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デジタル技術による文化財情報の記録と利活用 > 6 号 > PEAKIT画像を活用した土器実測図と遺物図版 ~岩手県山田町浜川目沢田Ⅰ遺跡の事例~

PEAKIT画像を活用した土器実測図と遺物図版 ~岩手県山田町浜川目沢田Ⅰ遺跡の事例~

須原 拓 ( (公財)岩手県文化振興事業団埋蔵文化財調査センター )

Measured drawing of Jomon pottery,fieldwork report using PEAKIT:case of HamakawamesawadaⅠsite.

Taku Suhara ( Iwate prefectural center for archaeological research )
須原 拓 2024 「PEAKIT画像を活用した土器実測図と遺物図版 ~岩手県山田町浜川目沢田Ⅰ遺跡の事例~」 『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用』 遺跡地図・3D・GIS・モバイルスキャン・デジタルアーカイブ・文化財防災 https://sitereports.nabunken.go.jp/online-library/report/3
 PEAKIT画像を活用し、室内整理作業の効率化を計った事例として、岩手県浜川目沢田Ⅰ遺跡での取り組みを紹介する。ここでは700点を超える縄文土器についてPEAKIT画像を基に実測図を作成し、不足する整理期間と人員数を補うのに役立てた。
 また対象が縄文時代中期から晩期までの土器であったことから、器種、器形、文様など多種多様な縄文土器のPEAKIT画像を作成し、実測図として報告書に掲載することができた。これらを基に、本稿後半ではPEAKIT画像のもつ表現力や正確性などを紹介し、PEAKIT画像の「実測図としての有用性」ついて考えを述べる。

1.はじめに 

 筆者は平成26~28年度に浜川目沢田Ⅰ遺跡の室内整理を担当した際、縄文時代中期から晩期の土器701点についてPEAKIT画像を活用し、土器実測図と遺物図版を作成した(註1)。筆者が所属する岩手県文化振興事業団埋蔵文化財センター(「当センター」)では、従来、遺物実測図は手書きによる線画か拓本であり、実測図にPEAKIT画像を活用するのは、この時が初めての試みであった。

 本稿では、大量のPEAKIT画像を実測図に活用した理由(経緯)、実測図や遺物図版にPEAKIT画像を活用する際の実施方法とそれらに要した労力(時間、人員数)、また作業を経て感じた、実測図としてPEAKIT画像を活用する意義や、その後の取り組みについて述べる。

2.PEAKIT画像を活用した理由(経緯)

 筆者が担当した浜川目沢田Ⅰ遺跡は、岩手県下閉伊郡山田町に所在する縄文時代の遺跡である。東日本大震災からの復興事業関連で、当センターが平成26年6月から12月に野外調査を実施し、その際、40ℓ相当のコンテナ箱で436箱分という大量の縄文土器が出土した。出土土器の時期は縄文前期から晩期までと多岐にわたり、なかでも中期から晩期の土器には完形やそれに近い状態のものが多い(第1図)。


第1図  浜川目沢田Ⅰ遺跡の縄文土器

 室内整理作業を担当するにあたり、筆者はこの土器群を網羅するには、多くの土器を報告書に掲載し、また内容を正確に提示できる土器実測図が必要になると考えた。

 しかし与えられた室内整理期間は、平成26年11月1日から平成29年3月31日の2年5ヶ月で、遺物量に対して余裕のある期間とは言いがたく、また当センターはこの頃、東日本大震災からの復興事業関連で調査件数が増大し、調査員、室内整理員共々、人員不足に陥っていた。そのため遺物の実測作業にかけられる時間や人員は非常に限られ、むしろ報告書へ掲載する土器点数を大幅に減らさなければ、期間内に整理作業を完了できない状況にあった。

 このような状況を打破するため筆者は、縄文土器のPEAKIT画像に断面図や補助線を追加した「実測図」であれば、土器1点あたりの作業時間が短縮され、結果、掲載点数を減らさずに限られた期間内で大量の土器を実測できると考えた。

 また浜川目沢田Ⅰ遺跡の土器群は時期や器種が多様なため、各土器のもつ属性も様々である。この属性を判読者に誤解なく理解してもらうためには、実測図は正確なだけでなく、均一性のある表現で書く必要がある。この点についても、PEAKIT画像は器形再現や文様等の表現に均一性があり、また非常に分かりやすいため、従来の手書きによる実測図よりもPEAKIT画像の方が、浜川目沢田Ⅰ遺跡の土器群を説明するのに有効なのではないかと考えるようになった。

