古代「三河型甕」考
北村 和宏
愛知県下の奈良・平安時代の遺跡を発掘調査すると、旧三河国域を中心に「三河型」甕、清郷型鍋などと呼称される独特の土師器甕が数多く出土する。この小稿ではこれらの土師器甕を一連のものとして捉え直し「三河型甕」と総称し、その型式分類・編年を行なった上で、その出土遺跡の分布について整理・検討を加えた。その結果、8~9世紀代においては三河国の国境を境に排他的な分布を示し(第Ⅰ段階)、10 ~ 11 世紀代になると周辺諸国へと分布域が拡大する(第Ⅱ段階)ことが知られた。そしてその時期別の分布が意味するところについて、第Ⅰ段階については三河型甕の生産・流通に“三河国”の関与を想定し、第Ⅱ段階への変移については、隣接する猿投窯などの窯業生産の動向を勘案し、10 世紀初頭を機に大きく転換する新しい律令国家の地方支配方式の確立がその背景にあるのではないかと推察した。