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遺跡地図公開の現状と文化財総覧WebGIS

高田 祐一 ( 奈良文化財研究所 )

Takata Yuichi ( Nara National Research Institute for Cultural Properties )
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データ登録機関 : 考古形態測定学研究会 - 東京都
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高田祐一 2025 「遺跡地図公開の現状と文化財総覧WebGIS」 『古代寺院3DGIS科研研究集会予稿集』 遺跡地図GISの現在地 https://sitereports.nabunken.go.jp/online-library/report/117
埋蔵文化財行政のデジタル化が急務となっている。周知の埋蔵文化財包蔵地数は約47万2千箇所と増加し、今後も増加が予想される。文化財保護法で「周知の徹底」が規定されているが、デジタル時代に合わせた周知が必要である。現在の遺跡地図の多くはPDF形式で、GISデータとして活用できない。機械可読なGISデータへの変換が必要である。奈良文化財研究所が2021年に公開した文化財総覧WebGISは、約68万件の文化財データを地理情報と結び付けて検索・閲覧できるシステムで、地域の文化財再発見、教育活用、学術研究基盤としての意義を持つ。
主な機能は条件検索、背景地図との重ね合わせ、報告書との連携などがある。課題として遺跡地図をベースとした範囲データの陳腐化があり、最新データへの入れ替えを進めている。膨大な文化財情報を有機的に紐づけるため、Monument(遺跡)-Event(調査)-Report(報告書)の体系化が重要である。今後は画像地図からGISデータへの移行を加速し、全国的な遺跡地図GIS化の進展が期待される。
目次

はじめに

デジタル社会の進展は、単なる対象物のデジタル化にとどまらず、業務プロセスそのものの変革をもたらしている。しかし埋蔵文化財行政および考古学分野においては、デジタル化の進捗に地域間・組織間で顕著な格差が生じており、この状況は行政サービスのあり方や学術研究の発展にとって看過できない課題となっている。

埋蔵文化財分野もまた社会を構成する重要な一部門である以上、デジタル化への対応の遅れは、社会との乖離を深め、分野そのものの存在意義を問われかねない。特に、位置情報を基盤とする埋蔵文化財情報において、GISデータ化は避けて通れない課題である。

本稿では、埋蔵文化財行政の基盤となる遺跡地図のデジタル化と、その活用方法について、文化財総覧WebGISの取り組みを中心に検討し、デジタル時代における埋蔵文化財情報の公開・活用の可能性を検討する。

遺跡地図とは

周知の埋蔵文化財包蔵地の数

文化庁では、4~5年に一度周知の埋蔵文化財包蔵地の数を把握している。周知の埋蔵文化財包蔵地数は、昭和37年の約13万8千箇所から、令和3年には約47万2千箇所へと、59年間で約33万4千件増加し、3.4倍に増加している。

この増加傾向は今後も続くと予想される。その要因として、第一に対象となる時代や文化財の範囲が拡大していることが挙げられる。戦争遺跡(軍事遺跡)、水中遺跡、近代化遺産など新たに増加していくだろう。第二に、土地開発の進展により、これまで未確認だった遺跡が次々と発見されている。経済活動のあるかぎり土地開発は継続するだろう。第三に、レーザ計測による点群データなど、新たな技術の導入により、従来は発見困難だった遺跡の把握が可能となっている。

デジタル時代の周知

周知の埋蔵文化財包蔵地を調査以外の目的で発掘する場合には、文化財保護法第93条・第94条に基づく事前の届出・通知が必要である。また、同法第95条では「国及び地方公共団体は、周知の埋蔵文化財包蔵地について、資料の整備その他その周知の徹底を図るために必要な措置の実施に努めなければならない」と規定されている。

周知の埋蔵文化財包蔵地の範囲を示す資料が遺跡地図である。この遺跡地図は、土地に対しある種の規制を設けるものでもあるため、その範囲が重要となる。埋蔵文化財行政の高次化・効率化・公正化を図っていくにも遺跡地図の高精度化が重要テーマとなる。関係者においては周知のとおりである。

重要な点は「周知の徹底」や「必要な措置の実施」が具体的に何を指すのか、法律上明確に定められていないことに注意する必要がある。各機関が時代や地域の実情に応じた対応でベストを尽くしている状況といえる。ただ時代や外部環境が変われば手段も変わる。そこで確認したいことは、デジタル時代における「周知の徹底」、そのための「必要な措置の実施」とは何か、ということである。

