国分寺市遺跡GISの構想と構築、現状と課題
Plan and construction of Kokubunji City Remains GIS current status and issues
はじめに
国分寺市は関東平野の一部武蔵野台地と言われる扇状地上で、東京都のほぼ中心に位置する。古多摩川の流路変遷に伴い、狭山丘陵から二子玉川にかけて国分寺崖線という特徴的な河岸段丘が形成され、多摩川支流の野川中上流域では段丘崖上に旧石器から縄文時代の遺跡群が展開している。西元町・泉町を中心とした史跡武蔵国分寺跡 附東山道武蔵路跡は国分寺崖線の上下面に広がり、この一体は市域でもっとも遺跡が集中するエリアである。
市では、年間にして届出・通知数は約200件強、照会数は約650件を数え、約15~20件の確認・発掘調査が実施されている。既往調査地点は1,000を優に超え、窓口ではこれらの情報の統合と公開が長年の大きな課題であった。そのような中、井澤邦夫市長(当時)が「用途地域、道路、公園、埋蔵文化財、防災情報等の情報をWEB上の電子地図で一元的に検索・閲覧できる地理情報システムの整備」をはじめとし、DXの強力な推進によって窓口サービスの利便性を向上することを、令和6年度の施政方針にて表明したことがGIS化の大きな転機となっている(国分寺市2024)。ここでは、令和7年8月時点での課題と今後への期待を速報的に報告する。
1 国分寺市遺跡地図とデータ整備
市のおける周知の埋蔵文化財包蔵地は、「遺跡地図」として紙の配布とともに市HP上で公開している。問い合わせの回答において、包蔵地内外や調査履歴の有無などは誰でも対応できるよう整備されてきたが、周辺の既往情報を整理して提示するためには慣れが必要である。さらに、包蔵地と遺跡の範囲が一致しないことは重要で、包蔵地範囲外である東山道武蔵路や玉川上水分水の推定ルート、包蔵地に隣接する旧鎌倉街道沿いの中世集落想定地、恋ヶ窪廃寺域などに加え、突如現れる防空壕やウドムロなどに存在に対しては、様々な段階で事業者の御協力と賜り調査を行った事例もある。しかし実際には、事前に窓口において図示しながら個別対応をすることはなかなか容易ではない。
先に述べた通り、市は令和7年度末に公開型・統合型GISを一般公開する予定であり、それに先立ち令和6年度にふるさと文化財課で周知の埋蔵文化財包蔵地、発掘調査区、遺構等の測量図をshapeファイルに変換するデータ整備委託を行った。
これまでの考古学情報の膨大な蓄積過程で、様々な課題も把握していた。まず、調査主体や記録方法が複数存在していたほか、日本測地系・世界測地系・局地座標の計4種類の測量が行われていた。このため、データ整備委託では、測量の評定を行うことができる業者の選定は必須であった。仕様としては、調査区、遺構の外形を面データ(ポリゴン)で入力し、時代・要素(地物)ごとにレイヤに分けた上で、各データをまとまりごとにグループ化(データ集約)をした。また、遺構が想定される延長には、未調査地上も推定線(ライン)を入力した。さらに単位ごとに、把握できている住所・遺構・遺物・時代等の属性を付与し、今後公開・非公開の設定を行っていく。ベースマップは東京都縮尺1/2,500地形図を使用し、入力する図は1/100で使用に耐えうる精度とした。成果品は、shapeファイルのほかDXFファイル等も含めた。
2 データ構築の課題と運用
委託が始まり、膨大な資料を担当と業者とで整理する中で発覚した最も大きな課題が、地図のずれである。ずれの方向は一定ではなく、何らかのエラーを除外しても、調査平面図が対象地から飛び出てしまう事例がいくつもあった。これには、国交省が設定した公共測量の作業における標準偏差と呼ばれる指標の制限値が関係するようである。すなわち、1/2500縮尺の場合、「標準偏差は、新規測量の場合には1.75m以内、修正測量の場合には2.50m以内」で、調査平面図とベースマップの乖離の一因はここにあることが想定された。ここまでの状況から、ずれの原因究明や正確性を探ることは困難であることから、ずれた調査地点もそのまま搭載する判断を行った。
そして、納品されたshapeファイルデータをQGISにてレイヤを整理し、レイヤごとに色を分けて表示させたのが第1図である。調査・遺構番号の精査を控え、増加する可能性はあるが、現時点で調査地1,141点、調査区1,962点、遺構7,483点を数える。

