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デジタル技術による文化財情報の記録と利活用 > 6 号 > 埼玉県ふじみ野市遺跡文化財情報サイトの運用について

埼玉県ふじみ野市遺跡文化財情報サイトの運用について

鍋島 直久 ( ふじみ野市教育委員会 ) 岡崎 裕子 ( ふじみ野市教育委員会 )

About the operation of the Fujimino City Ruins and Cultural Property Information Site in Saitama Prefecture

Nabeshima Naohisa ( Fujimino City Board of Education ) Okazaki Yuko ( Fujimino City Board of Education )
鍋島 直久, 岡崎 裕子 2024 「埼玉県ふじみ野市遺跡文化財情報サイトの運用について」 『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用』 遺跡地図・3D・GIS・モバイルスキャン・デジタルアーカイブ・文化財防災 https://sitereports.nabunken.go.jp/online-library/report/4
 埼玉県ふじみ野市遺跡文化財情報サイトは、平成13年にGISを利用した「大井町遺跡情報管理システム」として、発掘調査情報の管理と公開、埋蔵文化財保護行政への有効活用を主な目的として運用を開始した。遺跡情報(56箇所の埋蔵文化財包蔵地発掘調査データ等)、指定文化財(63件)、石造物(303件)、神社仏閣(46件)、文化財説明板(60件)を掲載する。令和4年度アクセス件数90,750件、利用件数11,840件は窓口問合せ件数の約7倍である。これまでシステムの不具合や利用者、市民からの苦情等はない。
今後は文化財資料と記録データを合わせた利活用をはかり、住民サービスの向上をさらに進める。

1はじめに

(1)ふじみ野市の概要

 ふじみ野市は、首都圏30㎞の埼玉県南西部に位置する。2005(平成17)年10月1日に、旧上福岡市と旧大井町が合併して誕生した。面積14.64㎢、人口114,155人(令和5年10月1日現在)である。

 ふじみ野市は近世以降に、川越街道(大井宿)や新河岸川舟運(福岡河岸)、東上鉄道(現東武東上線の上福岡駅)などの交通網が発達した交通の要衝地である。明治・大正期頃までは畑作と稲作を中心とする農村地帯だった。現在も川越街道(国道254号線)、国道254号線バイパス、東武東上線、関越自動車道といった、交通の幹線が市内を走っている。

 ふじみ野市を地形的にみると、武蔵野台地と荒川低地に大きく分かれ、西側地域は武蔵野台地縁辺部に、東側地域は台地縁辺部から荒川低地の沖積地に広がる。

 埋蔵文化財包蔵地は武蔵野台地縁辺部や台地上を流れる小河川沿い、低地の自然堤防上等を中心に位置する。

 市内の開発は、台地上の交通の幹線沿いや、東武東上線上福岡駅、ふじみ野駅周辺を中心に進み、現在では郊外にも広がっている。近年は、昭和30年代から40年代に開発された地域の再開発も増えている。

(2)ふじみ野市の埋蔵文化財包蔵地の開発状況と保護体制

 文化庁の発掘届出等件数の推移を全国的にみると、平成から令和にかけてバブル経済崩壊やリーマンショック等の経済状況の影響を受けつつも、右肩上がりに増えている。ふじみ野市域においても似たような傾向を示している。

 同様に文化庁の調べによる市町村の埋蔵文化財専門職員数の推移を見ると、平成15年をピークに減少傾向をみせており、ふじみ野市においても本庁での埋蔵文化財専門職員数は、平成17年の市町合併以降減少傾向にある。文化財保護行政の組織体制の問題も、遺跡文化財情報サイトの導入の一つの要因であった。

 