不動産取引時の重要事項説明

参考事例としてハザードマップがある。土砂災害防止法(土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律、2001年施行)は、「土砂災害から国民の生命を守るため、土砂災害のおそれのある区域について危険の周知、警戒避難態勢の整備、住宅等の新規立地の抑制、既存住宅の移転促進等のソフト対策を推進しようとするもの」である(1)。土砂災害防止法第八条においては「必要な事項を住民等に周知させるため、これらの事項を記載した印刷物の配布その他の必要な措置を講じなければならない。」とされる。さらに、国土交通省砂防部による「土砂災害警戒避難ガイドライン」(2)では、ハザードマップのホームページ掲載、公共施設等の掲示板活用、各戸配布、回覧板、新聞折り込みなどを挙げている。

不動産取引時の重要事項説明では、「都市計画法、建築基準法以外の法令に基づく制限」として、文化財保護法、土砂災害防止法がある(画像 https://sitereports.nabunken.go.jp/ja/cultural-data-repository/17 データ名称 重要事項説明-都市計画法、建築基準法以外の法令に基づく制限)。ハザードマップは生命にかかわるため、考慮が必要であるが、ともに不動産取引時に契約判断の適正化を担保するためにも情報にアクセスできる環境が重要であろう。

図 「土砂災害警戒避難ガイドライン」-周知の方法


図「土砂災害警戒避難ガイドライン」-ハザードマップの周知と活用方法

遺跡地図=GISデータではない

遺跡地図をGISデータ化する

遺跡地図をデジタルとして扱うにはデジタル化が必要であるが、画像のデジタル化のみでは用をなさない。デジタル化された画像データではなく、GISデータにする必要がある。そのため、紙・PDFとGISデータに壁があり、機械可読なGISデータに変換していく必要がある(画像 遺跡地図のデジタル化)。

位置情報が付加されていないPDFは、GISデータではない。そのため、PDFからいかにGISデータにしていくかが肝となる。GISデータにできれば、プロセス自体も変革でき、業務の効率化・高次化が可能となる。

ベクトルデータであれば、GISデータ化することも可能である。下記の手順が参考となる。

  • 武内樹治 2024 「Illustratorで作成した遺跡地図や遺構図をGISデータ化する」 『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用』 遺跡地図・3D・GIS・モバイルスキャン・デジタルアーカイブ・文化財防災 https://sitereports.nabunken.go.jp/online-library/report/26
  • 林 正樹 2025 「イラストレーターから QGIS へのデータ移行手法の一例」 『デジタル技術による文化財情報の記録と利活用』 XR・LiDAR・3D・デジタルアーカイブ・知的財産権 https://sitereports.nabunken.go.jp/online-library/report/60図 遺跡地図のデジタル化

微地形表現図と遺跡地図

林業や治山における地形データの公開が加速している。国土地理院による地形データ公開も2025年3月31日には提供範囲を大幅に拡大し1mメッシュで約46%となり、日本全国の広範囲のデータを提供している(3)。不動産取引においても、国土交通省が不動産情報ライブラリを2024年4月より運用開始している(4)。

文化財分野においては、近年は、微地形表現図の公開により市民による遺跡発見が相次いでいる。しかし、未知を発見するには既知を把握しておく必要があり、既知情報の公開が不可欠である。

他分野において地理情報の公開が加速しているにもかかわらず、文化財分野だけが地理情報の公開が遅れることは、国土情報から社会的に文化財が抜け落ちていくこととなる。

文化財総覧WebGISの概要

不動産文化財データベース構想

奈良文化財研究所では1970年代からコンピュータ利用を模索し始めた。1990年代からは、不動産文化財データベース構想を検討した。不動産文化財に関する情報処理システムを構築し、各地の埋蔵文化財センターや教育委員会をオンラインで結ぶ構想である。不動産文化財システムの管理を奈良文化財研究所が担う構想である(画像 文化財情報システム概念図)。1995年には予算要求・定員増の要求がなされるが成就しなかった。しかし、遺跡データベースの運用を開始し、1994年から2019年までに約48万件の遺跡情報を整理した。

詳細は 高田祐一 2023「遺跡データベースの変遷過程:不動産文化財データベース構想を中心に」 『文化財論叢』奈良文化財研究所学報 https://sitereports.nabunken.go.jp/ja/article/121146  を参照されたい。

