遠江・駿河の頸部を呑み込む矢柄をもつ鉄鏃の意義 ―無茎式・短茎式鉄鏃との比較を通じて―
大谷 宏治
古墳時代後期以降、西日本では弥生時代から継続的に用いられた無頸式鉄鏃(無茎式・短茎式を総称)が衰退し、鉄鏃組成から減少・欠落する。一方で、遠江・信濃以東の東日本では古墳時代後期以降も継続的に用いられるとともに、無頸式鉄鏃を模倣したと考えられる頸部を呑み込む矢柄をもつ鉄鏃(『頸部被鉄鏃』)が存在する。この「頸部被覆鉄鏃」は無頸式との副葬数、副葬状況などの比較から無頸式と同様の機能を有していたと考えた。このことから、東日本では無茎式の代用として、頸部被覆鉄鏃を無茎式として機能させていたと想定した。さらに、頸部被覆式鉄鏃の創出は消費者(使用者)側が古墳時代後期・終末期における無頸式鉄鏃の生産・流通数の減少を補うため、外見上工夫し、平根式鉄鏃を無頸式鉄鏃に見立てることで伝統的な祭祀に必要であった「無頸式鉄鏃」を意図的に創出したと考えた。