栃木県出土早期縄文土器の胎土分析研究における土器型式の認定について
中村 信博
( NAKAMURA Nobuhiro )
2011年刊行の本紀要第19号において、「栃木県縄紋時代草創期・早期土器の胎土分析(予察)」(小林謙一ほか2011)、翌年には、『国立歴史民俗博物館研究報告第172集』において「栃木県出土縄文早期土器の岩石学的手法による胎土分析」(河西学2012)の二つの論文が発表された。詳細についてはここでは触れないが、前者では、本県における草創期・早期土器の胎土の大局的な傾向が指摘され、さらに後者では花崗岩類主体の胎土の存在が明らかにされた。今後両論文の成果は、該期の基準的なデータとして活用されることが期待されるが、分析資料の土器型式の認定においていくつかの誤認等が認められた。その後、本紀要の編集に関わる塚本師也氏を介して両論文の執筆者間で協議が行われ、筆者が資料を再検討することになり、自身の視点で型式認定を行った。
対象となるのは、両論文でともに「第3図」として掲載されている破壊資料の16点の土器で、本稿の第1図に転載したものである。検討は、図および河西氏から送付されたカラー写真をもとに行っており、現物を実見したうえでのものではない。扱われている遺跡は、以下の4遺跡である。
・宇都宮青陵高校地内遺跡(宇都宮市) 井草Ⅰ式期の集落。他に、井草Ⅱ式、夏島式、稲荷台式が出土。
・山崎北遺跡(宇都宮市) 夏島式期の集落。他に、少量の井草Ⅰ・Ⅱ式と多量の天矢場式が出土。
・市ノ塚遺跡(真岡市) 稲荷台式期の集落。他に、夏島式、稲荷原式が出土。
・間々田六本木遺跡(小山市) 夏島式期の集落。
今回の検討を通して感じた問題点二つと、今後の展望を記してまとめとしたい。問題点の一つは、分析資料として適切な土器が選ばれていないという点である。宇都宮青陵高校地内遺跡は、今のところ本県では唯一の井草Ⅰ式期の集落遺跡であり、井草Ⅰ式の胎土分析には格好の資料が出土している。ところが分析資料には、明らかにⅠ式と認定できる口縁部破片が含まれていない。このため、少量出土している井草Ⅱ式と分離することができず、時期を限定できないのが残念である。二つめは、山崎北遺跡や市ノ塚遺跡の土器を井草式としており、型式認定に初歩的なミスが見られる点である。以上のようなことを避けるためにも、分析資料の選別にあたっては、該当する時期の研究者が一度は目を通すようにすることをお勧めしたい。
一方、今回の河西論文で提唱された花崗岩類主体の胎土は、本県を含む北関東東部の撚糸文系土器群の特徴の一つが明らかにされたものとして、高く評価されるものである。石英や長石の粒を多く含むこの特徴的な胎土は、本県や茨城県の撚糸文土器ではよく目にするものであり、天矢場式に受け継がれる要素として筆者も注目してきたが(中村2002)、今回の河西氏の検討によりそれが科学的に明らかにされたことになる。今後の展望としては、撚糸文系土器群の各個型式について分析を行うことにより、この胎土がいつ成立し、いつ盛行するのか、さらにはその広がり(分布圏)が明らかにされることを期待したい。北関東の撚糸文文化は、石鏃・スクレイパー等の剥片石器や三角錐状石器を一定量保有するなど、石皿・スタンプ形石器主体の南関東とは異なる内容が予測されるが、花崗岩類主体の胎土を追及することにより、それが一層明確化する可能性があるからである。
対象となるのは、両論文でともに「第3図」として掲載されている破壊資料の16点の土器で、本稿の第1図に転載したものである。検討は、図および河西氏から送付されたカラー写真をもとに行っており、現物を実見したうえでのものではない。扱われている遺跡は、以下の4遺跡である。
・宇都宮青陵高校地内遺跡(宇都宮市) 井草Ⅰ式期の集落。他に、井草Ⅱ式、夏島式、稲荷台式が出土。
・山崎北遺跡(宇都宮市) 夏島式期の集落。他に、少量の井草Ⅰ・Ⅱ式と多量の天矢場式が出土。
・市ノ塚遺跡(真岡市) 稲荷台式期の集落。他に、夏島式、稲荷原式が出土。
・間々田六本木遺跡(小山市) 夏島式期の集落。
今回の検討を通して感じた問題点二つと、今後の展望を記してまとめとしたい。問題点の一つは、分析資料として適切な土器が選ばれていないという点である。宇都宮青陵高校地内遺跡は、今のところ本県では唯一の井草Ⅰ式期の集落遺跡であり、井草Ⅰ式の胎土分析には格好の資料が出土している。ところが分析資料には、明らかにⅠ式と認定できる口縁部破片が含まれていない。このため、少量出土している井草Ⅱ式と分離することができず、時期を限定できないのが残念である。二つめは、山崎北遺跡や市ノ塚遺跡の土器を井草式としており、型式認定に初歩的なミスが見られる点である。以上のようなことを避けるためにも、分析資料の選別にあたっては、該当する時期の研究者が一度は目を通すようにすることをお勧めしたい。
一方、今回の河西論文で提唱された花崗岩類主体の胎土は、本県を含む北関東東部の撚糸文系土器群の特徴の一つが明らかにされたものとして、高く評価されるものである。石英や長石の粒を多く含むこの特徴的な胎土は、本県や茨城県の撚糸文土器ではよく目にするものであり、天矢場式に受け継がれる要素として筆者も注目してきたが(中村2002)、今回の河西氏の検討によりそれが科学的に明らかにされたことになる。今後の展望としては、撚糸文系土器群の各個型式について分析を行うことにより、この胎土がいつ成立し、いつ盛行するのか、さらにはその広がり(分布圏)が明らかにされることを期待したい。北関東の撚糸文文化は、石鏃・スクレイパー等の剥片石器や三角錐状石器を一定量保有するなど、石皿・スタンプ形石器主体の南関東とは異なる内容が予測されるが、花崗岩類主体の胎土を追及することにより、それが一層明確化する可能性があるからである。