第1図 QGISでの発掘調査区・遺構表示例(国分寺市泉町付近)
こうしたGIS化により情報の閲覧性・検索性が格段に向上したことに加え、例えば縄文時代中期の竪穴建物など複数条件を設定した地物数、距離・面積の測定などの数値の獲得が可能となった。単なる検索システムにとどまらず、遺構分布(第2図)や密度分布図(第3図)のように考古学情報を分析できるデータとして、期待が高まる。

第2図 古墳時代以降の遺構出土分布図

第3図 古墳時代以降の遺構密度分布図
さらに、現在入力している発掘調査に加え、立会調査データを追加し、運用の可能性を探ってみた。
立会情報は、小面積で条件によっては精度が低い反面、圧倒的に母数が多いデータ群であり、旧地形や古環境の復元にもっとも適している。さらに、これまで調査事例がない、遺構が少ないと想定されている地域において、遺跡・遺構の片鱗をつかみ、事前の予測を立てることが可能であると考えられた。
作業としては、まず立会情報を入力している表から地点情報を抽出し、GISにて読み込み、点で表示させる。さらに、明確に識別できるキー層が確認された深さ情報を抽出し、深さごとに色と変えて三角形(TINメッシュデータ)にて表示させたものが第4図である。表示させている層は縄文時代の遺物包含層で、武蔵国分寺を選地する際の旧表土を表現しており、中枢伽藍と塔は標高が高い位置であることが読み取れる。
こうした立会情報の入力は、これまでの各種調査の情報を余すところなく反映していると言えるだとう。GISの採用によって、周知の埋蔵文化財包蔵地(場合によっては包蔵地外も)に対するあらゆる情報を集約することができるのである。

第4図 Ⅲ層深度分布図
また、調査情報以外にも、看板・工作物やインフラの位置をはじめ、整備や修繕、草刈りなど月もしくは年単位の経過、さらには苦情や不法投棄・落枝など行政対応の記録など、これまでテーマごとに作成していた地図へのマッピングをGISにて蓄積することを想定している。
おわりに
市の公開型GISは構築が進んでいる最中であるが、埋蔵文化財にかかる情報は現データの構築により飛躍的な成果をあげることができたと言える。今後運用を続けるなかで、情報の一元管理による業務の効率化だけではなく、考古学情報の分析が数字の把握によってさらに進展することが期待できる。一方で、今回のGIS化は文化財調査の一側面を切り取った作業であり、業務の中で情報管理のルーティン構築には至っていない。文化財の恒久的な永年記録のあり方を探りながら、GISを中心とした情報管理を目指していきたい。
参考文献
・高田祐一・武内樹治2021「刊行物およびGISによる遺跡地図の公開状況」
・武内樹治2024「埋蔵文化財調査ビッグデータの分析」『日本考古学』第58号 日本考古学協会
・野口淳2024「遺跡・埋蔵文化財包蔵地・遺跡地図―現状と課題・展望―」『日本考古学』第58号 日本考古学協会
・野口淳2024「遺跡地図GISの3D化:課題と展望」『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用6号』
・国土地理院HP 地理空間情報の平面位置正確度の評価(最終更新日:2024年12月26日)
https://www.gsi.go.jp/REPORT/JIHO/vol125-abst-07.html
・国分寺市HP ホーム > くらしの情報 > 都市整備・交通 > 都市計画・建築 > 埋蔵文化財包蔵地(最終更新日:令和7年1月1日)
https://www.city.kokubunji.tokyo.jp/kurashi/koutsuu/keikaku/1002361.html