表1 ふじみ野市埋蔵文化財調査件数等の推移

2埼玉県ふじみ野市遺跡文化財情報サイト

(1)システム開発の目的と経過

 ふじみ野市遺跡文化財情報サイトは、平成13年に旧大井町の、「大井町遺跡情報管理システム」として運用を開始した。当初の目的は、遺跡分布図及び遺跡報告書資料並びに図面資料を利用し、確認調査及び埋蔵文化財発掘調査の情報管理を効率化するとともに、埋蔵文化財に関する情報を有効に活用し、埋蔵文化財保護行政に役立て、将来的に埋蔵文化財包蔵地周知の徹底を図るためWeb上で情報提供を行うことにより、住民サービスの向上を図ることであった。その背景としては、旧大井町で開発行為に伴う埋蔵文化財発掘調査件数の増加により、埋蔵文化財包蔵地の照会件数が増加し、埋蔵文化財担当職員が発掘調査に対応するため不在となり、一般の職員が窓口等での照会対応を行うことが増えた。迅速かつ正確に埋蔵文化財の照会対応にあたるため、発掘調査状況をデジタルデータ化し、誰もが窓口等で対応できる事を目的とした。当初はWeb上でデータ等の公開は行っておらず、担当課内部での運用であった。

 平成17年の市町合併後、平成22年に旧上福岡市域の埋蔵文化財包蔵地データを追加し、ホームページ上での一般市民等への公開を開始した。その後、平成24・25年に市内の一般文化財のデ―タを追加したシステム構築を行い、ふじみ野市遺跡文化財情報サイトとして運用を開始し現在に至っている。指定文化財等の文化財情報の追加は、合併により市内の一般文化財を公開する冊子等の刊行物の作成も検討していた時期で、より多くの人にふじみ野市の歴史・文化財を周知するため、遺跡情報サイトへのデータ追加・公開を行った。システムの構築に合わせて、平成24年には紙の文化財地図作成、平成26年には紙の文化財ガイドマップの作成を行った。また、事業を進めるにあたっては、「埼玉県緊急雇用創出基金市町村事業費補助金」を活用できた点も大きな要因であった。

(2)システムの特徴と概要

 本市の遺跡文化財情報サイトの特徴としては、業務管理の簡略化と一般市民等への使いやすさを目指した、以下の3点が上げられる。

・遺跡情報(埋蔵文化財の発掘調査データ等)と市指定文化財情報等を、GIS(地理情報システム)を利用して公開している。

・遺跡文化財情報管理システムとWeb上のホームページの公開用サイトで閲覧できるデータを、個人情報の関係でシステムを運用分けしている。

・地図上に試掘調査、本調査、保存(盛土保存)等で色分けした調査箇所を掲載し、調査地点をクリックすると全測図・写真等が表示される。また、調査報告書が刊行されている箇所は報告書の当該箇所も表示される。本サイトは所在地による検索だけでなく、遺跡名や時代での検索が可能である。また、1遺跡内での時代別検索も可能である。

遺跡文化財情報サイトでは、都市計画図及び住宅地図並びに各種地形図等を使用して背景図を作成し、市内文化財・遺跡関係資料等をもとに、GIS(地理情報システム)を利用して、文化財情報管理システムを構築している。

 広域背景図として、国土地理院発行の数値地図25,000、電子国土VER4、背景図は1/2,500のDM都市計画図地図データとDM地番図地図データ(以下DMデータとする)、住宅地図ゼンリン刊行のデジタルデータ、市で管理する航空写真データをPC-Mapping で処理し使用している。DMデータの家屋形状と住宅地図デジタルデータの家屋名称が大きくずれるものに関しては、家屋名称の位置修正を行い、システムを構築する上で支障のないようにしている。

 Web上のホームページから閲覧できる内容は、遺跡情報(56箇所の埋蔵文化財包蔵地の発掘調査報告書掲載データ等)、指定文化財(63件)、石造物(303件)、神社仏閣(46件)、文化財説明板(60件)に関する情報である。

 管理システムではこれらの基礎情報の他に、発掘調査報告書、市町史等のPDFデータを閲覧できる。また、発掘届や発掘通知、包蔵地等の変更等に関する書類の作成機能も備え、事務的な業務・作業も行える。