 このように、足りない時間と人員を補うための「費用対効果」と、実測図としての「表現方法の利点」から、浜川目沢田Ⅰ遺跡では701点という大量の縄文土器について、PEAKIT画像を活用した実測図を作成する試みを行うことにした。

3.実施方法とかかった労力

(1) PEAKIT画像作成用の写真撮影

 PEAKIT画像の作成は、平成28年1月から株式会社ラング(「ラング」)に業務委託の形でお願いした。その際、作成用の写真を筆者(1名)が職場内で撮影し、その写真データをラングに送りPEAKIT画像を作成してもらう方法を採用した(註2)。この方法には土器を所外へ移動させずに済むという大きなメリットがあり、効率が良かった。また土器が職場内にあるので遺物観察などの別作業も行えた。なおデメリットは自分で撮影する手間であるが、後述の通り、大きな問題ではなかった。

 使用したカメラはOLYMPUS製「Tough TG-3」とCanon製「IXY 610F」で、主にTG-3を使用した。どちらもコンパクトデジカメであるが、一眼レフカメラと比べ、1カットあたりの容量が2~3MBと小さく、またカメラに手ブレ防止機能が付いているなどの利点がある。なお写真の画素数は低いが、ラングからはPEAKIT画像の作成には問題ないと助言をもらっている。また撮影に必要な撮影台やマーカー台紙はラングから借りた。

 写真撮影の手順は、ラングのホームページで公開されている方法(註3)で行っている。なお破片資料については、撮影しやすい状態に土器を設置して撮影し、土器の「傾き」等については、後日、ラングに調整してもらった。また写真データ(JPEG形式)は撮影した日のうちに、職場のパソコンからdropbox経由でラングに送っている。

 撮影時間は土器1点につき平均15~20分で、土器5点分を連続で撮影しても2時間弱で済み、筆者が日々の業務の合間に撮影を行っても支障を感じない程度である。そして1日4~6点分を週5日ペースで撮影し、平成28年1月上旬から10月上旬までに土器701点分の撮影を完了した(註4)。

(2) PEAKIT画像作成と、その点検

 ラングによって作成されたPEAKIT画像(TIFF形式)はdropbox経由で筆者の元に届き、そのPEAKIT画像を原寸大にプリントアウトし、実物(土器)と比較しながら大きさや文様の鮮明さなどを点検した。そして修正が必要な場合は、プリントアウトしたPEAKIT図面に赤字、赤線で指示書きし、それをスキャンしたPDFデータをdropbox経由でラングに送って、修正してもらう。このやり取りをPEAKIT画像(土器)ごとに、完成するまで続けた。

 PEAKIT画像作成(ラング)とその点検作業(筆者)は平成28年1月中旬から始め、11月下旬には完了した。これらの作業は写真撮影と並行して行っており、したがって写真撮影が終了した約1ヶ月後にはPEAKIT画像作成も完了している。こうして実測図の「元図」となるPEAKIT画像701点分が、約11ヶ月で出来上がった。

(3) 断面実測

 断面図については、隆帯や突起等、また把手の形状など追加したい断面情報がある場合が多かったので、手書きで実測した。出来上がった断面図は職場のスキャナーを使い、解像度600dpi程度でスキャンし、Illustratorでトレースした。

 実測図としては、作成済みのPEAKIT画像が正面図に相当し、すでに出来上がっていることから、自前で行う作業はこの断面実測のみである。室内整理員3名とオペレーター1名で、平成28年8月上旬から約5ヶ月という短期間で作業は完了した。

(4) PEAKIT画像と断面図の合成、遺物図版編集

 PEAKIT画像とデジタルトレースした断面図とは、Illustrator上で合成させ「土器実測図」を完成させる(第2図上)。この作業はオペレーター1名が、断面図をトレースする際に合わせて行った。

 ちなみにPEAKIT画像の合成は、データを軽くするためにリンクで配置している。報告書の入稿後、印刷業者が印刷用にPEAKIT画像の濃度やコントラストを再調整しており、リンクで配置したおかげで、その調整を容易に実測図へ反映することができた。

 遺物図版編集も基本的に方法は同じで、Illustratorで各ページのファイルを作成し、図版枠を設定して、土器実測図を配置した(第2図下)。

 この編集作業が必要な遺物図版は169ページに及んだが、調査員の指示のもと、オペレーター1名が作業し、約1ヶ月で編集を完了している。

4.PEAKIT画像を活用した場合の作業の迅速化(費用対効果)