図 文化財情報システム概念図

文化財総覧WebGIS

文化財総覧WebGIS(以下「総覧WebGIS」)は、奈良文化財研究所が2021年7月に公開したインターネット上で文化財情報を検索・閲覧できる地理情報システムである(https://heritagemap.nabunken.go.jp/)。従来、文化財に関する膨大な調査報告は電子公開が進められてきたが、位置情報と結び付けた検索や可視化は十分ではなかった。総覧WebGISはこの課題を解決し、文化財を地域と結び付けて把握できる新しい仕組みとして開発された。

総覧WebGISは次の意義がある。

地域の文化財の再発見と教育

地域住民が自らの生活圏にある文化財を知ることで、郷土学習や地域振興に役立つ。学校教育でも地域学習の教材として活用でき、文化財を通じた理解促進が期待される。

地域資源としての活用

文化財分布や土地利用の変遷を把握することで、防災計画や地域づくりの基礎情報として利用できる。

学術研究基盤

登録件数は約68万件に達し、文化財種別や時代条件などで検索可能な全国初のWebGISである。統一フォーマットによるビッグデータとしての整備は、考古学・歴史学・地理学などの学術研究における基盤的役割を担う。

登録データの内容

総覧WebGISには全国の文化財データが登録されており、全国遺跡報告総覧から週次で自動連携されている。背景地図、文化財情報、他分野の各種情報を統合的に表示できる(図 文化財総覧WebGISの主なデータ)。

主な機能として下記がある。

検索機能

都道府県・文化財種別・時代など条件指定による検索が可能であり、例えば中世城郭の分布を一目で把握できる。

背景地図との重ね合わせ

兵庫県が提供する1mメッシュCS立体図や、平城宮跡の発掘成果図を重ねることで、地形と遺跡の関連を直感的に分析できる。

報告書との連携

文化財報告書が電子公開されている場合、検索結果から直接リンクして閲覧可能である。これにより、地図上の情報と詳細な調査成果を行き来できる。

表示状態の再現

URLハッシュによって、地図の位置・縮尺・検索条件など6項目を保存・共有できる。研究者や教育現場での共同利用を容易にする仕組みである。

相互リンク機能

全国遺跡報告総覧から総覧WebGISへ、あるいはその逆方向へのリンクが設けられており、利用者はシームレスに両者を行き来できる。

今後の展望と意義

従来は文献を読み込み位置を復元する必要があった文化財研究が、総覧WebGISによって直感的かつ効率的に進められるようになった。今後は地域住民にとって文化財をより身近にし、学習・防災・観光・研究といった多面的な活用が期待される。文化財の位置情報を社会全体で共有し、活用する仕組みとして総覧WebGISは大きな一歩を示している。

特にWebGISで表示されているということは、一定の統一フォーマットに変換し取り込んでいることに成功したということである。今後は表示のみではなくそれの再利用が今後の課題となる。なお、登録機関については、Web入力した内容であっても一括で統一されたフォーマットでのGISデータとしてのダウンロードが可能である。

文化財総覧WebGISの遺跡地図対応

総覧WebGISが直面する大きな課題の一つが「遺跡地図データの陳腐化」である。遺跡範囲データの大半が、2000年代に刊行された遺跡地図のトレースデータである。かつて奈良文化財研究所が独自にトレースしたものである。そのため、現在の遺跡地図に比べると陳腐化しており、またトレース時の誤りによって現況と整合しないケースが生じている。

この課題を解決するため、「遺跡地図の順次搭載・入れ替え」を進めている。総覧WebGISでは、遺跡地図GISデータを登録すれば名称など主要項目を簡易にマッピングし検索対象とする仕組みを導入済みである。最新データに入れ替えたのちは陳腐化データの整理などを実施する。

膨大な文化財情報を紐づける

日本では膨大な調査成果が積みあがっているが、有機的には繋がっていない。例えば、とある不動産文化財のその場所に、庭園・地下遺構・石垣・建造物があれば、行政的には、名勝であり、史跡であり、埋蔵文化財であり、重要文化財であったりする。それぞれの分野から報告書が出される。調査組織も、市町村・都道府県調査組織(文化財課、埋文センター)・大学・研究所等の様々な組織が調査し、報告書を刊行する。

