が分かっているものです。

 編集前のトレースデータだけでなく、PDF化された近年の報告書に掲載されたS=1/500や1/1000といった図についても、ベクターデータが残存していれば使用可能です。

  なお、筆者の作業環境は、Surface GO2、illustrator 2022(ver.26.0.2)、QGIS3.24を使用しています。


2.手法の概要

  以下がGIS化の大まかな作業工程になります。

 1. 正方位の図でXY軸の交点をつくる

 2. Illustratorの原点に交点を重ねる

 3. DXF形式で等倍に出力する

 4. QGISで交点の座標まで図全体を移動する

 下記の概要図にも示しましたが、手法の趣旨・理屈自体は非常に簡単です。GISの得意・不得意を問わず、ソフトウェアの操作はともかく、ご理解いただけるものと考えています。


                      図1 概要図


3.具体的な作業手順

  前述した作業工程に従って、作業を進めていきましょう。







4.次の段階へ

 もっと良い方法をご存じの方はいらっしゃると思いますが、ひとまずこれで各自治体に大量に蓄積されてきたIllustratorの図面データを、特殊なソフトウェアを使用することなく、地理空間上で集成できるようになりました。

 GIS化することで、位置情報が付加できることに加え、Illustratorではできなかった図に複数属性を持たせることも可能になります。遺構台帳や遺物台帳も、平面図と結合することで遺構の属性として活用できます。図面集成と属性付加により、調査担当者の検討・解析がより深化していくものと期待します。


       図2 遺構上端をポリゴン化し、遺構番号、遺構の性格、出土遺物の属性を加えた図 


 また、武内(2024)の後半で紹介されていることですが、全国遺跡報告総覧に掲載されている近年発行の報告書PDFは入稿データや版下データがアップロードされており、ベクターデータが生きている可能性が高いです。

 ということは、地方自治体や調査機関に属さなくとも、今回の手法を用いてIllustratorで開いてDXFで出力することで、膨大なGISデータとして利用可能になります。クリッピングマスクの解除や、アピアランスでレイヤ再分類という手間はかかりますが、S=1/500やS=1/1000といった図でも使用できます。

 特に学生が練習用データとして用いることで、就職前にGISの操作と解析を習得することが可能になると思っていますので、就職後の活躍が楽しみです。座標に混乱して途中で脱落するといけませんので、図3に座標系を整理しました。ご参考まで。

図3 座標の整理


5.さいごに

 筆者がデスクトップGISでの調査情報・図面集成を初めて見たのは、10年ほど前に奈良県技師会で見学に訪れた大阪市文化財協会の上町台地科研ArcGISでした(市川(2013)「考古学における情報共有の試み」に詳しい)。それからまもなく富田林市に入庁し、そのすぐ翌年に庁内の測量研修でQGISを紹介され、嬉々として事務用PCにインストールしてもらいました。かつて憧れた上町台地科研GISに、技術的にはQGISで十分手が届く段階にきているとは思うものの、筆者の集成・解析作業は一向に進んでいません。

 QGISを使い始めたのは比較的古いほうですが、長いこと報告書の位置図出力程度しか使っておらず、いろいろ試し始めたのはここ数年です。学会に参加していませんし、考古学分野のQGISユーザとは直接の面識はほぼありませんが、SNSを通じていろいろご教示いただいています。今回の手法はXでの情報交換を通じて思いついた力技です。おつきあいをいただいている皆さまに感謝を申し上げます。

 また、浅野和仁様(朝日航洋株式会社)、中村良介様(産業技術総合研究所)、高田祐一様(奈良文化財研究所)、柴田将幹様(田原本町教育委員会)には草稿段階でご拝読いただき、ご意見・ご指摘を賜りましたことお礼を申し上げます。


参考文献

市川 創(2013)「考古学における情報共有の試み」、『第 22 回 地理情報システム学会学術研究発表大会講演論文集』

武内 樹治(2024)「Illustratorで作成した遺跡地図や遺構図をGISデータ化する」、『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用』6 号

j hoshi(2022)「QGIS3でDXF形式のCADデータをジオリファレンスする」youtube

引用-システム内 :
引用-システム外 :
Cultural data online report map :
林 正樹「イラストレーターからQGIS へのデータ移行手法の一例」『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用7』 - 図1 概要図
林 正樹「イラストレーターからQGIS へのデータ移行手法の一例」『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用7』 - マニュアル_ページ_1
林 正樹「イラストレーターからQGIS へのデータ移行手法の一例」『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用7』 - マニュアル_ページ_2
林 正樹「イラストレーターからQGIS へのデータ移行手法の一例」『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用7』 - マニュアル_ページ_3
林 正樹「イラストレーターからQGIS へのデータ移行手法の一例」『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用7』 - 図2 遺構上端をポリゴン化し、遺構番号、遺構の性格、出土遺物の属性を加えた図
林 正樹「イラストレーターからQGIS へのデータ移行手法の一例」『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用7』 - 図3 座標の整理
NAID :
都道府県 :
時代 :
文化財種別 :
史跡・遺跡種別 :
遺物(材質分類) :
学問種別 :
テーマ : 調査技術
キーワード日 : Illustrator QGIS Geoarchaeology Spatial Data integration
キーワード英 : Illustrator QGIS Geoarchaeology Spatial Data integration
データ権利者 : 林 正樹
データ権利区分 : クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。
総覧登録日 : 2025-02-06
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