 以上の工程でPEAKIT画像を作成し、土器実測図や遺物図版へと活用した。土器実測については、写真撮影とPEAKIT画像作成を除けば、当センターで行った作業は実質、断面実測とそのトレースのみのため、対象点数が701点と大量であっても、約5ヶ月という短期間で完了し、作業期間や人員数を節約することができた。

 なおPEAKIT画像を活用しない場合の土器実測は、従来通りの手書きか拓本(+断面実測)で行っているが、それらについて、実測した点数、要した人員数、期間を比較したものが第3図上である。これをみて分かる通り、PEAKIT画像を活用した実測は、人員数(室内整理員数)は他の2つの実測方法よりも少なく、また期間は手書き実測よりも短かった。一方で、手書き実測はPEAKIT画像を活用する実測よりも150点分以上少ないが、人員数、期間共にPEAKIT画像を活用する場合より多くなっている(註5)。この点からみてもPEAKIT画像を活用しなければ、実測作業にはもっと多くの期間を必要としたことが分かる。

 浜川目沢田Ⅰ遺跡では、縄文土器が時期、器種共に多種多様であったため、接合と復元(石膏入れ)作業に多くの時間を費やし、これらの作業が完了する頃には整理期間は約8ヶ月しか残っていなかった(第3図下)。他の作業との兼ね合いから、実測作業には7ヶ月程度しかかけられない状況の上、当センターには人員数を増やす余裕も無かった。掲載点数は3105点で、通常ではこの点数の実測とトレース作業を7ヶ月で完了するのはかなり厳しい。しかし700点以上の土器実測にPEAKIT画像を活用したことで、作業時間を大幅に節約でき、その後の作業も含め期間内に完了することができた。

 このようにPEAKIT画像の活用は、不足する人員数や期間を補うのに役立った。したがって委託費用は必要だが、PEAKIT画像を活用したことによる費用対効果は大きかったと考えており、また期間に合わせるために掲載点数を大幅に減らすことをせずに済んだことも利点であった。

5.PEAKIT画像の「土器実測図としての精度」について

 遺物の実測は手書きによるものが主流である。そのなかで、浜川目沢田Ⅰ遺跡では土器実測図にPEAKIT画像を活用することを試みたわけだが、このような試みは、当センターでもこの時が初めてであった。そこで筆者は、PEAKIT画像を実測図として活用するにあたり、手書きの実測図と同じ「情報」を読み取れることを「土器実測図としての精度」の最低水準とした。ここで言う「情報」とは土器のもつ属性を指し、特に器形、文様(要素)、文様の配置の3点について、筆者はPEAKIT画像を点検する際、これらが判読できるかどうかに重点を置いた。

 器形は、PEAKIT画像が三次元計測データを基に作成されていることから、細部に至るまで正確に再現されている。特に第4図3や第5図2のような特殊な形状の場合には実物(土器)と見た目の印象に違和感がなく、土器を説明する時に大きく役立った。また第4図3~5や第5図1の把手や突起のような立体的な形状は濃淡やコントラストで表現されるため、線画による手書き実測よりも分かりやすく、図から誤解を招く心配が少ない。これは浅鉢や香炉形土器、注口土器(第5図4、第6図1、2、4)などの器種で顕著であると感じた。また第5図3は口径43cm、器高44cmの大型の土器で、しかも口縁部が5単位の波状を呈する。手書きで実測する際は、大きな労力を要し、また手書きによって生じる歪みにも気を遣う。しかしPEAKIT画像を見る限り、歪みなく正確に器形が表現でき、また背後の大きな波状口縁も再現されている。

 文様は、隆帯や沈線などの文様要素ごとで、色調の濃淡やコントラストが異なるため判別しやすく、また文様同士の切り合い関係も読み取ることが可能である(例えば第4図1、2)。また縄文原体では、大きいものや施文の深いものは種類まで明瞭に判別でき、図面を縮小しても読み取れるものも多く、その場合、拓本よりも分かりやすい(第4図2、第5図1)。これは縄文原体押圧文(第4図5)や羽状縄文(第5図3)でも同様である。ただ晩期の土器等で、施文が浅い縄文原体は不鮮明なことがあった(第6図1、3)。その場合は観察表の記載で補っている。なおPEAKIT画像による文様の表現は、土器の時期や器種等に関係なく均一的であり、実測者や調査員によって表現方法が異なることが多々ある手書き実測図のように、情報の判読間違いの心配が無いのも大きな利点であろう。