それらの成果を統合するのは、人間が時間をかけて報告書を探し、収集し、読み込み、それぞれの成果を繋ぐのである。そのようなあり方は、情報量が累積していく現在・未来にあたっては持続可能性がない。

せめて各成果をすべて紐づけし、自動で芋づる式にたどれれば非常に便利であり、網羅的な収集が可能となる。

Monument(遺跡) - Event(調査) - Report(報告書) として体系化し、名寄せ処理によって遺跡ごとにオリジナルIDを付与することによって文化財類型や調査組織を超えた情報の紐づけが可能となる。


図 Monument情報の目録化

図 文化財情報の紐づけの流れ


図 遺跡の名寄せ(詳細)


図 全国文化財目録の画面

今後の動向

データファースト

遺跡は土地に根差したものであるから、GISデータはマストである。研究・業務の効率化・高次化を実現するためにも画像としての地図は、廃していく必要がある。誰かがGISデータを画像にした場合、後工程の人間はGISデータを使えない。未来の担当者・市民も使えないのである。

画像をGISデータ化するには、再度大きなコストがかかる。

遺跡地図GISデータ化の加速

個人的見通しだが、2030年頃には遺跡地図のGIS化が都道府県レベルで進むだろう。GISデータの基本項目は、データとして扱うためには「みんな違ってみんな良い」ではないので、徐々に標準化に向けて収れんしていくのが望ましい。各地域固有の必要情報はオプションとして追加するのが望ましい。


(1)国土交通省 土砂災害防止法の概要 https://www.mlit.go.jp/river/sabo/dosyahou_review/01/110803_shiryo2.pdf

(2)国土交通省砂防部 土砂災害警戒避難ガイドライン https://www.mlit.go.jp/common/001087388.pdf

(3)国土地理院 1mメッシュ(標高)の提供範囲を一挙に拡大します https://www.gsi.go.jp/gazochosa/gazochosa61005.html

(4)国土交通省 「不動産情報ライブラリ」の運用を開始します~スマートフォンで「誰でも」「簡単に」不動産に関するオープンデータの閲覧ができます https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo17_hh_000001_00032.html 


引用-システム内 :
引用-システム外 :
Cultural data online report map :
高田祐一「遺跡地図公開の現状と文化財総覧webGIS」『古代寺院3DGIS科研研究集会「遺跡地図GISの現在地」予稿集』 - 「土砂災害警戒避難ガイドライン」-周知の方法
高田祐一「遺跡地図公開の現状と文化財総覧webGIS」『古代寺院3DGIS科研研究集会「遺跡地図GISの現在地」予稿集』 - 「土砂災害警戒避難ガイドライン」-ハザードマップの周知と活用方法
高田祐一「遺跡地図公開の現状と文化財総覧webGIS」『古代寺院3DGIS科研研究集会「遺跡地図GISの現在地」予稿集』 - 遺跡地図のデジタル化
高田祐一「遺跡地図公開の現状と文化財総覧webGIS」『古代寺院3DGIS科研研究集会「遺跡地図GISの現在地」予稿集』 - 文化財情報システム概念図
高田祐一「遺跡地図公開の現状と文化財総覧webGIS」『古代寺院3DGIS科研研究集会「遺跡地図GISの現在地」予稿集』 - Monument情報の目録化
高田祐一「遺跡地図公開の現状と文化財総覧webGIS」『古代寺院3DGIS科研研究集会「遺跡地図GISの現在地」予稿集』 - 文化財情報の紐づけの流れ
高田祐一「遺跡地図公開の現状と文化財総覧webGIS」『古代寺院3DGIS科研研究集会「遺跡地図GISの現在地」予稿集』 - 遺跡の名寄せ(詳細)
高田祐一「遺跡地図公開の現状と文化財総覧webGIS」『古代寺院3DGIS科研研究集会「遺跡地図GISの現在地」予稿集』 - 全国文化財目録
NAID :
都道府県 :
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文化財種別 :
史跡・遺跡種別 :
遺物(材質分類) :
学問種別 : 考古学 情報学
テーマ : 活用手法
キーワード日 : 不動産文化財 遺跡地図 GIS 微地形表現図 文化財総覧WebGIS 名寄せ 不動産文化財 発掘調査報告書
キーワード英 :
データ権利者 : 高田 祐一
データ権利区分 : クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
この 作品 は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。
総覧登録日 : 2025-08-15
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