(3)運用状況

 当市の遺跡文化財情報サイトでは、周知の埋蔵文化財包蔵地の範囲以外に、これまでの発掘調査履歴を公開している。利用者は該当地の包蔵地の有無だけでなく、周辺の調査履歴も閲覧することができる。公開については、毎年刊行している『ふじみ野市埋蔵文化財調査報告』(以下報告書)に基づいて更新を行っている。年度末に刊行した報告書のPDFデータと調査区域図のAIデータ、調査時の写真データを委託業者に提出し更新している。現在、基本的に調査実施の翌年度に報告書を刊行しているため、調査の詳細な情報の公開については調査の翌々年度となる。そのため、前述のデータとは別に前年度の調査地点と範囲のデータのみを委託業者に提出、更新してもらうことで調査の有無については大きくタイムラグが起きないように対応しているが、最新の情報については教育委員会に確認していただく旨を記載している。報告書の掲載の際の個人情報については、掲載時に該当地点の調査内容のみを公開するように留意している。現在、遺跡文化財情報サイトの公開から約13年が経過するが、システムの不具合や利用者、市民からの苦情については特に発生していない。


図1 ふじみ野市遺跡情報サイト http://fujiminobunkazai.jp/remains

 第2表及び第3表は令和元年度以降の年間のアクセス数と利用件数の推移である。ここでいうアクセス数とは、本サイトのすべてのページに対する閲覧数、利用件数は利用したユーザー件数を指す。年間で比較すると、令和元年度以降令和3年度にかけて増加、令和4年度については横ばいである。増加の理由のひとつとして、令和2年以降コロナ禍の影響が考えられよう。第6表に窓口における埋蔵文化財包蔵地の照会件数の推移を掲載したが、令和元年度から3年度はわずかに減少しているがほぼ横ばいで、令和4年度は比較的コロナ禍からの脱出の兆しが見え、窓口での対応が増えている。


表2 過去4年間のアクセス数             表3 過去4年間の利用件数

 また、令和4年度の月別のアクセス数と利用件数の推移を第4表及び第5表に示した。令和4年度のアクセス件数は90,750件、年間利用件数は11,840件、月平均利用件数は約980件を数える。対して窓口での照会件数(電話及びファクスでの問い合わせを含む)は1,651件、月平均は約130件強である。アクセス数と窓口対応件数の単純な比較では、窓口の問合せ件数の約7倍の利用件数となっている。利用件数のすべてが埋蔵文化財包蔵地の確認ではないと考えられるが、窓口対応の一助となっていることは間違いない。


表4 令和4年度アクセス数             表5 令和4年度利用件数

  

表6 窓口の埋蔵文化財包蔵地照会件数

3課題と今後の展開

 埋蔵文化財包蔵地の確認で、事前に遺跡文化財情報サイトを確認して窓口等に来られる方も多くみられる。また、表2・3のふじみ野市遺跡文化財情報サイトの利用状況等からも、埋蔵文化財包蔵地に関する周知が進んでいるものと考えられる。ふじみ野市遺跡文化財情報サイトの前身である大井町遺跡情報管理システムの導入から、現在のシステムの運用に携わってきた、埋蔵文化財担当職員諸氏の先見性と努力が実を結んでいることの証である。

 これまでは、出土品と同様に増え続ける記録データ等の管理について、情報を公開・提供を行うことにより、住民サービスの向上を図ることが目的であったが、さらに文化財資料と記録データも含め、一歩進んだ利活用を図ることが今後の課題である。

 今後の展開としては、市内の学校におけるICT教育やGIGAスクール構想により小中学生にタブレットが1人1台配備されている。学校教育で郷土の文化や歴史を学習するにあたり、遺跡文化財情報サイトのデジタルデータを組み合わせた、出前授業等の取り組みを進めることも検討が必要である。また、資料館事業の文化財めぐり等で、スマートフォン等を用いた遺跡文化財情報サイトのデジタルデータ活用等の連携も今後の課題である。さらにXR「X Reality(クロスリアリティ)」を加えた遺跡情報サイト活用の検討等も今後行っていきたい。

【謝辞】

 本稿の執筆にあたりご協力をいただきました、野口淳様(公立小松大学次世代考古学研究センター 特任准教授、産業技術総合研究所 外来研究員)、藤江保明様(株式会社中野技術)に感謝いたします。

 



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都道府県 : 埼玉県
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キーワード : 遺跡情報システム GIS 文化財
データ権利者 : 鍋島直久 岡崎裕子
総覧登録日 : 2024-03-21
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