 文様の配置は、縄文土器にとって重要な情報であり(例えば隆帯によって描かれた意匠(第5図3)や器面全体に展開する雲形文(第6図1)など)、正確に表現する必要がある。PEAKIT画像は三次元計測データを二次元化(オルソ図)しているため、文様配置が正確に再現されている。これが手書き実測の場合、土器が複雑な形状であるほど実測は難しく、実物(土器)と印象が変わってしまう実測図も少なくない。また土器の外形図に拓本を貼る実測方法でも、貼った拓本が文様の配置を正確に表していないことが多い。PEAKIT画像によって再現された文様の配置は、他の実測方法よりも正確性が担保され、資料としての有用性が高いと言える。

 このように、PEAKIT画像からは器形、文様、文様の配置といった土器のもつ属性が、従来の手書きの実測図と同等に判読できた。したがって筆者はPEAKIT画像を活用した実測図が従来の実測図と同等の精度をもった「実測図」であると判断し、報告書に掲載した。その上でPEAKIT画像には文様表現の均一性や、器形や文様配置の正確な再現など、他の実測方法にはない利点や資料としての有用性があると感じた。

6.その後、展望

 浜川目沢田Ⅰ遺跡ではPEAKIT画像を活用することで、不足する期間や人員数を補うことができた。またPEAKIT画像を活用した実測図は手書きの実測図と比べ遜色ない精度をもち、むしろ他の実測方法にはない利点や有用性があり、筆者が想定していた以上に、土器のもつ情報を提示できたと考えている。

 浜川目沢田Ⅰ遺跡の報告書刊行後、筆者は大船渡市内田貝塚でもPEAKIT画像を実測図に活用した(註6)。また当センターでは筆者以外にもPEAKIT画像を活用する事例が増え、なかには縄文前期の複雑な縄文原体を施文する土器片資料をPEAKIT画像で表現し、拓本の代わりに掲載する試み(註7)も見受けられる。

 また筆者は奥州市明神下遺跡で、器高が80cmを超える須恵器大甕のPEAKIT画像をラングに作成してもらい、実測図に活用した(註8)。この須恵器大甕は大きいだけではなく、器形自体が歪んでおり、手書き実測が困難であった。作成されたPEAKIT画像では器形のみならず、器面に残るタタキメも表現されている(第7図)。

 近年様々な指摘がある通り(註9)、PEAKIT画像には、さらなる活用方法があるのではないかと感じている。浜川目沢田Ⅰ遺跡での取り組みは、その過程での一例に過ぎない。PEAKIT画像は、作成するラングのみならず、活用する側も検証と検討を続け、可能性を広げていく必要がある。

【註】

(1)『岩手県文化振興事業団埋蔵文化財調査報告書第689集 浜川目沢田Ⅰ遺跡発掘調査報告書』2018 http://doi.org/10.24484/sitereports.21833

(2)現在のラングの「PPサービス」に近い方法である。

(3)ラングHP「考古学のためのSfM土器撮影システマティックマニュアル」参照。 http://www.lang-co.jp/corner20/pg68.html

(4)ただし撮影した写真に不足や不備も多かったので、補足撮影や再撮影が10月末まで続いた。

(5)ちなみに器形や文様が複雑で実測に手間がかかる土器は、概ねPEAKIT画像を活用して実測しており、手書き実測は比較的、簡単なものか、また外形のみ実測し、文様は拓本を貼り込む方法を採用したものが多い。

(6)『岩手県文化振興事業団埋蔵文化財調査報告書第707集 内田貝塚発掘調査報告書』2019 http://doi.org/10.24484/sitereports.54342

(7)『岩手県文化振興事業団埋蔵文化財調査報告書第699集 小田ノ沢遺跡発掘調査報告書』2019など http://doi.org/10.24484/sitereports.54315

(8)『岩手県文化振興事業団埋蔵文化財調査報告書第738集 明神下遺跡発掘調査報告書』2023 http://doi.org/10.24484/sitereports.131847

(9)例えば『季刊考古学』第140号では、諸氏から様々な指摘がある。


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都道府県 : 岩手県
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文化財種別 :
史跡・遺跡種別 :
遺物(材質分類) : 土器
学問種別 : 考古学
キーワード : 土器実測図 遺物図版 PEAKIT画像 費用対効果 土器実測図としての精度
データ権利者 : 須原 拓
総覧登録日 : 2024-03-21
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